第92話 沢山の再会
宵闇の竜が黒い炎を口に溜め、それをあたりの燃え盛る森に吹き付けると、一瞬で森が炭になった時には、一同はこの世の終わりかも知れないと感じざる得なかった。
黒い炎は物質を燃焼させず、即炭化させてしまうらしい。
遠くにいるがかなり大きなことはわかる。およそ20メートルほどだろうか。意味もなく森の辺り上空を飛び回り、黒い炎を吐き散らして喚いた。もはや知能らしきものはないらしく、あるのはただの破壊欲だけらしかった。
ブリカッツォは全てを破壊し尽くしても元の思考を取り戻さないだろうとロギチーネは思った。彼は死んで自分を全てを捨て去ったのだ。彼の死は肉体のそれではなく思念の喪失だった。
もはや彼はいなくなり、ただ別の凶暴なドラゴンがいるだけだった。
「どうする?どうすればあいつを止められるんだ」ジャンはただ立ち尽くすロギチーネが腹立たしかった。
「……」ロギチーネは何も言わなかった。
「ちょっと。何かを言いなさいよ」リリーはロギチーネの沈黙が不安だった。
マリア達は何やら騒々しい一団、それもかなりの数の者が、背後の道をやって来るのを感じた。
「おい。なんだお前らは。今は取り込み中だ。この辺りは危険だから引き返せ」ジャンは振り返り、その一団に声を掛けた。マリア達はジャンに任せて竜から目を離さなかった。
「お前らとは無礼だな」謎の集団が言った。
「貴様らこそ何だ」
「そうだそうだ。どけ。我々はこの先に向かっているんだ」
マリアはそのやりとりを聞いていて、何か不思議な感覚になった。何だろう。何故か心が落ち着くような。
「ん?」
「あれ」
「あれは」
ザンくらいの背丈の影が3つ、マリアの視界に入ったり出たりした。マリアは焦点をそちらに向ける。ザンも、リリーも、ジャンとロギチーネも不思議そうにその二本足の狐達を見ていた。
「お、お嬢!」
「マリアお嬢様!」
「いた!遂に見つけた」
「社長。いらっしゃいましたぜ」
見慣れた狐達が小躍りして喜ぶ中らマリアは恐る恐る振り返った。
そこには沢山のいなり総社の狐とギルガン城で会話した騎士、それに見間違える事がない、頭を剃り上げた父上。ギュスタヴ・ベキャベリが立っていた。
「お お父様……」
「マリア。無事だったか」
「お父様」リリーはつい喋ってしまった。しかしこれ程の喋る狐がいたのでは違和感を覚える者はいなかった。
「どうして?」マリアはギュスタヴの前に歩いて行った。
「お前を探していてな。久しぶりに王城にも行った。大変な事になっていたが」
マリアは少し泣きそうになるのを我慢した。なぜ泣きそうになるかは自分でも分からなかった。
「お父様、ごめんなさい。久しぶりね」
「マリア、話は後だ。あのドラゴンは何だ」
「あれは地獄の悪魔の真の姿だ」ロギチーネが説明した。
「何だ貴様は。貴様も悪魔ではないのか」そう言うとギュスタヴは手の平に聖なる気を溜め、瞬かせ始めた。
「それは……神聖術」リリーは驚いて言った。
「お父様、違うの。このロギチーネは仲間よ。彼もあの竜と戦っているの」
ギュスタヴは鋭い目付きでロギチーネを値踏みするように見た。ロギチーネの方もギュスタヴから目線をずらさない。
「お主」ロギチーネが言った。「どのくらいその力を使える?」
「どのくらいとは何だ。偉そうだな」ギュスタヴがそう言うと、100匹のきつね達が一気に身構える。全員がその細い目でロギチーネを睨め付けた。「貴様を浄化しきるくらいは余裕でできるさ」
「なるほど。あの竜。奴にその術が効くかも知れない。その聖なる力が。ただし無事に近づいてら真っ向からそれを浴びせられたらの話はだが」
「空を飛ばなければならん。そういう事だろう?」ギュスタヴが言った。
「そうだ。しかしその術がない」ロギチーネが言った。
「それなら心配無用だ。悪魔」ギュスタヴは目を瞑った。そして小声で何かを呟いた。
(時が来たのですね。私があなたの役に立てる時が)
一同は一斉に辺りを見回す。その不思議な声は辺りに響くわけでもなく、一同の耳に直接聴こえてくるようだった。そう、脳に直接話しかけてきた。
「奴を滅ぼしたら、あんたは責任持って地上の悪魔を連れて帰るか、滅ぼして平穏に戻してくれたまえ」ベキャベリがそういうや否や、上空で何やらまたもや翼の瞬く音がした。
そして黒い影が横切ったかと思うと、今度は眩しい光が頭上に現れて、徐々に降りたってくる。
一同はあまりに眩しくて、真上を直視出来なかった。
それは近くの空き地に砂埃を撒き散らしながら着陸した。「久しぶりだな。呼び立ててすまない」
(構いませんよ。私も我が主も気にはなっていました。あの宵闇の竜をね。参りましょう。きっとうまくいきます)
「
「そんな。神の使い……何故こんなところに」ロギチーネからしたら本来は宿敵。
「昔助けたよしみでな。乗せてくれるか」ギュスタヴはホーリードラゴンに向かって歩き出した。
「すごい……輝いている」ザンはその美しくも白く輝く竜を見て息を呑んだ。
「私が奴の注意を引こう。我が愛馬は空を駆けられる」ギルガンが言った。
「参るか」ベキャベリはホーリードラゴンの大きな背中に飛びついた。
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