第2章 迷走 第1話

 すでに大学院への進学を決めていた柴山であったが、あの講座以降、その進路希望が揺らぎ始めた。このまま大学院に進学して、研究者となっても爺ちゃんの畑を守れるような人材になれるわけではない。


 大学進学のときの志望の動機を思い起こすと、大学院はその動機の延長線上にないことがわかる。


 じゃ、あの専門学校ならどうなんだろうと頭を過ることもあったが、ここからの進路変更は容易ではない。


 それでも何かを学びたいと思い、居てもたってもいられず「ワナ」の資格取得をすることにした。少しでも実践的な何かが欲しかった。


 野生鳥獣を捕獲するためには、何をするにも資格が必要である。ワナや網を使って、捕獲する場合には、ワナ猟免許と網猟免許が必要となる。


 散弾銃やライフル銃を使って捕獲するには、第1種銃猟免許が、空気銃ならば第2種銃猟免許が必要である。


 狩猟免許試験は、住所地の都道府県で実施されている。柴山は、夏に帰省している時に地元で受験した。


 県では、被害対策の一環として被害農家にも捕獲を実施してもらおうという方針から、これまで捕獲のことなど全く知らなかった農家の人でも合格できるように、数年前から出前試験という方法を実施していた。


 午前中に、県の担当者から「鳥獣保護法に関する解説」と「猟具の取り扱い」、「鳥獣の判別」という講義形式の予備講習が行われ、午後に狩猟免許試験を実施するという流れで行われるのが出前試験だ。


 これだと、教える側も時間の関係から試験に出題される内容について触れるだけで時間が終わってしまうため、途中で寝たりしない限り、ほとんどの受講者が午後の試験で合格することができるわけだ。


 地域によっては、JAが受験を推進していたり、市町村によっては受験料の補助を行っていたりしていることもあった。


 柴山の実家がある地域では、一昨年にほとんどの農業関係者が同様の出前試験で免許を取得していた。

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