第10話 vs幕張南
試合当日、岩名運動公園。ここでは本来人工芝のピッチで試合を行う予定だったが、観客席やピッチ状況の面から天然芝のグラウンドでプレーすることになった。
試合開始から25分経つが、依然として0-0。ボール保持率は佐倉中央が90%以上を占めていた。やはり幕張南サポーターからはブーイングが起こっている
男子生徒『おいつまんねーぞ!』
女子生徒『ビビってないで攻めなさいよ!』
前半33分についにゲームが動いた。幕張南がラインを上げ始め、OF陣がボールを本格的に追い始めたのだ。これが佐倉中央の待っていた事だった。ボールは取られないので、痺れを切らした幕張南のSBもボールを追いに行った瞬間、真希からパスを受けた雛がダイレクトで前に大きくボールを蹴った。
天王寺『しまった!戻れ!』
しかし、時すでに遅し。つかさ、飛鳥、桃子の3人はたった2回のパス交換でCBを抜き去り、GKと飛鳥の1対1の状況ができた。後ろにいる一番近いDFとは5mも距離があった。
飛鳥(みんなが粘ってくれてようやっと巡ってきたチャンスは絶対無駄にはしない…。)
飛鳥はシュートモーションに入った。キーパーは前に飛び出しボールの飛ぶ位置を予測して上に飛んだが、飛鳥はそれを見越して速いグラウンダーのシュートを放った。ボールはゴールネットを揺らした。その瞬間、佐倉中央側の観客席から大歓声が起こった。飛鳥は観客席にいた父親を見つけ、敬礼ポーズを取った。飛鳥の父親は警察官で、佐倉警察署で務めている。飛鳥の父親はそれに応えるように敬礼をした。
天王寺『仕方ない。まだ一点差だ。絶対に追いつける!』
前半3分以来、実に30分ぶりに幕張南がボールを触った。結局、その後の前半ではゲームが動かなかった。
後藤『みんな、いい調子で進められてるぞ。ただ、相手はどんなことをして来るか分からない。常に注意を払うんだ。』
後半開始直後、佐倉中央のフィールドメンバーは違和感を覚えた。前半と違い、幕張南は1人もボールを追わないのだ。このままでは1-0で終了してしまうという状況下とは思えないプレーだ。
光(諦めたということは絶対にない。一旦ボールを保持して止まってみるか。)
光は最終ラインでボールを保持して止まった。しかし、一向に攻めようとはしてこなかった。その時、夏海が光に話しかけた。
夏海『光ちゃん、つかさちゃんに打たせてみたらどう?』
光『なるほどな。伝達しよう。』
つかさはボールを受けようとポジションを下げた。その瞬間、幕張南はGK以外の全員が上がってきたのだ。
光『しまった!』
ボールは天王寺がインターセプトしてドリブルで駆け上がる。
天王寺『待っていた甲斐があったよ』
8対10の構造が出来上がり、素早いパス回しであっという間に夏海・光と天王寺・湯本の2対2となった。天王寺はシュートモーションに入った。光はシュートコースに飛び込んだが、天王寺が選択したのはバックパス。フリーの状態で湯本がパスを受けてペナルティエリアに侵入する。なんとか樹里が間に合い、スライディングでカットしようとしたが、ボールに届かなかった。その瞬間湯本が倒れ、主審の笛が鳴る。主審はPKを指示して樹里にイエローカードを提示した。
真希『樹里、ワンミスで落ち込まないで』
天王寺はPKをしっかりと決めて同点に追いついた。
後半19分で1-1。そこから幕張南の攻撃は勢いを増した。DF陣もシュートをブロックしたりクリアするのが精一杯で攻撃参加が出来ていなかった。後半25分にスーパーサブ伊東が入り、幕張南ペースで進んでいた後半39分に悲劇は起きた。伊東がペナルティエリア外からシュートを放ち、光はシュートコースに入ってブロックした。そのブロックは身体に密着させていた腕に当たったが…主審の笛が鳴った。PKを指し示している。幕張南側は大盛り上がりだ。
光『いやいや!今のは身体に密着させてましたよ!』
主審『いや、残念だが腕が体から離れて当たっていた。カードは出さないからこれ以上の抗議はやめるんだ。』
光『でも…。』
夏海『光ちゃん、大丈夫。絶対止めるから』
光『夏海…。』
夏海『つかさちゃんと飛鳥ちゃんを上げさせて。ハーフウェイラインギリギリまで。』
夏海は光の背中を軽く叩き、送り出した。
天王寺(さっきも決めた。もう勝ちはほぼ確定してるようなもんだろ)
夏海(どっちに蹴る?右?左?それとも真ん中?)
光(頼むぞ夏海…。)
主審の笛が鳴り、天王寺は走り出した。狙ったのはど真ん中で強烈なシュートだ。しかし、夏海はそれを読んでおり、一歩も動かずにキャッチ。その瞬間、前線に速いパントキックを放った。ボールは飛鳥の足に収まり、飛鳥は二枚のDFを物ともせず、つかさにスルーパスを出した。GKはゴールマウスの前で手を広げて動かない。つかさはペナルティエリアに入る前に矢のようなシュートを放った。シュートはGKの右頬をかすめ、ゴールネットを豪快に揺らした。GKの頬からは血が伝っていた。幕張南の観客席は落胆しているのに対し、佐倉中央の観客とどちらにも当たらない観客席は大盛り上がりだった。つかさは夏海に向かって感謝の意を込めて手を合わせた。
四審はアディショナルタイムを掲示した。アディショナルは1分。
伊東『まだ時間はあるっすよ!』
天王寺『幕張南!最後まで足を動かせ!』
主審の笛がなった途端、幕張南は一気に攻め上がってきた。相当焦っているようだ。伊東がシュートを放ったが、真希がヘディングでクリアしてコーナーキックになった。幕張南はGKも上がっていた。幕張南にとってこれが最後のチャンス。逆に佐倉中央はこれを凌げば勝てるという状況だった。湯本がコーナーキックを蹴る。カーブのかかった球は得点王の天王寺のヘディングにピッタリの位置。しかし、夏海がパンチングでクリアをする。夏海は天王寺、光と共に倒れる。そこにボールをトラップせずに伊東がシュートを放つ。
ボールはゴール左上を目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。雛がヘディングしようと飛んだが間に合わない。ボールがラインに差し掛かる直前で、樹里がヘディングで決死のクリアをした。1点目を献上してしまったミスをここで払拭した。ボールは桃子に渡った。桃子はクリアも兼ねてボールをさらに前に蹴り出した。ボールは幕張南のペナルティマークの辺りで止まった。もちろんDF陣も全員上がっていたので守りはいない。ただ1人飛鳥が相手陣内にあるボール目掛けて走っている。幕張南のDF陣は誰も追いつけない。飛鳥はダメ押しの3点目をインサイドキックで優しく流し込んだ。その瞬間試合終了の笛が鳴った。初出場の佐倉中央がベスト4常連の幕張南を破る大番狂わせ。会場は大いに沸いた。
天王寺『ほら、挨拶に行くぞ。』
天王寺は蹲っている選手の肩を叩き、挨拶に行かせた。
主審『はい。それじゃ、3-1で佐倉中央高校がベスト8進出です。非常にいいゲームでした。先ずは観客席に礼をしてそこから握手をして行って下さい。』
フェアプレーの握手をしている時に選手の間で会話が生まれた。
樹里『転んだ時怪我はなかったですか?』
湯本『大丈夫ですよ!』
伊東『私たちの分まで頼みますよ!イヒヒ』
つかさ『頑張ります!』
光『ナイスゲームをありがとう』
天王寺『こちらこそ。そっちのキーパーは私のPKを止めたことを誇りに思え』
夏海『はい。』
観客席も両者暖かい拍手で選手を称えた。
後藤『みんなよくやった。強豪を倒してベスト8だな。次の試合で来週の土曜日の対戦相手が決まるな。んーと、柏第三高校か酒々井高校か。とりあえず、広瀬と吉沢は調査も兼ねて残ってくれ。あとは解散してくれ。』
その後の試合では酒々井高校が1-0で柏第三高校を下した。
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