第122話 ストーカーとズルい女
11月24日土曜日。佐倉中央は初戦の溝呂木高校戦を横浜のサッカー場行う。この日までに様々な対策を積んできた。ストーキングマークには多留の動きをコピーした広瀬を利用したため、暫く広瀬は一部からストーカーというレッテルが貼られてしまった。
後藤「さて、いよいよだな。全ては負けたら終わり、3年は引退が掛かったの一発勝負。私は君たちを信じている。絶対に勝ってこい。」
溝呂木高校戦のスタメンは以下の通り。
GK:12 美羽 DF:15 悠香 MF:9 梨子
DF:2 真希 MF:10 つばさ MF:11 千景
DF:3 雛 MF:17 つかさ FW:18 瑞希
DF:4 美春 MF:7 花
瑞希
花 千景 C 梨子
つばさ つかさ
美春 雛 真希 悠香
美羽
試合が始まる前のセレモニーで選手同士が握手をする際に佐倉中央の選手は予想外のことに動揺した。
多留「うっひゃあ〜!すごいすごい!本当に優勝メンバーがおられるぅ!私が握手なんて畏れ多いですぅぅぅ!!!」
選手一人一人に両手で力強く握手していた多留のストーキングマークというのは、彼女が女子サッカーの熱狂オタクといったところから来るのだとこの時知ったのだ。そして、特に握手が力強かったのは梨子。
多留「はふぅ〜…三村選手…眼福ですぅ〜。顔小さい〜、お美しい〜。お姉様は…」
梨子「あ、あはは…よろしくお願いします…。あの、もう離してもらってもいいですか…?」
多留「はっ!しゅみません!」
そして、雛と瑞希は女鹿口に握手をスルーされた。すぐ後ろにいた千景が女鹿口に注意をしたが、とぼけられて終わってしまった。円陣の中で千景は苛立ちを力を込めて吐き出した。
千景「意地汚いことをしてくるかもしれないけど、みんなは絶対に乗せられないで。マークは恐らく梨子が憑かれるけど、他のメンバーも気をつけて。叩き潰した上で勝とう!レッツゴー!佐倉中央!」
女鹿口(絶対に屈服させてやるのです…!)
試合開始のホイッスルが鳴ると、溝呂木高校はボールをいきなり前線に蹴り出した。しかし、誰も攻め上がるような雰囲気はない。
吉沢(残念ながら対策済みだ!)
ボールを収めた雛はつかさにパスすると、つかさは同じように溝呂木陣内にボールを蹴り込んだ。佐倉中央も誰一人として攻め上がらなかった。仕方なく溝呂木は自陣でボールを回し始めたところで佐倉中央は一気にラインを上げた。
多留(はわわわわ!私たちと同じ作戦をとってるなんて運命感じちゃいます!)
女鹿口(ぐぐぐ…やっぱり卑劣なのです…。)
溝呂木は最初に相手陣内にボールを蹴り込み、相手がビルドアップを始めたら総攻撃を仕掛ける戦法をとっていたが、何試合も溝呂木の試合を見ていた吉沢がそれに気付き、メンバーに知らせていたのだ。パスの出しどころをOMFが探していると、つばさが前線からプレスをかけて逃げようとしたところをつかさが挟み込んでボールを奪った。すぐに梨子にパスをするが…
多留「きちゃあ!三村選手〜!」
梨子「嘘っ!いつ来たのよ!」
多留はしつこく梨子を追い回している。梨子はパスの出し先が無くなるほどであり、ドリブルで突破しようとしたものの、多留は完全に進行方向を読みきっておりボールを奪い返した。
多留「ほっひょあああ!行きますよぉ!」
つかさ(速っ!?)
多留のドリブルスピードは異常な程早かった。チェックについたつかさを一瞬で躱すと、ボールを求める女鹿口やFWを無視して中央突破を図った。しかし、真希が身体を預けてボールと距離を空けるとすぐに雛がクリアした。
真希「ナイス雛!って、雛!?大丈夫!?」
雛は左足首を抑えて蹲っている。主審が近づいてプレーを続行できるか確認すると、雛は黙って頷いた。
美羽「今、完全にやられてましたね。」
雛「そうだね…主審が見てないところでやられたからもっとタチが悪い…。」
真希が身体を預けに行った瞬間に、マークに付いていた女鹿口から離れようとした雛は女鹿口のスパイクの裏で足を踏まれていたのだ。
広瀬「汚いヤツめ…!」
真帆「どうすれば主審が分かってくれるの…」
後藤(今はとにかく我慢だな。)
しかし、幸いなことに溝呂木の攻撃はそれほど脅威ではなかった。女鹿口以外のオフェンスがボールを持ってもすぐにボールを奪うことができるからだ。
前半19分、千景が瑞希にスルーパスを送ろうとしたところを多留がカットして一気に前線へ大きく展開した。
多留(はわわ…!こちらの大チャンスを演出してしまいました!)
ボールはバウンドしてペナルティエリア内に入る。真希が後ろを確認して美羽にキャッチさせようとスピードを落とすと、死角から小柄な選手が飛び出してきた。
真希(やばい…!見えてなかった!)
すぐに足を伸ばすが、ボールには届かない。案の定女鹿口がその足にわざと掛かりエリア内で転倒すると主審がホイッスルを鳴らした。ペナルティエリア内を指差し、ポケットに手を入れている。
真希(流石にレッドじゃないよね…?)
思った通りイエローカードが提示された。
真希「今のって自分から掛かりに来てませんでしたか?」
主審「少し際どかったけどね。でもビデオ班からもなにも言われてないから変わらないね。」
本戦からはVARが採用されている。公式戦にて重大な誤審などを防ぐためには必要なのだ。
多留「伊那さん、大丈夫ですかぁ?」
女鹿口「全く、こうでもしないと止められないなんてザルにも程があるのです。さっさと一点とって逃げ切るのです。」
美羽(大丈夫。きっとこの人なら止められる)
女鹿口がボールをセットして距離をとるとゴールに背を向けた。そして、助走を始めて爪先でボールの下を蹴ってチップキックでシュートを放った。美羽は違う方向に跳んでいるが…
美羽(あれ?これ入らなくない?)
予想通り、ボールはバーに当たって女鹿口の元へと跳ね返った。女鹿口がシュートの体勢になっているのを見て、美羽だけでなく佐倉中央のメンバーは一瞬スピードを緩めた。なぜならPKではキッカーの蹴ったボールがGKに触れずにポストやバーに当たって跳ね返った場合、キッカーは再度ボールに触れることが出来ないルールだからだ。しかし、その一瞬緩んだ守備の間から、餌を出された犬のように舌を出して走り込んできたプレーヤーがいた。多留である。
多留(そんなっ!私がゴールを決めてもいいなんて…畏れ多いけどうれちぃぃぃ!!!)
思い切り振り抜かれた左足から放たれたボールは一瞬でゴールに突き刺さった。多留はそのまま膝で芝を滑り喜びを爆発させた。
真希「私がもっと見ておけばよかったね…」
美春「あれは完全に死角でフリーだったから仕方ないと割り切りましょう。やっぱり誰かがマンツーマンについた方がよさげ?」
つばさ「じゃあ私が付きます。あとは多留さんだけですけど、どうしますか?」
梨子「左サイドから重点的に攻めてみるのがいいかも。そしたら多留さんを封じ込められると思うから。」
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