第1章 出会い 第6話
そんな経験を思い出しつつ、これまで胸にひっかかっていた疑問や、学びへの意欲、さらにはこの講師に対しても興味が湧き上がり、一気に話に引き込まれた。
しかし、その後に続いた講師の言葉には、横っ面を張られたような嫌な気分にさせられた。
「皆さんの中にも、こういった対策に従事したいと思って大学に入学され、勉強されている方もいるかと思います。思いますが、正直なところ現場では全く役には立たないでしょう」
ざわざわとした声とともに会場の空気が、講師に対して棘のあるもののように瞬間的に変わった。
「俺だって、鳥獣被害対策に何かしら役に立とうと思って勉強しているのに、全く役に立たないってなんだよ」と思わず乗り出していた体を元に戻した。
期待していただけに、この突き放された一言は、一気に気分を不快にさせた。
そんな会場の雰囲気を全く気にせずに講師は話を続けた。
「すでに皆さんの先輩には、大学院で修士課程や博士課程を修了して、現場に関係している人もいるでしょう」
柴山が所属している研究室の先輩にも、シカやイノシシ、サルの専門家として行政に入っている人たちがいる。
「でも、その人たちの多くは、有期雇用の臨時職員であることを知っていますか」
昨年卒業した先輩は、市役所の鳥獣対策部門に採用されたが、二年間の期限付きの嘱託職員で、三年後には新たな職を探さねばならないと言っていた。
「行政側にも問題はあります。先例を重視するのが行政ですから、過去百年に亘って問題となっていなかった野生鳥獣による被害をどこが担当すべきなのか、良く聞く話ですが『たらい回し』にされてきた経緯もあります。
これまでに存在していなかった問題を誰が担当するのか。そのために新たにポストを用意したり、人材を雇ったりすることは、行政には条例を改正しなければならない非常にやっかいなことなのです」
『縦割り行政』や『たらい回し』という言葉は知っている。その結果、先輩達は腰掛けでしか雇用されていないのだということも理解できる。
「すでに、この十年間で多くの大学では、鳥獣被害対策の担い手の育成として狩猟学などの講義を開講し、人材を輩出しています。
その数は少ないとは言え、百人を超えるているでしょう。でも、この十年で被害対策は進みましたか。
進むというより、被害の拡大や野生鳥獣の生息数の増加や生息域の拡大という現状をみれば機能していないとご理解いただけるでしょうか」
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