第68話 準々決勝を前にして襲うピンチ

次の日、会議室は少し重い空気となっていた。

後藤「どうなるかは分からないが、すこしやり切れないな…。」

15分前、集合時間となってもまだ会議室に来ていない選手が何人かいたのだ。

後藤「広瀬、吉沢。ちょっと呼んできてくれないか。」

二人はそれぞれ、703号室と714号室の扉をノックした。しかし、応答がない。ロビーからマスターキーを借りて後藤と共に入ると…

吉沢「ちょっと!大丈夫ですか!」

広瀬「こっちも!」

後藤「4人とも熱があるな…。この時期だとインフルエンザかノロウイルスか。」

少し開いていた扉からバスルームを見ると後藤は確信した。

後藤(嘔吐した形跡…ノロウイルスか。)

後藤「広瀬はメンバー全員にマスクをつけるよう指示しろ。吉沢はもう一度ロビーに行って現状の報告と保健所、保護者に連絡だ。」

広瀬「皆さん、マスクを付けてください!」

桃子「何があったんだ!?」

広瀬「暫くは703、714号室には近づかないで下さい!」

亜紀「恐らく、体調不良でダウンかな。近づいては行けないということは感染症かもね。」

柚月「その部屋って誰だっけ…?」

桃子「703が悠香と美春、714が樹里と萌だ」

愛子「間違いなく3人は決勝まで試合には出られないどころか、会場にも来れるか怪しいですね。残念ですが仕方のないことです。」

そして今に至る。部屋では消毒作業がされていて、立ち入り禁止の看板が立っている。

後藤「診断結果が出てき次第教えるが、3人はもうこの大会の試合には出られない。直ぐに治れば観客席からの応援をしてもらう。3人にはそう伝えた。皆も今一度手洗いうがいを徹底してほしい。埋め合わせのためにもしかしたら慣れないポジションをやってもらうかもしれない。理解を頼むぞ。」

メンバーは黙って頷いた。

後藤「それじゃ、ビデオを見よう。」

広瀬がビデオを再生する。

雛「これは…初めて見た…」

まず映し出されたのは、5人ほどが手を繋いで輪になり、グルグル回っているプレー。守備陣はキッカーと中で合わせるプレーヤーのどちらに注目をすればよいか分からず困惑している。そんな中、輪を成していたプレーヤーが突然散らばったかと思うとボールが蹴り込まれてそれを合わせて得点をしていた。

次は複数人が並んで誰が蹴るか分からないプレーで殆どが見たことあったが、こちらもかなりレベルが高かった。

その後も幾つものパターンを研究した。その中で分かってきたことがいくつかあった。

・キッカーは4番のDMFの桂と9番OMFの稲森で8割近くを占めている。

・直接狙ってくるプレーはキッカーに特徴があり、中で合わせるプレーは合わせる側にある。

・繋いで得点をするプレーが少ない

後藤「これらを知る事は大きなアドバンテージにはなる。しかし、今見たものが全てではない。慢心はいずれ大きなミスにつながる。常に想定外を想定して明日は望んでくれ。光、一言を頼む。」

光「そうですね。メンバーが欠けて出られるチャンスが増える可能性はある。だからこそポジションを奪うつもりで全力でやってほしい。最終ラインは私ともう一人が常にいるから大きくプレーしてきてほしい。」

その後の検診結果はやはり後藤の予想通り4人ともノロウイルスに罹患していた。食物の感染からではなく、不十分な手洗いなどによるものであった。

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