第67話 執念よ届け!
後半に入り、最初のプレーで先ほどと同じように西条がドリブルしてきたが、つかさがボールにちょんと触れるだけで奪ってしまった。
西条「ありゃりゃ!?」
つかさはドリブルで一人躱すと左サイドを駆け上がるかれんを見て、バックスピンをかけたスルーパスをかれんに送った。かれんは相手とマッチアップすると中心に向かってドリブルをしたが、相手がかれんの足元を見るとボールが消えていた。一瞬で足裏で後ろに転がしてフォローに来ていた美春がそのまま持ち上がった。しかし、姫野がスライディングでピンチを未然に防いだ。かれんがすぐにボールを受け取ると、前線に向かって大きくボールを投げた。
姫野(なんであんなに飛ぶのよ!)
ボールはハーフウェイラインを過ぎた辺りからペナルティエリア前まで飛んだ。つかさがCBを背負いながら収めると、バックパスを転がして桃子がシュートを撃ち込んだ。しかし、持田が体の正面で受け止めて前に倒れ込んだ。
桃子(くそっチャンスだったのに!)
このシュートを皮切りに、佐倉中央は10分間に6本のシュートを放ったが、持田の好セーブなどに阻まれて得点にはならなかった。
持田「流れ断ち切る為にシュート撃ってけ!」
その後の5分間は先ほどとは一転して春麗館ペースとなり、4本のシュートがあったが同じくゴールには繋がらなかった。
後藤(中盤の間伸びが目立つな。ポジションとメンバーを少しいじるか。)
後18
OUT:13 真希→IN:4 樹里
OUT:6 マヤ→IN:20 仁美
OUT:7 かれん→IN:14 花
3人を入れ替えたのち、ポジションを3-5-2とした。飛鳥をRWB、仁美をLWBに配置して亜紀がCMF、つかさと桃子のツートップとした。
光「どんどん前線にパスを出していこう!」
佐倉中央はこのポジションにして更に攻撃に厚みが増した。
つかさ(このまま攻め続ければいずれ入る!)
春麗館は守備の枚数を増やすが、じわじわと均衡が崩れてきた。そうこうしているうちに後半も既に35分を過ぎていた。何とか凌ぎきりたい春麗館と何とか一点をもぎ取りたい佐倉中央。そんな中佐倉中央はつかさのシュートからCKのチャンスを得た。キッカーは花。
花(浮き球は恐らくキャッチされかねない。ならニアサイドにいるつかさを使うしか!)
花はライナー性のボールをニアサイドにいるつかさへ送る。
つかさ(トラップしてからじゃ遅い!)
そう考えたつかさは地面スレスレのボールを身体を相手に預けて回転しながら追い討ちを掛けるようにしてシュートを放った。
持田(まずい!それは予測してなかった!)
しかし、シュートはクロスバーに弾かれてエリア内に残った。そこに桃子が更にシュートを重ねるが、春麗館は3人がかりでブロックする。ボールは右サイドの飛鳥に向かった。飛鳥がシュート体制に入るとDFは全員と言ってもいいほどブロックに入った。しかし、それを見た飛鳥は後ろにボールを落とした。そこにいた亜紀が歩数を合わせて右足を振り抜く。目の前に守備はいなかった。ボールはそれ程速くはなかったが、持田は反応できずにゴールラインを割るのを見届けた。そして、頭を抱えてばったりと倒れた。
持田「あぁ…終わった…。」
観客は大興奮だ。カメラ前に走り出すとお馴染みの武士のポーズをして見せた。そして飛鳥と抱擁し他のメンバーとハイタッチを交わした。
姫野「春麗館顔上げろ!」
怒号とも取れるその声に喜んでいたはずの佐倉中央もそちらを見た。
姫野「何諦めてんだ!まだ攻め続けるぞ!」
その声はコートいっぱいに響き渡り、観客はひとり、またひとりと拍手をした。春麗館の応援らしき声もだんだんと高まってきた。
光「夏海、何があるか分からない。集中だ。」
夏海「ええ、勿論よ。」
試合が再開すると、春麗館はパワープレーを通り越した勢いで一気に攻め上がった。最早、持田さえもパス回しに加わっている。
つかさ(奪えればチャンスだけど、ごちゃごちゃしすぎてる!)
仁美(足を伸ばしたらファールになるから攻められないか…!)
美春「仁美!もっと行っていいよ!倒すこと怖がらないで!」
その声を聞いた仁美はボールが西条の足から離れた瞬間にボールに触ってクリアした。アディショナルタイムが提示された。
後藤(3分か。思ったよりも長いな。)
光「とにかく大きく前に蹴れ!自陣でやらないようにしよう!」
佐倉中央はもう逃げ切る姿勢だ。とにかくクリア。コーナー付近でキープは相手陣内でやる作戦のため、今は出来ない。アディショナルタイムも2分を過ぎると、もう何が何でもといった感じで波状攻撃が佐倉中央を脅かした。
姫野(来たっ!ここなら!)
樹里のクリア不足に姫野は左足を振り抜いた。ボールは光の股を抜いてゴールへ向かう。
光(まずい!夏海!頼む!)
夏海は突然現れたボールを右足に当てて外に弾き出した。ピンチはまだ続いてCKのセットを既に始めている。
つかさ「すぐ来ます!」
エリア内に真っ直ぐ飛んできたボールはまたしても姫野狙い。
飛鳥(やらせない!)
高々と跳んだ飛鳥が先に触ってボールをエリア外に弾き出す。しかし落下地点にはシュート体制のGK持田…。
桃子「飛び込め!」
持田「食らいやがれっ!」
ボールは矢のようなスピードでDFを抜けてゴール目がけて進む。
夏海(お願い届いて!)
目一杯手を伸ばした夏海の祈りが通じたのか、ボールは指先に当たってポストに弾かれた。だがこれが運の尽きか、ボールの転がった先にはノーマークの姫野…。インサイドに当ててゴールネットを揺らした姫野と春麗館のメンバーは一斉に観客席に走り出す。佐倉中央は放心状態だ。しかし、ただ一人笑顔の選手がいた。
つかさ「やったぁ!!!ノーゴール!!!」
その声に佐倉中央だけでなく春麗館のプレーヤー全員が振り返る。つかさの目線の先には旗を上げて止まっている副審の姿があった。主審の笛がピッチを切り裂いて佐倉中央の間接FKを指示した。
桃子「オフサイドか!」
光「夏海!直ぐに蹴れ!」
夏海がボールをセットして前へと大きく蹴る。その時点で試合終了の笛が鳴らされた。まだ春麗館のメンバーは何が起こっているのか分かっていないような表情をしている。
持田が蹴った時の佐倉中央の最終ラインは樹里で、姫野はCKで合わせられなかった後にその場で止まってしまっていた。そこにボールが来てシュートをしたことでオフサイド判定となったのであった。佐倉中央は前回3位の強豪との接戦を辛くも突破した。
セレモニーの後、姫野は自分達に贈られた千羽鶴を光に手渡した。
姫野「これ、私達の分まで頑張ってきて下さい。本当に今日はありがとうございました。」
光「ありがとうございます。その気持ち、確かに受け取りました。」
後藤「お疲れ様。ギリギリの戦いだったがよく堪えた。結果としてカウンターからの得点ではなかったが、今日は本当によく頑張った。明後日の準々決勝の相手は大阪の流星学園だ。詳しいことはまた戻ってから話す。」
評価点は以下の通り
夏海:8
光:7
真希:6(後18 OUT)
美春:8 1G
飛鳥:7 1A
マヤ:6(同上)
亜紀:8 1G
かれん:6 1A (同上)
梨子:7
桃子:7
つかさ:6
樹里:6(後18 IN)
仁美:7(同上)
花:6(同上)
2回戦の結果は以下の通り
令和学園8-0魚住
作明4-1水戸常陸
暁月0(P 3-0 K)0光明院
黎明長岡5-2川崎女子
白鶴学園9-1首里女子
藤枝陽明2-0楸
鷹木0-3流星学園
佐倉中央2-1春麗館
準々決勝の試合表は以下の通り
令和学園vs作明
暁月vs黎明長岡
白鶴学園vs藤枝陽明
流星学園vs佐倉中央
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