第94話 諦観

伊東(守りに入り始めたか…!)

佐倉中央は自陣でコンパクトにパスを回し始めた。メンバーが変わっているとはいえ、流石は前年度の全国覇者。ミスは全くと言っていいほどない。時間はどんどんと過ぎていく。一部の観客からはブーイングが飛ぶが、そんなものはお構いなし。

湯本「パスの出し先をとにかく潰して!」

その声が響いたのもアディショナルタイムに入ってから。幕張南は作戦に気付くのが遅過ぎたようだ。仁美のバックパスを雛が大きく前線に蹴り出すと、主審は笛を長く3回鳴らした。

佐倉中央は何とか決勝に駒を進めることができたが、準決勝、それも県内での大会でこれほど苦労して勝利を掴まなければならないほど、今のチームは纏まりが出来ていなかった。メンバーは決して悪く無いものの、アクシデントや問題が原因で決してフルメンバーとは言い切れない。後藤は決勝に向けてそれを危惧していた。

そして、腹を括ったように口を割った。

後藤「正直なことを言おう。明日の決勝で勝てる可能性はゼロに等しい。」

選手たちがざわつく。

真希「でも、諦めなければ…。」

後藤「勿論、そのつもりだ。ただ、引き分けに持ち込めたら奇跡と言ってもおかしくない。今の佐倉中央は分かってるとは思うが主要メンバーがかなり欠けた。つばさも出さない予定だ」

梨子「えっ、どうしてですか!?」

後藤「彼女は心に大きなダメージを負った。勿論、つかさの件もあるし妹ということもあり、触れたく無い色々な事がどうしても入ってきてしまう。一旦落ち着くまで心のケアが大事だと判断した。」

選手は黙っている。考えてみれば、主砲にして主将のつかさ、副主将にして点取り家の千景、正GKの愛子、オールラウンダーのつばさという最も大きな4つのピースが無い今、勝つ手段など到底無いのだ。

後藤「キャプテンは引き続き真希に頼む。そして副キャプテンは美春、お願いできるか。」

美春「分かりました。」

後藤「明日の決勝に備えてメンバーも補充する。作戦も立てておく。今日の疲れを出来る限り取れるようにゆっくり休んでくれ。」

後藤はかなり焦っていた。昨年の全国覇者がこんなところで敗退しているようでは監督としての技量ではなく、偶然の賜物だったと考えられてしまうと思ったからだ。しかし、それは単に後藤のエゴなどではなく、世間の目や今後を考えれば指導者にとって当然の思考だからだ。


総体準決勝、幕張南戦の評価点は以下の通り。

愛子:6(後10 OUT)

雛:6

真希:7

美春:7

悠香:6

萌:6

つばさ:7 1A(後19 OUT)

雅:8 1A

凛:8 1G

梨子:6(後10 OUT)

瑞希:5(")

美羽:6(後10 IN)

伊織:6(")

珠紀:8(")1G

仁美:7(後19 IN)

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