第1章 出会い 第4話

 中学生の時、一晩で実家の畑がイノシシに荒らされた時のことを思い出した。


 学校に行く準備を整え、朝食を食べているところに、畑の見回りに出かけていた爺ちゃんが、顔を真っ赤にしながら戻ってきて、「シシにやられた。畑が全滅だ」と叫んだ。


 会社勤めしている父は、「そうなんだ」と人ごとのような反応であった。


 そんな息子の様子を苦々しく思いながらも、爺ちゃんは電話をとって役場に連絡を入れていた。


「・・・じゃ、よろしく頼みます」


 と電話を切った時には、父親は会社に行くためにガレージの車に乗り込み、すでにエンジンをかけて出かけるところだった。


「隣の木村さんとこもやられたそうだ。役場から猟友会長のところへ連絡を入れてくれることになった」


「そう・・・」

 心配そうな顔つきで、母親が爺ちゃんの話に耳を傾けている。


「かなりやられたの」

 と爺ちゃんに聞いてみる。


「あぁ、全滅だ。今日か明日には、収穫しようと思っていたんだがな・・・」

「そうなんだ」


 農家とはいえ、父親は会社勤め、母親はパートにでていて、畑や水田を管理しているのは六十歳を超えた爺ちゃん一人だ。


 農業収入だけで生活できるような状況ではなく、父親などは「そろそろ親父も農業をやめて、畑は人に貸せばいいのに」と言っていることを啓太は知っていた。


 登校途中、被害のあった畑の横を自転車で通りながら見ることができた。


 昨日までは、明日には収穫だなぁと子供にもわかるように熟した野菜が青々としていた畑が、一面耕運機で耕したように掘り返されていた。


 耕運機と違うのは、機械なら畑の形に沿って、直線的に跡がつくのに、今、目の前に広がる掘り返しは、無秩序に、そして乱暴にその跡を残していた。

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