第97話 兆し

後藤「取り敢えずはお疲れ様。主力が居ない中、雨の中の試合で苦しい時間もあっただろうが、それに甘んじるか跳ね返すかは君たち次第だからな。間違いなく夏の県大会でも当たるチームだ。次回はもっと対策を練ろう。」

試合に出ていた選手の中には顔をずっとタオルで覆っている選手もいる。

後藤「勿論、今日の敗北は個人の問題ではなく、チームとしての問題だな。県大会までには千景や愛子も戻ってくるだろう。まだ時間はあるからしっかりとチームを作っていこう。」

美羽(情けない…。どうしたら14失点なんて出来るの…。GKとして本当に情けない…。)

解散した後に落胆する美羽に声をかけたのは同じく1年のGKで、この日はリザーブに居たメアリーであった。彼女はフランス人の母親と日本人の父親の間に生まれたハーフである。少し日本語の会話に覚束ない部分がある。

メアリー「美羽ちゃん頑張ってましたヨ。雨でスリッピーさえなければもっと防げてたはずデス。」

美羽「メアリー、ありがとう。もしかしたらメアリーのほうがサブに適してるかもね…。」

メアリー「自信無くさないで下サイ。美羽ちゃん前半は無失点。後半は皆焦ってた。美羽ちゃん背が高いデスから、スゴい武器持ってマス。

でも、油断してたらポジションは頂きマスヨ」

美羽「うん…!負けないよ!」


後藤「三人が戻ってきても、どう勝つか分からないな。やはり…いや、過去の人物だ。」

広瀬「そう…ですね。」

吉沢「県大会は昨季の県大会の成績を加味してトーナメントが決められますが、もしかしたら

最悪なパターンがあり得るかもしれません。」

後藤「そうだな。県の代表として関東に駒を進めるのは2校。そして昨年の成績的に準決勝で当たるのは…。」

広瀬「日大船橋ってことですか。」

吉沢「つまり、どちらかが県大会で消える。」

後藤「だがな、県大会で私たちが消えたとしても、まだ3年は引退ではない。」

広瀬「というと?」

後藤「実はな…。」


つかさ「どうして…。」

光「君が色々と悩んでるそうでな。練習終わりで来たところだ。」

大森のカフェに来たのは紛れもなく、佐倉中央の前キャプテン、現在はヴィクトリア関東に所属している光であった。

光「キャプテンマークを巻く責任、最後列でなく最前列でチームをコントロールする難しさ、色々なプレッシャーが君には掛かっている。そうだろう?」

つかさはティーカップに目を落として頷いた。

光「私もさっき結果速報を見てビックリしたよ。総体決勝であんな負け方をするとはね。君が出ていれば少し変わってたかもしれないけどもね。」

つかさ(やっぱり光さんも同じこと…!)

光「ただ、フルメンバーとすればだけどもね。千景も愛子もつばさも居ないとなれば勝ち目は薄いかな。」

つかさ「…」

光「今年も夏合宿はあるのかな?」

つかさ「…多分あると思います。」

光「それまでにチームに戻るつもり?」

つかさ「…戻れないと思いますよ。」

光「やってみないと分からないだろう?」

つかさ「それはそうですが…。どう戻れば…」

光「私が手を貸してやる。一度君はチーム全体と向き合い、ぶつかって来い。」

つかさ「それってどういう…」

光「私がチームを作る。君は私たちと一緒に夏合宿で佐倉中央を倒すつもりでプレーするんだ。メンバーはまた夏合宿で言うよ。」

言い終わると光は紅茶を一口飲んだ。

光「いい茶葉を使っているな。渋みやクセはあるが、後からとても良い香りが鼻に抜ける。まるで今の君みたいだな。」

つかさは少し口角を上げた。

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