暗黒街
第11話 デポイの街
悪路で移動便の馬車が揺れていたせいもあるが、マリアの頭がくるくる回っていたのはそのせいだけではなかった。
今の議題は、どうして戦うのだろうという事だった。議論は白熱して煮詰まり、自分でもよく分からなからなくなってきた。
確かに湖の集落のみんなは喜んでくれたし、お婆さんが感謝してくれたのが嬉しかった。でも相手を斬る以外に何か方法はなかったのだろうか。
お婆さんは、それ程できる事なんてあんまりはない、つまり選択肢なんてそんなにはないって言っていたけれど、私はそうは思わない、思いたくない。それって私が世間知らずで甘い事なのかしら。
悪って何?
マリアは凸凹道で揺れる馬車に酔いそうになった。早く降りたい。運賃は返さなくていいから。そう思った。
「あそこ、見ろよ」同乗する若者が連れと話している。他にはたくさんの花を携えた老婆が1人だけ。幌内は静かで、近い距離で寄り添って座っていたため、否が応にも会話が耳に入って来た。
「知ってるよ。デポイの街だろ」彼の連れが答えた。
流れて行く背の高い尖った針葉樹林の合間から見えるのは、もっと背の高い城壁に囲まれた大きな町で、かなり人口が多そうに見えた。
「やはり噂は本当らしいぜ」悪そうに若者は喋るが、自身は地味そうだ。
「マジかよ」相方もパッとしないが、喋りは一丁前だ。
「やはりドンが死んだらしい」
「ならみんなやりたい放題だろうな」
「無法地帯だそうだ。絶対近寄っちゃなんねえな」
ドン?ドンって何?なんでドンが死んだら無法地帯なのだろう。マリアは興味がないフリをしてしっかり聞いていた。
「街中汚職だらけだと」
「自治都市がこうなっちゃおしまいだね」
「自衛兵もならず者もあったものじゃないな」
「全員悪人だと思った方がいいな」
マリアは目を見開いた。全員悪人?悪人がいるの?
そう思うが速いか、マリアは走り続ける馬車の後ろから飛び降りていた。
悪人って何?悪って?
幌が開いた後ろから、呆気にとられた2人の若者と老婆が見え、みるみる遠ざかって行く。馬車はあっという間に追いつけない距離に行ってしまった。
凸凹した悪路にはマリア1人。辺りは深緑の草木に囲まれて静まり返っていた。デポイまでは距離がありそうだが、あの森を横切った方が近そうだ。
マリアはあの微かに覗く城壁に向かって歩き出した。
森を掻き分けて進むと、草むらに人が倒れているのが見えた。当然マリアは驚き、辺りを見回した。誰も人はいない。
「大丈夫?」うつ伏せで倒れている男は身体つきが良く、帽子を被っていて、布地の服に皮のブーツを履いている。狩人かしら。手元には大きなナイフが落ちていた。
マリアは話しかけたが返事がないので、死んでいる事も覚悟して身体を手で揺らし、顔を見ようと男の体をひっくり返した。かなり力が要った。
「騒ぐな。殺す」
ひっくり返るや否や、俊敏に男は、急に動き出して、屈み込んで覗き込むマリアにナイフを突きつけた。そしてエモノを首筋にめり込ませてくる。
鼻がひしゃげた男は顔中傷だらけで、マリアの顔近くで臭い息を吐きながら、音を立てる吐息を吹きかけて呟く。
「有り金、いや荷物を置きな」なかなか低くていい声をしている。なる程、悪い奴だ。
マリアは剣のつかで男の喉を軽く突いた。すると男はナイフを手放して、起き上がらせた上半身をまた地面に放り出して気絶した。
なる程悪い奴だ、とマリアは思った。
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