第2章 迷走 第3話

 隣の部屋に用意された「鳥獣の判別」の試験会場では、一度に六名の受験者が座席につくと、試験官から回答用紙が配布された。


「それでは、これから鳥獣の判別試験を行います。獣の絵をお見せしますので、狩猟獣か非狩猟獣かを判別して、狩猟獣の場合は回答欄に○印をつけ、種名まで書いてください。非狩猟鳥獣の場合は回答欄に×印をつけるだけで種名を記入する必要はありません」


「それでは、始めます」


 試験官は、幼稚園時代に先生が見せてくれた紙芝居のような用紙に狩猟獣が描かれているものを数秒間提示する。受験者がペンを動かし終わると、次の絵を見せる。


 私語は禁止されているが、日ごろから隣近所の受験者たちは、

「えぇ~、なんだっけ」

などと盛んに声を発する。


試験官は時折「静かにしてください」

と言いながら、試験を続けていく。 


 地元で子供の頃から一緒の生活している仲間たちで受けている試験だけに、どうしても緊張感が欠けてしまうのは、致し方ないことだろう。何度も繰り返す注意も、あまり効果はなかった。


 ちょっと難しかったのは、「オスイタチ」と「メスイタチ」であった。小さいのがメスなのだが、別々の絵で見せられるとどちらが大きいのかなどわかるはずもない。手助けになったのは、これも午前中に講師が説明してくれた絵の右下にあるスケールだ。


「試験では、ここを注意してみてください」と言っていたのは、このことかぁと納得したのはおそらく柴山一人ではなかったろう。


 すべてが終了すると、控室で合格発表を待つことになる。その日のうちに、結果を知らせてくれるのは、いかにも出前試験らしい。


 会場では、あの問題はどうだったとか鳥獣の判別ができなかったなどの会話が聞こえる。


 受験者の多くは、ほとんど祖父と同じ世代の人ばかりで、柴山と年齢的に近い人はほとんどいなかった。


 三十歳代と思われる人が数名いたが、着ている服装をみると、どうやら市町村の職員のようであった。二十歳代で受験しているのは、柴山一人だけだった。


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