第1章 出会い 第8話

 自分に周囲からの視線が突き刺さる。


「お話しの途中ですが、失礼します。科学的な捕獲を理解して実施できる若い捕獲技術者とのことですが、具体的にはどういうことでしょう」


 なんとなく勢いで立ち上がってしまい、あわてて講師に向かって質問を投げかけてしまったが、気持ちとしては止めようがない何かに背中を押されたようであった。


「良い質問ですねぇ」というどこかで聞いたことのあるフレーズで、ようやく会場から笑い声があがった。


「大学で学ぶのは、野生鳥獣の生態や行動についてです。その知識に基づいて、どんなに良い対策案を作ったところで、捕獲を確実に実践できなければ、まさに絵に描いた餅に過ぎないということです」


 自分が思ったことと同じフレーズで答えられたことで、また一気に話に引き込まれていく。


「狩猟者に替わる捕獲従事者が現場に欠けているということを真剣に考えている人がまだいないというところが一番の問題なんです」


 そこまで聞いたところで、彼の後ろに座っていた教授が挙手した。


「狩猟免許を取得しても現場で使えるようになるまでには、五、六年は必要でしょう。そう考えると、人材育成はまさに急務となるでしょう。


 本校でも、サークル活動ではありますが、学生たちが狩猟者グループの行う捕獲に同行させてもらって技術を学ぶように取り組んでいる事例もあります」


 我々も考えて実践しているという気持ちが込められていて、おそらく学生が発言したら棘のある反論となったであろう内容であったが、そこはさすがに教授だけあって、喧嘩を売るようなニュアンスではない大人の発言であった。


「そうですね。その活動については、私も承知しています。


 しかし、残念ながら師匠と弟子という師弟関係で構成されている狩猟者の間では、五、六年かけても一人前の狩猟者を育てることは正直なところ難しいでしょう。


 『目で見て学べ』といった日本独特の伝承スタイルでは、残念ながら現在の鳥獣害対策には育成は間に合いませんし、そこで育成された狩猟者では現状の問題の解決に必要な捕獲従事者とは成り得ないでしょう。


 極論すれば、従来からの方法で必要な人材を育成しようとするのは時間の無駄ということです」


 さすがに、この発言には、教授も大人の対応の限界があったようで、

「それでは学生がかわいそうだ。捕獲のことは狩猟者に学ぶしかないじゃないか」とヒートアップした。


 一度は和みかけた会場の雰囲気が一気に冷めていくのがわかる。


「そうではありません。狩猟者から学べるのは『狩猟』に関することだけだということです。


 狩猟も確かに個体数調整において大きな役割を担っていますが、今必要なのは狩猟ではなく『科学的な捕獲』だと申し上げています」


 そこからの講師の話は、具体的な捕獲現場でどのようなことが行われているのかという実践論に入り、これまで知らなかった捕獲現場の様子が生々しく語られた。

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