第129話 vs 作明高校 前半
試合後、ロッカールームで佐倉中央は浮かれる訳でもなく次を見据えていた。
広瀬「別会場で行われた試合の結果、我々と3回戦で対戦するのは作明高校となりました。」
吉沢「ご存知の通り、昨年我々と共にプレーをしていた高岸かれん選手が所属している高校です。」
千景「ということは、私たちの戦術とかは殆ど筒抜けになってるってことだね?」
後藤「恐らくはな。かといって1年生を多く使って真新しいことをするというわけにもいかない。作明は非常に攻撃的なチームだからこそ守備はとても重要な要素になる。だが、失点は覚悟の上で攻撃も忘れずに行きたい。」
例の如く配られた作明のメンバー表にチェックが付けられていた選手の中にはコメントが書かれている選手もいた。
高岸かれん:2年SMF 166cm クロスやパス、ポストプレーを得意とするプレーヤー。シュートテクニックも気をつけたい。背番号7
大徳玲緒奈(だいとくれおな):1年GK 175cm
熱血プレーと気合いで身体を張りゴールを守る。ハイボール処理を得意とする。背番号18
椎葉希亜(しいばのあ):2年CF 162cm
作明のエースストライカー。高岸かれんとの相性が良くゴールを量産する。右利き 背番号16
空隈しの(からくましの):3年DMF 153cm
作明を取りまとめるアンカーかつキャプテン。幅広い視野を持ち、ゲームをコントロールするだけでなく、自らドリブルでシュートまで行けるほどの技術も併せ持つ。背番号4
明日羽ひまわり(あすばねひまわり):1年CB 149cm 作明の小柄なスイーパーだが、まさに
“詰まってる”身体であり、大柄な選手にも当たり負けしないフィジカルを持つ。背番号2
伏宮夏(ふしみやなつ):3年 OMF 160cm
空隈との作明ヴァーティカルは全国屈指のホットライン。様々なパターンの攻撃で守備陣を崩壊させにかかる。背番号9
後藤「ここが一つの天王山だ。次の試合が年内最後の試合だ。ここで勝って準々決勝、準決勝、決勝と破竹の勢いで行こう!」
空隈「高岸、要注意選手が佐倉中央は多そうだけど、特に注意するべき選手は?」
かれん「…難しいですね。願わくば全員と言いたいですが、間違いなく注意すべきなのは10番と17番の赤井姉妹と11番の鈴木千景です」
伏宮「三人だけ?しかも全員攻撃陣ぽいけど守備はそんなにザルなの?」
かれん「そういうわけではありませんが…。」
空隈「?」
かれん「私たちにとっては取るに足らない守備陣だと思いますから。」
大徳「いいっすね!ビッグマウス!」
かれん「ううん、事実。去年までは凄く大きな壁があったけど今はそうでもない。最初で最後の対決、負けるわけにはいかないから…。」
椎葉「かれんは完全にうちら側ってわけね。よし、そんなら絶対に佐倉中央を潰そう。」
岡山で行われているミーティングでは既に闘志に火がついていた。
水田「さて、どちらが強いか見ものですね!」
水田は眼前の試合を記録するためにPCを立てて特等席に座っていた。
【皇后杯で最後の高校対決】
そのタイトルに合うような試合を文章で記録するため、今日は珍しくカメラを用意していないようだ。
両チームのスタメンは以下の通り。
佐倉中央(攻め方向↑)
GK:23 メアリー DF:15 悠香 MF:19 伊織
DF:4 美春 MF:6 萌 MF:9 梨子
DF:14 樹里 MF:13 柚月 FW:17 つかさ
DF:2 真希 MF:7 花
つかさ
花 伊織 梨子
萌 柚月
美春 樹里 真希 C 悠香
メアリー
作明(攻め方向↑)
椎葉
○ 伏宮 かれん
○ 空隈 C ○
○ 明日羽 ○
大徳
後藤「いいか、今日のGKのスタートはメアリーだ。失礼かもしれないが、正直なところ失点は覚悟しているし、乱打戦になるかもしれないが、守備は前線からしっかりしてワンチャンスを逃さない。相手も同じ高校生だ、プロよりかは絶対に戦いやすいはずだ。勝つぞ!」
グラウンドでは花とかれんが真正面にマッチアップする形となった。
かれん「くれぐれも、手は抜かないでね。」
花「言うようになったね。そっちこそね。」
先行は作明。伏宮がボールをセンターサークルに置き、ホイッスルの音を聞くと一気にボールを右サイドに展開した。
美春「行きます!」
美春はボールを見上げてヘディングで跳ね返そうとしたが、その前でかれんが胸でトラップするとそのままアーリークロスを上げた。中にいる作明の選手は椎葉だけであったが、その頭にピッタリのクロスが弧を描いて飛んできた。しかし、そのボールはするするっと飛び出したメアリーが落ち着いて胸に抱えてピッチに倒れ込んだ。
後藤(いきなり怖いプレーから始まったな…かれんとあのFWの相性は相当良さそうだな。)
しかし、後藤の不安とは裏腹に佐倉中央は思ったよりも早く流れを掴み始めた。
12分、ビルドアップから柚月がボールを受けると明日羽とSBの間を通す長いスルーパスを送ると花が抜け出してボールをキープした。
花(中の枚数は足りてない。ドリブルで仕掛けるとしても得点に繋がる確率は低いけど…)
内側を切るSB、後ろからはCMFもサポートに入れる距離まで迫っている。花は上半身でフェイクを入れて右足のアウトサイドでボールを転がし、SBとの駆け引きを制すと寄せてきたCMFの股の間をもう一度右足アウトサイドで転がして抜き切る。連続のテクニックに会場の声は大きくなる。そして左足で地面を強く踏み込みインフロントでボールを擦り上げると、GKの大徳の伸ばした手を掠めてゴールネットを揺らした。勢いそのままに花はジャンピングガッツポーズを決めて喜びを爆発させた。
明日羽「すみません。裏取らせてしまって。」
大徳「自分も準備しきれてなかったっす…。」
空隈「まだ始まったばかり。すぐ取り返そう」
試合が再開すると、作明は打って変わって速いパスサッカーを展開し始めた。空隈が自陣からボールを運ぶと伏宮がするするっと前線に走り、二人の目が合った瞬間に空隈がバックスピンをかけたパスを出した。樹里は完全に裏を取られ、伏宮が即座にシュートを放つが萌がブロックしてラインを割った。
つかさ(これが作明ヴァーティカル…!)
佐倉中央のピンチはまだ続く。作明のCKでボールをセットしているのはかれん。
かれん(私だって進化してること見せてあげる)
長めの助走から蹴られたボールは皮肉にも先ほど花が蹴った軌道と似ていた。
メアリー(キャッチしなきゃ…!)
飛び出そうとしたメアリーであったが、椎葉がそれを許さずゴールライン上に残されたまま。ボールは反対側のゴールポストを叩いてゴールに吸い込まれた。かれんはその場で拳を握って天高く雄叫びを上げた。
後藤(分かっていたことだが、もうあの頃のかれんはいないな。)
佐倉中央はそれに萎縮してしまったか、彼女達らしくない消極的なプレーが続く。自陣でボールをロストしてピンチを幾度となく作ってしまった。29分にはかれんにボールを回収されるとそのまま縦パスを出され、抜け出したFWの椎葉に完璧なループシュートを決められてあっという間に逆転されてしまった。悪い流れは前半終了間際まで続き、40分には作明陣内からの空隈の縦パスに反応した伏宮がメアリーの股を通すシュートで1-3とスコアを突き放した。そして待ち侘びた前半終了のホイッスルが鳴ると、選手は逃げるように控え室に向かった。
後藤「いくらなんでも弱気すぎないか?どうしてそんなに逃げ腰なサッカーをしてる?」
メンバーは黙って後藤の顔を見つめるだけ。
後藤「DFラインが空きすぎている。だから縦パスを簡単に通されてしまう。1点目は仕方のないが他は自分たちの守備の問題だ。まずは得点のチャンスを作ることだ。変更はなし。」
メンバーは後半に切り替えるためのハイタッチを交わしてピッチに向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます