第80話 FINAL②

佐倉中央は笑顔で控室に戻り会話をしているのに対し、令和学園は暗く会話も殆どなかった。

後藤「2点差を付けている。これは素晴らしいが最も危険な点差と言われている。追いつかれる時は本当に直ぐだからな。」

雛「あの、一ついいですか?」

後藤「ああ、どうぞ。」

雛「私、2点目を決めた時に小耳に挟んだんですが、向こうにはまだ隠し玉がいそうですよ。雷じゃないプレーヤーで、多分ポジションはCBだと思います。」

後藤「攻撃を厚くしても通らなくなる可能性もあり、か…。後半は点を守り切るという作戦で行こう。変更をするかもしれないがな。」

OUT:18 伊織→IN:6 マヤ

渋井「…で、堀越は出られるの?」

堀越「この状況なら出なきゃ負けちゃうので出ますよ。失踪していたとはいえ私も一応このチームのメンバーですので。」

福澤「相変わらずの減らず口だな…。」

堀越「でも上手いのは事実なので。最後の思い出としても出場して優勝したいです。後は前がどれほど決めてくれるか、ってところ。」

鎌田「雷も万一のために出られる用意はしておいた方が…。」

雷「大丈夫さ。私は5分もあれば2点なんぞすぐに返せる。ただ、本当に危機を感じたら出場するからな。」

後半の開始と共に両チーム選手交代を行った。

桃子(なんだあいつ…。見た事ないな。)

つかさ(ポジションはCB。雛が言ってたのはこの選手かも?)

背番号31の堀越は一昨年のメンバーに雷と共に1年生として招集されたが、ラフプレーで退場した後にチームを暫く去っていた。しかし、練習は他のメンバーのいない所で熟しており、その実力は雷に引けを取らない。

堀越(お手並拝見といきますか。)

後半開始のホイッスルが鳴り、つかさがボールを後ろに下げた途端、すぐ横を選手が通り過ぎたがその正体を見てつかさは目を疑った。佐倉中央陣内でボールを追い回しているのはCBに入ったはずの堀越だったからだ。

光「気をつけろ!速いぞ!」

堀越(焦ってるねぇ。でも、流石ここまできただけの実力はあるみたいだね。)

佐倉中央は動揺しながらも速いパス回しで自分達のボールをキープしている。しかし、柚月に渡った途端、鎌田が身体をぶつけてボールを奪った。柚月は身体が小さい分フィジカルに劣ることを令和学園は見抜いていた。

後藤(少ししたらまた動かすか。)

鎌田はまだペナルティエリアに差し掛かっていないところでクロスを上げた。

夏海(これは飛び出さない!)

ボールはエリア中央に向かって飛んでいき、光と堀越が競り合いながら飛び込んだ。堀越が頭で合わせた直後に光がヘディングでブロックし、ボールはノーマークの福澤の元に落ちる。

福澤(もらった!)

しかし複雑な回転のかかったボールに対応が出来ず、福澤は右足を振り抜くも空振りに終わり、ボールはラインを割った。

福澤「あぁもう!」

堀越「なぁんだ。やっぱり大したことないじゃないか。次は頼むよ。」

福澤「うるさい!」

その後も前半と同じように、寧ろ前半よりも激しく令和学園は攻め立てた。

桃子(なんでCBがあんなに攻撃的なんだ!)

飛鳥「つかさも守備入っちゃっていい!」

7分、佐倉中央陣内のセンターサークル付近でボールを収めた堀越につかさがマッチアップした。堀越はつかさを誘っているが、つかさは動じる事なく様子を伺っている。

堀越(なかなか出来そうな子だねぇ。いっちょ面白いのやったげるか。)

思うが早いか内側にカットインすると、つかさが釣られたのを見て堀越はアウトサイドでボールを転がした。

つかさ(股抜き!?)

急いで脚を閉じたつかさだが、それを堀越は予測していた。図らずとも閉じた時にヒールがボールに当たりワンツーパスを作り出した。

つかさ(このままだとまずい!)

すかさず脚を伸ばすもボールに届かず、堀越の脚を削ってしまった。しかし、堀越は体勢を立て直して更に寄せてきたマヤを抜き去った。続く飛鳥、雛、光も抜き去って遂に佐倉中央の守備は夏海だけとなった。

堀越(1点目、ごちそうさま。)

右足で振り抜かれたボールは唸りながら進む。

夏海(せめて弾ければ…!)

夏海がなんとか身体で弾くも、リバウンドをそのまま詰められて遂に佐倉中央の壁が破れた。令和学園は観客の歓声と共にボルテージが一気に高まり、堀越はボールを拾うと真上にパントキックして雄叫びを上げた。ボールが落ちてくると優しいトラップをしてそのままセンターポイントにボールをセットした。

桃子「下向くな!まだリードしてるんだぞ!」

マヤ「取られたなら取り返せばいいのよ!」

亜紀「ポジティブに行こう!」

佐倉中央の応援もその声を聞いて蘇った。

試合が再開すると、佐倉中央は自陣でボールを回すのではなく、相手陣内に入り込んでゴールを狙いに行った。

渋井(相当強靭なメンタルがなきゃさっきので落ち込むはずだけど、そうではないみたいね)

16分、左サイドで桃子が渋井とマッチングする。桃子はボールを跨いで誘いをかけるが渋井は腰を低くして対応している。

桃子(敵が寄ってくる前に切り抜けたいな)

ボールをコントロールしていた桃子の足からボールが離れた。

渋井(よし!今だ!)

奪取を確信してボールを触りに行った渋井だったが、それは桃子の罠であった。桃子は右足のアウトサイドで渋井の横を通すと、そのまま右を通り過ぎていった。

渋井(やばい!)

そう感じた時には主審がホイッスルを吹いていた。渋井は桃子のユニフォームを引っ張って転ばせたのだ。

桃子「いってぇ〜。」

「汚ねぇぞ!令和学園!」

会場からはブーイングが飛び交う。

かれんが桃子を起こしていると、主審は渋井に近づいてイエローカードを提示した。佐倉中央はFKを得たが直接狙うにしては角度が狭い。蹴る位置に立っているのはつかさと柚月。中には光、桃子、亜紀、かれん、飛鳥が待ち構えている。

つかさ(クロスを上げてもDFの人数が多いから狙うのはそっちじゃない…!)

ホイッスルが鳴ると、つかさは走り出してクロスを上げるのではなく、グラウンダーで横にパスを出した。そこにはフリーのマヤが走り込んでいる。

マヤ(こんなの、誰も予測してなかったでしょ!ここで突き放す!)

堀越「甘ぇよ…。」

マヤがシュートを放つ直前に堀越が飛び出してきてボールをカットした。そしてそのまま前線に残っていた落合、鎌田、福澤と共に攻め上がった。佐倉中央の守備は仁美と雛しか残っていなかった。

つかさ(また…!私のせいで…!)

堀越は右方向にスルーパスを出す。仁美は少しでも遅らせようとするが、鎌田はお構いなしに縦に走る。そしてペナルティエリアに差し掛かったところでグラウンダーのクロスを上げた。

雛(この人に打たれちゃまずい!)

スライディングで堀越のブロックに行くが、堀越は未来でも見えているのか、ボールをスルーして後ろから走ってきていた落合がゴールネットを豪快に揺らした。

佐倉中央の選手たちは呆然と立ち尽くすしかなかった。2-2、試合は振り出しに戻ってしまった。令和学園はこれ以上にない盛り上がりだが佐倉中央は打って変わって完全に打ちひしがれていた。後藤はやむなく選手を入れ替えた。

後17

OUT:16 柚月→IN:13 真希

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