第113話 四者面談

夏合宿も遂に最後の練習を終えて練習も3日間のオフが採られた。その間、柚月は両親と担当と共に佐倉中央高校で三者(四者)面談を行う。指定された教室の前に立ち、ドアを3回ノックした。

「どうぞお入り下さい。」

柚月「失礼します。」

後藤「本日はお忙しい中ご来校頂き、誠にありがとうございます。私、サッカー部顧問の後藤と申します。担任の先生が体調不良で本日はいらっしゃらないので、代打ですが担当させていただく事になりました。しかし、抑えるべき点などは事前に聞いておりますのでご安心ください。そちらの椅子にお掛けください。」

そう言い終わると後藤は柚月に目を向けた。

後藤(ここが一つの山だ。頑張るぞ。)

柚月は黙って頷いた。

後藤「柚月はすごく真面目な子で、サッカーの練習や試合でも決して折れる事なく取り組んでおります。」

柚月の母「いつもお世話になっております。」

後藤「な、頑張ってるもんな。」

柚月「は、はい。」

後藤「それでは、本題に差し掛かっていきましょう。柚月はこちらの成績表にある通り一年次から成績優秀で、定期テストでは常に首席となっており、模試なども全国トップクラスの成績を修めています。お二人から見てどのように感じられますか?」

柚月の母「入学当初から頑張っている事は知っていましたが、全国的にもここまで優秀とは知りませんでした。」

柚月の父「同じくです。」

後藤「ありがとうございます。では、今後の進路についてお話ししますが、彼女が目指しているものやそれを実現するために目指す大学をご存知でしょうか?」

柚月の父「アメリカのノースシカゴ大学というところに行きたがっているのは聞いております。昨日も話をしたところです。ただ、何になりたいかは現状存じておりません。」

後藤「承知しました。柚月、何になりたいか今この場で言うことはできるかな?」

柚月「私は…えと…私は…」

言葉に詰まっている柚月を見て、父親は溜息混じりに話した。

柚月の父「何も目標が無いのになぜ海外の大学を目指すんだい?ウチはただでさえ色々と余裕が無いのに負担を増やすというのかい。」

柚月の母「お父さん、落ち着いて。」

後藤「お父さん、実は先日の夏合宿の期間中に彼女と二者面談を行いましたが、彼女は自分が居なくなったら家族が大変になる事を心配していました。勿論、学費の面や下の子達の世話の面でも。」

柚月の父「それが何か関係があると?」

後藤「彼女はずっと他人を想って自分を閉じ込めてきた。確かに、彼女がいない間はご家庭にとって辛い時間かもしれないです。でも彼女は凄い才能を持っていると思います。その才能を信じてあげてください。」

柚月の父「やりたい事やなりたい物が無いのにそのあるか分からない才能を信じろと?」

後藤(この人を黙らせるには柚月が目標を話してくれる他ない。頼む、話してくれ!)

柚月「私は…こういうのはもう嫌なの!」

両親は驚いて同時に振り返った。

柚月「誰かの為に我慢して、自分を削って、辛い思いをしているのに助けてくれない!今のこの国もそう!教育方針もそう!だから私は海外で学んでその学んだ事を日本に広めたい!日本にいる辛いと思っている人を救いたい!この国を変えたいと思ってるの!」

一気に言い切った柚月は肩で息をしている。彼女自身も初めて声を荒らげたようだ。

柚月「分かってくれる…?私はやってみたい。成績が良ければ学費も全部免除されるの。下の子たちや二人には心配させてしまうかもしれないけど、私は頑張るから…。だからお願いします。私を海外の大学に行かせてください…!」

涙を浮かべながら頭を下げた。

後藤「漸く言えたな。よく頑張った。これが彼女の本心です。分かって頂けましたか?」

柚月の父「…そこまで言うのならやってみなさい。ただ、私たちは何も責任は取らない。もしダメだったとしてもその後は自分の力でやっていきなさい。」

後藤「ありがとうございます。では、志望校はノースシカゴ大学としておきます。他に何かお聞きしたい事などはありますか?」

柚月の母「この子の試合、一度見に行ってみたいんです。お父さんも気になってたようで…。次の試合はいつでしょうか?」

後藤「9月1日の皇后杯地区予選です。千葉総合運動公園で行われます。」

柚月の母「ありがとうございます。休みが取れれば見に行きます。」

後藤「かしこまりました。本日はお忙しい中ありがとうございました。お気をつけてお帰りください。」

柚月「ありがとうございました!」

両親は礼をして教室を後にした。

後藤(柚月のしたい事、めちゃくちゃスケールデカかったな…。まあ柚月なら叶えられるか)

後藤は書類をまとめて教室を後にした。

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