第3話 最上級組と中央塔

部屋を出ると、先ほどとは違う世話役が立っていた。やはり壁と同じ灰色だが襟に黒い線が入った制服を着ている。初めて見る服装だ。

「番号は?」

冷たい声で問われ、導師様に褒められて篭っていた熱が急速に引いていくのを感じた。普段の世話役は僕たちに必要以上に接しないようにしているものの、口調は丁寧だ。名前にはきちんと、「様」をつけて呼んでくれるし、物腰も柔らかい。黒線の世話役は明らかに異質だ。

「わ、私は98番です。」

「98番か。明日より、私が其方の指導係を担当するよう命じられている。今日の夜から部屋も変わる。質問には答えぬゆえ、黙って付いて来なさい。」

そう言うと、黒線の世話役はさっさと廊下を歩き出してしまった。慌てて後ろに続く。


灰色の壁の迷路を進む途中で数人の世話役たちとすれ違ったが、いずれも黒線の世話役に道を譲って、礼をしている。今日までの日常では見受けられなかった光景だ。導師様に呼び出された今日の午後の時点では考えられないくらい世界が変わっていると驚きながら、初めて歩む廊下を見渡しながら歩いていると、不意に前を行く黒線の世話役が振り向いた。

「98番、表情。姿勢。」

冷たく告げて、また歩き出す。

気をつけなければ、導師様に報告されて罰を与えられるかもしれない。2回目の進級以降、感情をコントロールし、人から見える範囲では表情や視線、動きに細心の注意を払うよう命じられ、世話役たちに厳しく躾けられて来た。罰を回避して、快適な部屋で過ごすためには、子供達同士の会話をしないことと同じくらい大切なことだったのだ。他の子達に比べると、僕は少し取り繕いが苦手だったので、地下に閉じ込められた記憶が多い。

「気をつけます。」

軽く礼をしている間にも黒線の世話役は進んでいく。


少し開いた距離を急いで詰めて、後に続くと、壁の色が突然灰色から黒に変わった。

「ここからお前の新しい部屋と仕事場がある中央塔だ。そして、ここがお前の部屋だ。明日、鐘とともに起床し、身支度を整えて部屋の前に立ち、私を待っているように。良いな。」

「はい。かしこまりました。」

礼をして顔を上げた時には、すでに廊下に人影はなかった。いつまでも立っているわけにもゆかず、指示された部屋のドアを開ける。今までの部屋は複数人で共有していたが、今度からは一人部屋らしい。鍵はないものの扉も付いている個人の空間だ。態度や表情を少し緩められることに安堵し、中に入る。

用意されていた蝋燭を灯し、体を清め、ベッドに入る。

ふとこの部屋には窓がないことに気づき、壁のキラキラがもう見えないのだと悲しい気分になったが、すぐに眠気の波がやって来た。僕は目を閉じ、黒の世界に落ちていった。




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