第1章 出会い 第5話
学校から帰ると、畑の横には軽トラックが停まっていて、その横にはオレンジ色のベストと帽子を被った猟友会長が立っているのが見えた。
「じゃ、箱ワナを木村さんところの裏山にも置いたから、時々様子を見て、掛っていたら知らせてくれ」
「あぁ、ありがとう。世話をかけたなぁ」
「なぁに、気にせんで。でも、本当なら見回りまでやってやりたいところだけれど、人手がなくて、かえって申し訳ない」
「いやいや、すぐに来てもらってありがたい限りです」
「じゃ、よろしく」
猟友会長は軽トラをUターンさせると、県道方向へと坂道を下っていった。
「おぉ、啓太。おかえり」
「ワナを仕掛けたの」
「あぁ、さっき会長さんが来てくれて、一緒に箱ワナを裏山に仕掛けてきたところだ」
「へぇ。ワナってどんなの」
「まぁ、明日の朝に見回りに行くから、その時にでも見ればいいさ」
「うん。会長じゃなくて爺ちゃんが見回るの」
「あぁ、猟友会も人手不足で、今じゃ会長とあと五、六人しかいない。会長以外の人は、勤め人だから、毎日というわけにはいかないから、見回りくらいは自分でやらないとなぁ」
翌朝、見回りのことなど忘れていたが、朝食に階段を下りていくと、爺ちゃんから声をかけられた。
「啓太、見回りに行くか」
あぁ、そうか。ワナの見回りに行こうって言ってたんだった。
「うん」
「じゃ、早く朝飯を食え」
「わかった」
慌ただしく、朝食を終えると学校に行く準備をして、そのまま自転車と一緒にカバンを爺ちゃんの軽トラの荷台に乗せ、ワナの見回りに向かった。
箱ワナは、入口が縦一メートル、横一メートル、奥行きが二メートルの鉄製で、一方は塞がれていて、もう一方の入り口には、落とし扉がついている。
落とし扉からのびた細いワイヤーがワナの奥へと伸び、そこでちょっとした仕掛けにつながっている。
その下には、米ヌカが置かれていて、イノシシが餌を食べようとワナに入って、この仕掛けに触れると落とし扉が落ちる仕組みになっていた。
「入ってないなぁ・・・」
「残念だったね」
「あぁ、昨日の今日じゃ無理だろう。しばらくは、我慢比べだ」
「じゃ、学校へ行ってくる」
「おぉ、気をつけてな」
軽トラの荷台から自転車とカバンを下して、学校へ向かったが、結局それ以降もイノシシはワナにかからず、翌年からは畑の周りに電気柵を設置することになった。
しばらくは被害がなかったが、啓太が高校生になった年にはまたやられてしまった。今では、爺ちゃんも、もう作物をつくるのを諦めようかと思っているようである。
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