第72話 浅野の密告(アドバイス)

浅野「よお。会いに来てやったぜ。」

光「何でここに来たんだ!?」

浅野「控室には誰も来ない。最後に私からお前たちにアドバイスを残しに来た。」

飛鳥「流石にあれはやり過ぎじゃ…。」

浅野「お前たちが確実に勝てるようにするためだ。ただ…」

真希「どうしたの?」

浅野「あいつは多分、怪我を押しても出場するつもりだぞ。」

梨子「それ正気!?」

桃子「どんな身体してるんだよ…。」

浅野「私の感覚的に右足は折るまでに至らなかった。そして吉良曰く、肋骨はヒビが入っているそうだ。」

亜紀「そんなの大怪我じゃないか!」

浅野「あいつはこの大会に全てを賭けに来ている。勿論私たちのやった事は悪だ。だが、私はアイツらがただ優勝するのが一番つまらない。お前らに勝ちを託したってわけだ。」

つかさ「…」

後藤「つかさ、何か言いたそうだな」

つかさ「こんなの…不公平じゃないですか?こんな勝ち方で本当に嬉しいですか…?」

浅野「ああ、嬉しくないさ。ただ、仕方がないんだ。お前はまだ知らなかったよな。あいつの家柄を。」

つかさ「へ?」

浅野「雷家、同時に男子サッカーに出ている杉の家はな、通常ならばサッカーなんか出来たもんじゃない家庭だ。」

咲「どういうことですか?」

浅野「あれだけの実力がありながら世界最高峰のクラブであるシャンゼリゼやミラノからのオファーを断り続けている…何か裏があると思わないか?」

瑞希「まあ確かに…でもそれと何の関係が?」

浅野「あいつらの家庭は古くから反社の家庭。考えなども当然現代の思考とは逸脱している。あいつは卒業したら捨て駒として親が金を受け取る代わりに海外に送られるんだ。」

仁美「そんな…!」

浅野「ただ一つだけ逃れられる条件がある。それは破門される事だ。人権なんてあったもんじゃないが、向こうからすれば怪我をしているということは当然価値が下がる。状況によればあいつは売り物にならずにクソ親達から逃げられるからな。」

つかさ「そうだったんですね…。」

浅野「本人もそれを望んでいる。そしてサッカーを続けたいそうだ。昨日、泣きながら電話をしてきたからな。」

桃子「まあ、決勝に進んで優勝をもらうのはあたし達だけどな!」

浅野「ああ、そうあって欲しいね。」

伊織「ちょっと!ヤバいよ!」

全員がモニターを見ると先ほどよりも激しい乱闘騒ぎになっていた。リプレイが流れると吉良が競り合いの際に渋井の顔に肘打ちをしたとの騒ぎで、吉良に詰め寄り手を出したプレーが映し出されていた。

浅野「策士だなぁ。わざとじゃないように見せかけてちゃんと謝ってる。そして手を出した相手にカードを出させる…。吉良らしいよ。」

浅野の予想通りカードが出たのは手を出した方であった。吉良は謝罪しながら自分のポジションに戻った。神谷はボールを外に蹴り出して令和学園ボールとした。


後半もアディショナルタイムに入った。提示された時間は6分。長すぎる時間だ。1人多い令和学園は攻撃モードだ。するとひょんな事からサイド突破をしてクロスが上がった。

落合(雷さんの分!私が決める!)

落合のヘディングは完璧なコースに飛んだが、佐久間のファインセーブでペナルティエリアに残った。そこに福澤が詰めるが吉良がブロックをする。渋井がそこに更に飛び込んだ。佐久間は起き上がれていない。

佐久間(ツケが回って来たようだな…。)

神谷(浅野なくして私なし…死なば諸共よ!)

神谷はボールを手で弾き出した。またしても大きなブーイングが沸き起こる。令和学園の選手たちが一斉に神谷に詰め寄るが、神谷は全てを悟った様子でピッチ外に出た。勿論、浅野と同じ一発退場であった。

浅野「あいつも同じ気持ちか。」

その後、PKをしっかりと渋井が決めて試合が終わった。

浅野「こっちは仕事をしたぞ。絶対に勝て!」

光「ああ!」

その後、井原監督のインタビューが流れた。

記者「今回の試合、どのようにご覧になられましたか?」

井原「選手自身が勝つための手段を模索した結果があのようになったと思います。批判やバッシングがあると思いますが、私がその全てを請け負うつもりです。」

記者「今後の大会についてどのような心境で望みたいなど有りますか?」

井原「今回のようにクリーンではない試合を無くすためにも、もっと一人一人のレベルアップをしなければならないと思います。そして、このようなことをしてしまった以上、この大会で得たものは無いので、我が校で優秀選手賞を受賞した人を辞退、そして3位という成績も辞退します。これは先ほど話し合った結果です。」

記者「キャプテンの浅野選手は何か言ってましたか?」

井原「雷選手に対して申し訳ないと、そして同じく千葉県代表の佐倉中央高校には頑張って欲しいと言ってました。」

記者「ありがとうございました。」

井原「ええ。」

控え室までの廊下を歩きながら井原は涙を一粒頬に伝らせた。


医者「雷さん、診断の結果右足首の捻挫、そして肋骨2本にヒビが入ってました。」

雷「そうですか。」 

医者「残念ですが、明後日の試合には…」

雷「いえ、出ます。」

医者「しかし、怪我が悪化する恐れが…」

雷「構いません。私はどんな事があろうと出場します。最後の10分だけでも良い。この大会に全てを賭けてきました。」

医者「そうですか…。ならば貴女に全てをお任せします。一応、胸の周りには包帯を巻いてください。万一悪化しても私どもは責任を負いません。頑張ってきてください。」

雷「ありがとうございました。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る