第16話暁月vs日大船橋

後半に入って両者の攻防はさらにヒートアップした。大森は最終ラインをガンガン上げて完全に攻めの体勢に入っていた。そしてついに両雄が激突する。後半11分、大森が神谷とマッチアップした。大森はCBとは思えない足捌きをして神谷を抜こうとするが、神谷も付いてきている。

大森(邪魔が来ないだけいいが…やはり厄介だな…どうにか!どうにかして抜かねば!)

神谷(その程度のボールコントロールでは私たちの牙城は崩せない。あなたも十分わかってるはず。)

大森(いっそのこと…シュートで!)

大森は隙をみてシュートを放った。しかし、

神谷(シュートモーションに隙がありすぎ)

神谷はボールを掻っ攫った。しかし、これが大森の狙いだった。なんと、大森は足払いの要領で右膝を軸にして回転して左の踵でドリブルしようとしていた神谷のボールをSWへ送ったのだ。会場からはどよめきが起こる。キラーパスを拾ったSWは大森にクロスを上げる。大森はペナルティエリア外からボレーシュートを叩き込んだ。佐久間は一歩も動けない。大森は観客席に向かってガッツポーズを送って吠えた。暁月のサポーターは落胆している。

神谷(やられたわね…。このミスは絶対に取り返す…。)

暁月ベンチは動き出した。CFにチーム最多5得点の9番、3年の浅野を投入した。本来彼女はスタメンだが、温存も兼ねてベンチにいたのだ。

浅野『神谷、引きずるな。』

神谷『別にそんなに引きずってないわ。』

浅野『そうか。』

主審のホイッスルが鳴らされた途端、浅野はシュートを放った。これに最も驚いたのは佐倉中央だった。つかさのシュートにそっくりな弾道だったからだ。ボールは一度大きく外に向かうが、その後ゴールを目掛けて一気に曲がる。選手は誰一人動けないままゴールネットを揺らした。つかさは右足のアウトサイドで放つが、浅野は左足のアウトサイドで放つ。暁月は先制点を取られて1分以内で追いついてしまった。

つかさ(私以外にもあのシュートが打てる人がいるなんて…。)

飛鳥(これが暁月高校…。)

光(さすが昨年インターハイ出場したというだけある…。)

愛子(あれを抑えられるGKはいるの?)

後藤(やはり流石だな。浅野サクラ、現状日本で唯一海外クラブからスカウトされている高校生。しかも、それは世界一に何度も輝いているシャンゼリゼFCから…。日本で最も警戒しなければならないFWの1人だな…。)

広瀬(多分、実力はつかさよりも数段上…)

会場からはまたしてもどよめきが起こり、その後暁月の観客席からは黄色い声援が飛んだ。

大森『下を向くな!顔を上げろ!まだ同点だ!もう一度逆転すればいい話だ!』

しかし、そう上手くはいかなかった。日大船橋は何度も攻め上がろうと試みるも、得点はできない。後半37分、浅野がドリブルで中央突破を図る。

大森(これ以上打たせてたまるかよ!)

大森は激しいタックルをする。しかし、浅野は倒れずにむしろ大森が吹き飛ばされそうになったぐらいだ。

大森(ちくしょう…全く腹立たしい奴だ…)

その瞬間、大森は自分でも意図しないうちに更なるタックルに行っていた。大森は全身でタックルしに行っていた。当然想像以上の負荷が掛かったために浅野は大森と共に倒れる。そこは、ペナルティエリアの中だった。主審は笛を鳴らす。主審は大森にイエローカードを提示した。暁月の選手はどう見てもレッドカードだろうと抗議をしているが、主審の判定は覆らない。納得がいかない選手を浅野と神谷が宥める。

浅野『大丈夫。絶対決めるから。』

神谷『何をしても変わらないわ。無駄な注意をされる前にやめときなさい。』

浅野がボールをセットする。GKは手を大きく広げているが、その顔はプレッシャーで押しつぶされそうな顔をしている。浅野がボールに向かって走り出す。浅野のシュートはネットを揺らさなかった。ポストにも当たらなかった。その代わり、まだペナルティエリア内にボールが転がっている。キーパーは左に飛んでいた。意表を突かれて完全に起き上がれていないGKを嘲笑うかのように右隅へボールを流し込んだのは神谷だった。そう、浅野はシュートではなく、パスを選択したのだ。この場面でリスクの大きい選択をすることができた浅野と神谷のメンタルとはどれほどのものだろうか。

浅野と神谷はハイタッチを交わす。大森の顔は屈辱と後悔で真っ赤になっていた。

大森『くそっ…くそっ…くそっ!』

その後、日大船橋は追いつくことが出来ずに試合は終了した。2-1。1試合目に劣らないぐらいの激戦だった。会場からは大きな拍手が選手を包んだ。

流谷2-1佐倉中央

暁月2-1日大船橋

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