第4話 導師様と大臣

壁際に蝋燭が並ぶ薄暗い導師室。

先ほどまで世話役たちから導師様と呼ばれ、敬われていた女性の姿はない。ドレスこそ変わらないものの、ヴェールを外し、床に膝をついた深い礼の姿勢をとっている。女の長い髪が顔の両側に垂れ、表情を窺い知ることはできない。

その女性の前には、高級そうなグレーのスーツに身を包んだふくよかな体つきの中年男と細身の黒いスーツにベージュのコートを羽織ったままの若い男が立っていた。


「計画はどうなっている?」

若い男が鋭く尋ねた。中年男は額に汗を浮かべながら、引き攣った笑みを浮かべた。

「万事恙無く、と申し上げたいところですが、目標よりは少々集まっていないかと。何分、育成期間が必要でして、検証に値するサンプル数に達していないので。」

ちらと女を見下ろしながら、中年男が慌てて言い訳を口にする。


若い男が、ふんと鼻で笑った。

「お前から見て計画の進捗度はどうだ?導師として崇められることで、少しは動きやすくなったか?」

導師と呼ばれたのは先ほどから跪いている女だ。

「確かに予定より遅れているように見えるかもしれませんが、私、本日素晴らしい力を持つ生贄を見つけました。規定より若いのが難点ではございますが、しばらくは持つかと。」

3人の間には若い男を中心とする主従関係があるようで、女は顔をあげないまま答えた。しばらく沈黙が続き、薄暗い部屋の中には蝋燭が無音でその炎を揺らめかせた。


「古老たちからの探りが増えている。」

唐突に男が言った。

「計画を早めに進行したい。いくら魔術で隠蔽したところで、余計な邪推をされるだろう。ここで手をひいては意味がないからな。」

「仰せのままに。魔術に科学を融合して、世界の覇権をとろうなどという計画を彼らが承知するわけがありませんからな。」

ニヤリと悪どい笑みを浮かべて中年男がつぶやく。

「引き続き、ここの管理と生贄の育成を任せるぞ。便宜は図ろう。」

ドレスの女が一瞬顔を上げ、中年男を見上げた。そのまま横にいる若い男に視線を向ける。男が無言で頷くと、女は納得したように再び礼の姿勢をとった。

「確かに承りました。全てをラミーリヤ様のために。」


しばらくして女が顔を上げた時には、部屋には他に誰の姿もなかった。ドアを開けて側仕えを呼び入れ、就寝の準備と火の始末を命じる。


「期待していますよ、98番。私の愛しい生贄の子。」

寝台の支度を整える側仕えに聞こえない小さな声で女はつぶやいた。

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