第114話 楓ねーちゃん
それぞれのメンバーがそれぞれの休みを満喫している時、赤井家には久しぶりの客人が来た。
神奈子「あら、いらっしゃい!佐倉に来るのは5年振りぐらい?」
???「そうですね。はるばる新幹線乗って来ました。電車もどれ乗ればええのか分からず迷子になんべんもなりましたわ。」
二人が玄関に向かうと、懐かしい顔に顔を綻ばせた。
つばさ「あ!楓ねーちゃんだ!」
つかさ「楓ねーちゃん!久しぶり〜!」
楓「おお!久しぶりやな!見ない内にまた大きなったな!つかちゃんは私抜いたんちゃう?」
つばさ「どうして佐倉にきてくれたの?」
楓「二人がものごっつ頑張ってるって聞いてな、休み出来たから会いたくなって来てしもうたわ。あ、これお土産。」
彼女は万場楓(まんばふう)。つかさとつばさの父、裕次の兄の娘。つまり二人にとっては従姉妹にあたる。
楓「去年は凄かったなぁ。全国初出場で初優勝やもんなぁ。今年も全国出るん?」
つばさ「いや、今年は県大会の準決勝で負けちゃって全国には出られないんだ…。」
楓「ええ〜!なんやそれぇ…。折角見に行こうと思うてたのになぁ。じゃあ3年生はもう引退しちゃったんか?」
つかさ「ううん。実は今は皇后杯に向けて練習してるんだ。9月から地区予選が始まるからそこで7位までに入れば全国行けるって感じ!」
楓「ほ〜ん?なら、ウチらと当たる可能性も無きにしも非ずって事かいな。」
その瞬間スッと顔が引き締まり眉が上がった。
実は彼女は大阪のN1リーグの堺FCレディースに所属しているプロサッカー選手なのだ。
楓「皇后杯は高校の全国とは比にならんぐらいにしんどい戦いや。頑張ったら勝てるなんてレベルちゃうから気をつけてなぁ。勿論、優勝は堺FCなんで、宜しく。」
二人はあまりの剣幕に震え始めた。
つかさ(まずい…これは…)
つばさ(鬼楓ねーちゃんモード…!)
楓は普段は竹を割ったような性格だが、一度スイッチが入ると“鬼楓ねーちゃんモード”となりまるで別人になったかのように圧をかける。それは試合中にも度々出現し、汚いファールやヤジにキレると歯止めが効かなくなり、カードを貰う事もある。Nリーグの問題児や爆弾娘といった異名も定着している。
神奈子「楓ちゃん、ここで立ち話をするのもアレだし、こっちでお茶でもしない?」
楓「ほんまですか!いただきます!」
紅茶やケーキを口にすると少し落ち着いたのかいつもの楓に戻っていた。
楓「ごめんなぁ、急にスイッチ入ってもうて…また後でサッカーの話聴かせてや!」
つかさとつばさは冷や汗がダラダラであった。二人は部屋に戻って先ほどの事を話していた。
つばさ「本当に怖かった…。」
つかさ「殺意感じたもんね…。でも、全国で当たるといっても決勝とかまで行かないと当たらない気がするなぁ。」
つばさ「でも、運が悪いと直ぐに当たる気がする。基本的に一回勝つと絶対にプロのチームと当たるからね…。」
つかさ「何はともあれ、地区予選を勝つしかないね!」
すると、突然部屋のドアが開いた。
楓「失礼するで。サッカーの話聞かせてや〜」
つかさ&つばさ「ひいぃいぃいぃ!!!!!」
楓「そんな驚かんでもええやんか。今いつもの楓ねーちゃんやで?そんなんええからサッカーの話聞かせてや!気になって仕方ないんや!」
つかさ「分かったよ。いつぐらいから話す?」
楓「そやなぁ…。今年度からでええよ!その方が色々と段階追っていきやすいやろ!」
二人は暫くここ数ヶ月のことを話した。楓は大人しく耳を傾けている。一通り話し終わると楓は自分なりに纏めた。
楓「つまり、日大船橋っちゅう所がめっちゃ強くて、つかちゃんがおらんかった2試合は負けてもうたと。で、つい最近チームにつかちゃんが帰ってきてここから、ってことやな。」
つばさ「そういうことだね。楓ねーちゃんのサッカーの話はないの?」
楓「ウチか?おかげさまで前のシーズンは32試合で3回もレッド貰ってもうたわ。悪いのはウチちゃうねんけどなぁ?」
つかさ「最終的に堺は何位だったんだっけ?」
楓「去年は惜しくも2位やった。勝ち点4足らずにヴィクトリアに負けてもうたんや。ほんま悔しいわ。得点王も2点足らずに同じチームのまいまい(御堂)に負けるし。」
つばさ「次のシーズンはその鬱憤を晴らすようにやるって感じ?」
楓「せや!だから、皇后杯で当たったときにはボコボコにさせて貰うから覚悟しといてなぁ。もうこんな時間か。お風呂頂いちゃうで!」
時計は5時半を指していた。二人はどっと疲れが来たようにベッドにもたれかかった。
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