第120話 ターンオーバー

翌週に行われた共栄浦和女子高校との一戦、スターティングメンバーをフルで入れ替えて佐倉中央は臨んだ。

GK:23 メアリー DF:8 仁美 MF:21 雅

DF:16 沙江 MF:13 柚月 MF:22 凛

DF:25 佳代 MF:19 伊織 FW:24 珠紀

DF:4 美春 MF:18 瑞希


        珠紀


雅    伊織    瑞希    凛


        柚月 C


 仁美   佳代   沙江  美春


       メアリー


リザーブ:美羽(GK)樹里(DF)悠香(DF)雛(DF)萌(MF)花(MF)梨子(FW)


結論から言うと、主力のいない状況下では戦力は大きく落ち、前半に佳代と沙江がお見合いのような形で意思疎通のミスからシュートを決められ、後半にFKを頭で合わせられて0-2という呆気ない結果で終わってしまった。

評価点は以下の通り。

得点者:なし

警告:沙江・伊織

途中交代:なし

メアリー:5 佳代:5 沙江:5 仁美:6 美春:6 柚月:6

雅:6 伊織:5 瑞希:6 凛:5 珠紀:5


しかし、後藤は不機嫌そうな顔はひとつもしなかった。珍しく選手一人一人の評価を述べて翌日の試合に向けてのメンバー発表もしてその日を終えた。


3位決定戦の対戦相手は栃木県のクラブ、エスペランサ足利で、皇后杯の常連である。Nリーグ3部に在籍した経験のあるアマチュアの中では強豪チームである。

佐倉中央のスタメンは以下の通り。

GK:12 美羽 MF:6 萌  FW:18 瑞希

DF:3 雛   MF:9 梨子 FW:24 珠紀

DF:25 佳代 MF:20 咲  FW:11 千景

DF:15 悠香 MF:17 つかさ


     瑞希      珠紀


         千景 C

  咲             つかさ


      梨子     萌


 悠香      佳代      沙江


         美羽


リザーブ:メアリー(GK)樹里(DF)

真希(DF)つばさ(MF)雅(MF)凛(MF)

花(MF)


この日は開始2プレー目のCKで早々と先制されてしまった。しかし、前日とは打って変わって直ぐに切り替えができており、前半9分につかさが千景へパスし、千景はダイレクトで爪先を入れて回転をかけたスルーパスを送るとDFの裏に抜け出した珠紀がダイレクトで左足のインサイドに合わせて同点に追いついた。その後は怒涛の攻防が続いたが得点は動かない。エスペランサ足利はつかさと千景が危険だということは重々承知していた。だからこそ徹底マークに張り付き、他のプレーヤーは最低限のゾーンマークのみで済ませて守備体制を敷いていた。佐倉中央は瑞希や珠紀、この日はボランチにポジションをとっていた梨子までもがシュートを狙っていったが、後半終了のホイッスルが鳴るまで相手ゴールネットを揺らすことはできなかった。

後藤(PK戦か。あえて場慣れしている愛子は今日もベンチ外にしてある。もしかしたら…もしかすると美羽は…)

女子としては180cmという規格外の高身長をもつ美羽はゴールマウスで両手を広げるだけで威圧感がキッカーに伝わる。

先行のエスペランサ足利のキッカーはなかなかに緊張した面持ちである。シュートはゴールの左に向かって飛んでいく。ぐっと地に足を踏み込んだ美羽は思い切り腕を伸ばし、ボールに触った感触を掴んだ。しかし、ボールは手に弾かれるとそのままゴール上部に突き刺さった。

美羽(完全に触った感覚があった…!ボールが…コースが分かる!)

佐倉中央の1人目のキッカーは途中から出場した雅。ボールをセットすると軽く2〜3回ジャンプした。ホイッスルが鳴ると左足をボールに確実に当てた。ボールはGKの反応を待たずしてゴール右隅に吸い込まれた。

雅(よしっ!とりあえずはイーブン!頼むよ、美羽!)

ゴールにあるボールを相手選手に渡した美羽は軽く飛んでバーを叩いた。

美羽(さあ…いつでも来い!)

ホイッスルが鳴ると、キッカーは先ほどとは逆のコースに蹴り込んだ。しかし美羽は全く同じ方向に飛び、ボールは胸の中に収まった。キッカーは驚きと絶望の様子がありありと浮かんでいた。美羽は静かであった。ただ静かにボールを次のキッカーであるつかさに渡した。

つかさ「すごいよ!これで大きくいける!」

美羽「まだ勝ったわけではないです。だからここは絶対に決めてください!」

つかさ「任せて!」

ボールを受け取ったつかさはGKを嘲笑うかの如くど真ん中に突き刺した。

続くエスペランサ足利の選手はボールをポストに当ててしまい、まさかの2人連続の失敗に頭を抱えた。佐倉中央の3人目のキッカーの萌も確実にゴールネットを揺らし、リードは2点に広がった。

美羽(次止めれば…いや、止める。絶対に!)

後藤(さあ、ここが勝負所だぞ…!)

キッカーはゴールの左上を目掛けて右足を振り抜いた。最も止めにくい場所にボールはまっすぐ飛んでいく。美羽は完全に同じ方向に飛んでいる。ボールはゴールラインに重なっているか超えたか際どいところで美羽は右手でボールを弾き出した。エスペランサのキッカーだけでなく選手全員がゴールをアピールしている。

美羽(今のは絶対に入ってない!)

主審は選手を宥めて副審の方を見た。副審は首を横に振った。その瞬間、エスペランサはどう転んでも佐倉中央に追いつくことが出来なくなった。主審は試合終了のホイッスルを鳴らし佐倉中央のメンバーは美羽の元へと駆け寄った。

後藤(間違いない!美羽にはPKストッパーの素質がある!)

他のメンバーより10cm以上も背の高い美羽はまるで子供にじゃれつかれてるかのように見えたが、その顔は自身と幸せで満ち溢れていた。

佐倉中央は関東ブロック3位で皇后杯へと駒を進めた。

エスペランサ足利戦の評価点は以下の通り。

得点者:珠紀

アシスト:千景

警告:なし

途中交代:後10 千景・咲・悠香→雅・凛・樹里

美羽:9 佳代:8悠香:7 沙江:7 梨子:8 萌:8 咲:7

千景:8 つかさ:8珠紀:8 瑞希:7 樹里:7 雅:8 凛:6

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