第81話 FINAL final

その後も佐倉中央はどことなく暗い雰囲気のまま試合が進む。26分、プレーが切れると突然観客席から怒号が飛んだ。

大森「バカヤローーー!!!サッカー楽しめよ佐倉中央!」

その声に全員が振り返った。警備員が大森を取り押さえるが、大森は柵をがっちり掴んで離さない。

大森「私はここまでして応援をしてる!お前らはそれに応えるサッカーしろやぁ!」

その声に呼応して浅野が声を張り上げる。

浅野「輝きを〜!放て〜!佐倉中央〜!」

その応援歌に応援団、そして一般客が手拍子で後押しをする。大森の手が遂に柵から離れて警備員が3人がかりで大森を連れていった。

大森「絶対勝てよーーー!!!」

どんどん大きくなる応援に佐倉中央の選手たちも生気を取り戻した。

夏海が大きくボールを前に飛ばすと、桃子が渋井と競り合う。ヘディングでさらに浮かび上がったボールに亜紀と落合がぶつかり合う。そのボールをマヤがトラップし駆け上がる。

堀越(だから無駄だって。そういうの。)

パスがつかさに出たところを堀越は狙った。

真希「つかさ!」

つかさ(分かってますよ!)

堀越が後ろから来ているのを察していたつかさは背中で堀越をブロックしてヒールでコントロールして堀越のヒールにぶつけた。

堀越(さっき私がやったプレーをこの短時間でコピーした…!?)

反転したつかさはドリブルでゴールに迫った。梅宮が飛び出したのを見ると左足で中にパスを出した。そこに桃子と渋井がもつれ合いながら飛び込むが、桃子はボールに触らず渋井を差し押さえた。そこにフリーのかれんがインサイドで完璧に合わせでゴールネットを揺らした。

かれん(やった…!)

うおおおおおお!!!!!

大歓声にかれんは目を潤ませている。桃子がかれんを抱き上げるとそこにつかさや柚月が絡みついた。かれんの目からは涙が溢れた。

桃子「すげーよ!かれん!」

かれん「ありがとうございますっ…!」

喜んでいるのを横目に守備陣は顔を引き締めていた。

亜紀「遂に奴が動き出しそうだね。」

光「ああ、ここからが勝負になりそうだ。」

仁美「こっちも交代しそうですね。」

雷が交代の紙を持って4審のもとへ向かった。

つかさ「来るみたいですよ。ラスボスが。」

桃子「みたいだな。切り替えよう。」

4審はパネルを上げた。交代は落合とだった。

落合「すみません、後は頼みます!」

雷「任せておけ。必ずや勝ってみせる。」

ピッチに雷が入ると歓声が響めきに変わった。

雷「ここまで出来るチームになるとは驚いたな。私は大丈夫だから積極的にパスを出せ。」

渋井はキャプテンマークを雷に巻いた。

試合が再開するとあの時の怖い令和学園が駆け上がってきた。佐倉中央は死力を尽くすつもりで守った。守って守って守りまくった。

後33

OUT:20 仁美、7かれん→IN:14 花、11 千景

仁美「後はお願いします!」

かれん「頑張って…!」

花「任せて。勝つから。」

千景「やってやりますよ!」

かれん(たくさんの思い出を、ありがとう!)

深々とかれんは礼をしてピッチを去った。それに客席からは温かい拍手が送られた。

ポジションは真希がLSB、千景がLMF、花がRMFに配置された。令和学園は雷を中心にボールを回して幾度となく佐倉中央の守備を脅かした。40分には強烈なミドルシュートがポストを叩くなど怖いプレーが続く。

直後の42分、雷がボールを持つとそのまま駆け上がった。パスは一切使わない。しかしまるで次元が違う世界にいるようにボールが奪われない。

雷(私は負けない…。幾らあんたらが強くなろうが、私の想いが勝る!)

光も躱したところで遂に夏海との一対一。夏海はゴールから飛び出さない。雷は身体を流しながら右足でシュートを放つ。ボールは夏海の手を飛び越しゴールネット上部に突き刺さった。雷は人差し指を天高く掲げて走り出した。またしても同点、またしても振り出し。しかし、佐倉中央は決して落ち込まなかった。

つかさ「まだ時間はあります!」

花「後半のうちに勝負を決めよう!」

真希「笑おう!顔上げよう!楽しもう!」

夏海「もう絶対に失点しないわ!」

その後も両者の勝利への執念がぶつかり合う。アディショナルタイムは3分と表示された。

このまま延長戦までもつれ込むかと思われたが、アディショナルタイムに入る瞬間に福澤が鎌田のクロスをシュートしたが、タイミングがずれてボールは不可解な浮き方をした。そしてそのボールは飛鳥の腕の辺りに当たってゴールを逸れていった。令和学園が一斉にハンドをアピールすると主審も気づいていたか、ホイッスルを鳴らしてペナルティスポットを指差した。佐倉中央は全員がノーハンドと言っているが、主審は飛鳥に近づくとイエローカードを提示し、2枚目であるのを確認するとレッドカードを掲げた。飛鳥は目を抑えながらピッチを後にした。

後藤「ここまでよく頑張ったよ。大丈夫さ、夏海なら止めてくれる。」

ベンチのメンバーは慰めようとするが状況が状況なので下手に声をかけられない。

ピッチでは渋井がボールを雷に渡そうとするが雷は首を横に振っている。

雷「私が取ったファールじゃないから蹴らない。守備に回るよ。」

そう残して堀越とセンターラインに立った。キッカーは渋井が務めることになった。時間は刻一刻と過ぎて2分を回った。

夏海(何があっても止める…!)

光(頼むぞ…!夏海!)

ホイッスルが鳴ると渋井が蹴ったのはど真ん中だが、夏海は左に飛んでいた。しかし、左足を地面につけて急ブレーキを掛けると残った右足にボールが当たってバウンドした。渋井がダイビングヘッドで飛び込むが、光が身体をぶつけてボールを左サイドに逃すと真希が大きく前線に蹴り出した。主審はホイッスルを咥えるがまだ吹いていない。ボールな中央に向かって曲がり、雷と堀越が追った。しかし、後ろからつかさがとんでもないスピードでぐんぐんと追い上げる。梅宮はペナルティエリアから飛び出そうとするも、それを見て躊躇した。

雷「何してんだ!飛び出せ!」

堀越「違う!来てる!」

その瞬間、つかさは2人を追い抜いてボールに触った。歓声がどんどん大きくなる。雷と堀越は必死に止めようとするが、つかさに追いつくので精一杯だ。

梅宮(くそっ!飛び込むしか!)

ペナルティに入り込むと梅宮がボールに飛びついた。つかさはグラウンダーのシュートを狙うが梅宮のブロックに弾かれた。そして飛び込んできた梅宮に3人は巻き込まれて転倒した。

つかさ(延長…結局全て最初の方の運の良さは私の運の悪さと相殺されたんだね…)

弾かれたボールは宙を舞い、ゴールから外れていく…しかしそこに飛び込んできたのは桃子。

桃子「残れぇ!」

その念が通じたのかボールはピッチ上に残っている。梅宮が立ち上がろうとするが、雷がのしかかっており動けない。堀越が立ち上がって走ってきたのを見た桃子が急いでチップキックで浮き球を出す。

桃子(絶対決めろ!)

梅宮を振り払うとつかさは飛び上がった。


色々な思い出が蘇ってきました。入部し立ての時、強敵に勝った時、夏合宿の時、そして想いがぶつかった時…。3年生とかれんさんは今日でチームを離れるけどその最初で最後の最高な思い出を作るために私は必死でボールに飛びつきました。誰もいないゴール、何かを伝えてる桃子さん、応援してくれている人たち、そして強敵だった堀越さん…。それが眼に入った次の瞬間にはゴールにボールが吸い込まれていました。その時確信しました。ああ、ここまでやってこれてよかったな、って。


つかさはボールを頭で叩き込んだ。無人のゴールが揺れると試合終了を告げる長いホイッスルが3回響いた。

つかさ(優勝…?)

その瞬間、ペナルティエリア倒れているつかさに桃子が覆いかぶさり、試合に出ていたメンバーだけでなく、ベンチにいたメンバー、マネージャー、挙句の果てには後藤まで滑り込んだ。

令和学園で佐倉中央陣内とベンチにいたメンバーは蹲っている。特に渋井は号泣してその場でピッチを拳で叩いている。雷は胸を押さえながら梅宮と仕方ないというような表情で握手している。堀越も完敗というような顔で空を眺めている。

いつの間にか歓声が大きな応援歌に代わっていた。試合に出ることのできなかったメンバー、応援団は感涙している。

主審に急かされて両チームピッチの中央に並んだ。礼をすると会場から大きな拍手が飛び交った。

つばさ「お姉ちゃん、本当にすごいね。」

裕次「ああ、我が家の誇りだ。つばさも頑張るんだぞ。」

つばさ「うんっ!」


高校女子サッカー全国大会決勝

令和学園3-4佐倉中央


評価点は以下の通り

夏海:9

光:9

雛:8

仁美:8(後33 OUT)

飛鳥:8(後45 イエローカード2枚で退場)

亜紀:9

柚月:7(後17 OUT)

かれん:9 1G(後33 OUT)

伊織:8(後OUT)

桃子:10 1G1A

つかさ:10 2G2A

マヤ:8(後IN)

真希:9(後17 IN)

花:8(後33 IN)

千景:8(同上)

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