第95話 勝てない。
後藤(まずいな…。GKは追加召集するとして、今足りてないのは圧倒的に攻撃力…。雅と凛のツートップでも構わないが…。とにかく、最善のフォーメーションを組まなくては…。)
翌日、ピッチには昨年の大森よりも遥かに恐ろしいプレーヤーが集結した日大船橋が佐倉中央と向かい合った。
佐倉中央のスタメンは以下の通り
GK:12 美羽
CB:5 真希 C
CB:4 雛
LSB:25 美春
RSB:3 真帆
DMF:6 萌
DMF:8 仁美
LMF:9 梨子
RMF:7 花
OMF:14 雅
CF:13 凛
ベンチ入りメンバー
15 悠香 16 瑞希 17 沙江 18 伊織
21 時絵(GK) 24 樹里 27 珠紀
会場には小雨が降ってきた。円陣の中では真希が力強く声を掛けた。
真希「相手は確かに強いのかもしれない。私たちの主要メンバーも欠けてるのかもしれない。でも!私たちだからっていう言い訳にはしない!佐倉中央は誰が出ても強いということを証明しよう!絶対勝つぞーーー!!!」
「おーーー!!!」
試合前のミーティングにて
後藤「とにかく、大事なのは焦らないことと、相手がボールを持つ時間を少なくすること。パスの出し先が無ければ無理して探さずに大きくクリアで構わない。そして、シュートを撃たなければ絶対に点は入らない。だが今回はそれ以前に撃つことができないと思われる。攻撃は勿論のこと、守備も強固になっている。一瞬のチャンスも見逃すな。行ってこい!」
試合が開始すると、佐倉中央のメンバーはすぐに察した。
(相手は、ヤバい。)
佐倉中央ボールで回したいのに、全くと言っていいほどボールを奪うこともできない。同じ高校生であるはずなのに、日本代表のトッププレーヤーばかりを相手にしているかのような感覚であった。
萌(私たちだけの時よりもずっと上手い…!)
かつて同じ夷隅高校のプレーヤーとして活動していた萌や真帆ですら太刀打ちできないほどであった。
後藤(くそっ…!やっぱりか…!)
シュートやクロスも雨霰のように佐倉中央ゴールを脅かす。美羽も精一杯ブロックしているがスタミナの減りは圧倒的にいつもより速い。
美羽(まだ10分も経ってないの…!?とにかく一本流れを切らなきゃ!)
左サイドからのアーリークロスに反応したFWを見ると競り合いに参戦し、長身を活かしてボールをキャッチし胸に収めるとエリア内に倒れ込んだ。会場からは大きな拍手が起こる。
真希「落ち着いて立て直すよ!」
美羽はアンダースローで真希に渡すと、真希は逆サイドを駆け上がる花にロングパスを出す。花は左足のインサイドでトラップすると、寄せてきたSBの股を右足のインサイドで抜き去り一気に前線に切り込んだ。しかし、ゴールまで30m以上あるにも関わらず、日大船橋のGKの林は飛び出してボールをクリアした。
花(しまった…!忘れてた!)
林(大森さんが取れなかったもの、私たちが貰っていく。佐倉中央に得点なんか与えない。)
佐倉中央は初めよりボールを触れる時間は増えたが、20分を目前にしてシュート数は0。
そんな緊張状態はある出来事で一気に崩れる。真帆が右サイドでオーバーラップでボールを受けるとアーリークロスでボールをエリア内に送る。林はそのボールを空中でキャッチするとそのまま空中で持ち替えて前線に投げた。ボールには回転がかかり、ハーフウェイラインを超えて一気にカウンターとなった。佐倉中央陣内に残ってる守備陣は真希と萌のみ。対する日大船橋の攻撃陣は4人。たった2回のパス交換で美羽とFW二人という絶望的な状況となってしまった。飛び出すと強烈なシュートが直ぐに飛んできたが、美羽は左手一本で弾いた。ボールはもう一人のFWが落ちてくるタイミングを見計らってダイレクトでシュートするが、ボールはクロスバーの遥か上を超えていった。美羽は思い切りガッツポーズをした。観客からも大歓声が送られる。
萌(火野が以前と変わってなくてよかった…)
火野(悪いところ出たなぁ。大振りする癖直さなきゃな。)
美羽はこのプレーで自信を掴み、前半は凄まじい気迫で佐倉中央のゴールを割らせなかった。
攻撃側もこれに鼓舞されたか、30分に相手を良く知る真帆と萌が連携プレーでサイド攻撃を展開した。真帆がスルーパスを受けると、そのまま一人躱して一気に前線に切り込むと、グラウンダーのクロスを蹴り込む。林は一瞬飛び出すのを躊躇したため、手を伸ばすもボールは掠りもしなかった。その後ろで雅がシュートを放つが、すぐに体勢を立て直していた林が右手一本でボールを弾いて失点を防いだ。林は雄叫びを上げチームメイトとハイタッチを交わした。
スタンドで試合を見守っていたのは昨年引退したOGの大森。その隣には亜紀と夏海が並んで座っている。
大森「なかなか出来るキャプテンになったな。今年は千葉県、いや全国の頂点に立つことができるかも知れんな。」
夏海「うちのGKも負けてないって言いたいけど、今回ばかりは日船の方が上かもね。」
亜紀「つかさ、つばさ、千景が居ない状況でゴールを破れるメンバーがいるかどうか。」
夏海「真帆と萌がキーマンになりそうだけど、本人たちもこの強さは予想外だろうね。日船はチームとしての完成度も凄く高い。とんでもない攻撃がこの後に飛んでくるかもね。」
前半はスコアレスで折り返した。
後藤「萌と真帆の知る以上に強敵だな。美羽は前半よく無失点に抑えた。にしても、あの11番のFWはなかなか怖いな。」
真帆「火野ですね。彼女の武器はなんと言ってもとんでもないパワーのシュート。女子だけで見ればその強さは代表クラス以上のものがあると思われます。」
沙江「パワーがあるということは、当然伸びや速さも桁違いですよね。」
萌「他にも危険選手はいっぱいいます。時にはポジションを無視して試合をすることもザラにあります。全員に警戒しないと行けないぐらいです。」
後藤「…美羽、あと45分耐えられそうか?」
美羽「耐えられる…ではなく、耐えてみせます!今ここにいないメンバーの分まで!」
それを遠くで聞いていたのはとある影。
???「1点取られたら一気に崩れる。そして失点をしない確率なんて多く見積もって0.01%ってとこかな」
仁美「美春、どうかした?」
美春「いや、今控室の辺りに誰かいた気が…」
雛「多分気のせいじゃないかな。とにかく、後半に向けて集中しよ!」
試合開始のホイッスルが鳴ると、影は会場から出ると一度振り返った。そして、時を同じくして所用のために会場を後にしようとした大森と鉢合わせた。
大森「おや、そこは関係者専用のはずだぞ?」
???「私も“一応は”関係者なもので…」
大森「いや違うな。お前は“今は”関係者ですら無いはずだ。」
その時、笛が大きく鳴って日大船橋の応援歌が流れてきた。
???「“うちの”負けが確定しましたね。ここから一気に崩れますよ。」
大森「ほう、お前も私と同じ考えか。流石は天性のサッカー脳の持ち主だな。」
二人の想定通り、佐倉中央は後半開始10分で4点を奪われた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます