第123話 ここからがスタート
試合が再開すると、佐倉中央は左サイドを起点として攻撃に厚みを持たせた。溝呂木は守りを固めにきていたが、少しずつ攻め入られるようになってきた。30分を回った頃につかさから花にボールが渡ると、なんと多留は自らのポジションと真逆の左サイドまで守備をしに来た。
多留(もう…怖いじゃないですかぁ〜!守備しっかりしてもらわないと…)
花(嘘でしょ!?)
慌てた花は前線の瑞希に向けてパスを送った。
瑞希(ちょっ!?ボール速すぎない!?)
ペナルティエリア外でCBのマークに付かれている瑞希に送られていたボールはシュートを撃つにしては高く、ヘディングをするにしては低かった。
瑞希(一か八かだけど、シュートを撃たないと入らない!)
胸でボールをトラップし、くるりと身体を入れ替えてCBのマークを少しズラすとそのまま右足を振り上げた。
女鹿口(初心者がオーバーヘッドなんて出来るわけないのです!)
しかし、その考えとは裏腹にボールはジャストミートしてドライブ回転がかかってゴールへと向かう。GKは呆気に取られてただボールの行先を見ていた。ボールはバーに当たるとそのままゴール内に吸い込まれた。会場が大歓声に包まれると瑞希はゴールにあるボールを拾い、大きく手を振って佐倉中央にもっと盛り上がるようアピールした。
瑞希「ここから!ここからがスタートだよ!」
「すっご!女子であんなシュート撃てるの!」
「佐倉中央ー!逆転できるぞー!」
多留「おしょろしいシュートでしたねぇ〜!」
女鹿口「何を言ってるのです!DFもまるでダメなのです!私はDMFにポジションを落とすから他は守りよりも攻撃に徹するのですよ!」
多留「はい〜」
女鹿口(たまたま入っただけなのに…許せないのです。絶対に叩き潰してやるのです…!)
試合が再開すると溝呂木は細かくパスを繋ぐスタイルで攻撃を組み立て始めた。しかし、女鹿口が攻め上がらなくなってからというものの、守備の入口にいるつかさとつばさの両ボランチに阻まれて逆にカウンターを喰らうことが多くなっていた。前半終了間際、梨子が悠香にバックパスを送ろうとしたが、パスミスでボールが二人の間に残ってしまった。そこに多留が漬け込み、一気に一人で持ち上がった。
真希(強引に止めたいけど流石にカードは貰えない…!)
緩い守備を多留は易々と通り抜け、目の前には美羽が大きく手を広げて構えている。
多留(狙うは…あそこです!)
ゴール左下に狙いを定めた多留は右足インサイドでシュートを放つが、足はボールではなく別のものを蹴った感触があった。雛がスライディングでボールを蹴り出していたのだ。多留が蹴ったのは雛の足であり雛は足を押さえている。
多留「ももも申し訳ありません!お怪我は無いですか!?」
主審はホイッスルを鳴らして佐倉中央ボールを指示し、美羽が大きく蹴り出すと前半終了のホイッスルが鳴らされた。
雛「大丈夫です。ありがとうございます。」
多留は雛の手を握って立ち上がらせてユニフォームに着いた芝を払った。雛は感謝の意を込めて軽くハグした。
多留「あはぁ…畏れ多い…。」
ベンチに戻る際に雛と多留は会話を交わした。
雛「すごいですね。SBでシュートまで行けるぐらいのテクニック持ってるのは。」
多留「でも、去年の佐倉中央にも兵頭選手というすごいSBがいましたよねぇ〜。」
雛「ご存じなんですね!」
多留「私、女子サッカー選手大好きなんです。特に佐倉中央さんの去年の全国大会は今でも全試合見返すぐらい憧れてるんですぅ。」
雛「そうなんですね!後半もお互い頑張りましょう!」
多留「はいぃ!宜しくお願いします!」
後藤「さて、色々と相手に振り回されることが多いように見えたが、同点で前半を終えたのは非常に良い。自陣のペナルティエリア内や付近では女鹿口にできる限りボールを持たせたくないな。多留にも気をつけたいが、なかなかに速さもあるから悠香と真帆をチェンジする。シュート本数も少ないからもっと前線のラインを押し上げて構わない。勝てるぞ、いや勝つぞ!」
「はいっ!!!」
後 OUT:15 悠香→IN:5 真帆
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