セイリシア魔装学園
第10話 セイローン王国、王都『セイリシア』
――七年後。
セイローン王国、王都『セイリシア』。
大陸有数の巨大都市であり、地方都市四つ分か五つ分くらいの面積を有し、人口は国内最大。
大陸を横断する魔導列車の駅や大規模な港が内部には存在し、小都市と同程度の人数が毎日行き来しているというこのセイリシアの供給を支えている。
発展の仕方も国内随一で、日々何かしらの新たな技術が生み出され、周囲と比べても文明レベルが一段階は差があるとすら言われているらしい。
そんな、活気溢れる都市の中を俺は歩いていた。
「相変わらずここは、すげー人の量だな……よくこんな規模で、破綻させずに運営出来るもんだ」
都市の運営って、大変なんだぞ。マジで。経験済み。
「あはは、ホントにね。こういうのを見ると、世界の差を大きく感じるよ」
そう答えるのは、我が幼馴染、フィルネリア=エルメール。
お互い十五になり、現在のフィルの身長は俺よりも頭一つ低い程度。
銀色のボブショートで、ボーイッシュな面があるのは変わらないが、中性的な顔立ちからしっかりと女性らしい顔立ちになり、客観的に言って美少女であることは間違いないだろう。
ただ、残念ながら本人が望んでいた胸の成長はあんまり――死にたくないので、この思考はここでやめておこう。
コイツ、勇者時代のことを思い出してからメキメキと成長して、戦闘能力がやべぇことになってるからな……迂闊なことを言うと血が舞うことになる。俺の。
――現在俺達は、入学試験を受けるためこの都市の『学区』と呼ばれる区画に存在する、ある学園に向かっていた。
その学園の名は――『セイリシア魔装学園』。
イルジオンのパイロット、『
親父も、ドラグナーになりたいならここにしなさいって言っていたしな。
「それにしても、良かったのか?」
「ん? 何が?」
こちらを見上げるフィル。
「ここを受けたいっつーのは俺の要望だろ? お前も、他に何かやりたいことがあったりしたんじゃないのか?」
イルジオンに乗りたいと言い出したのは、俺だ。
そしてコイツが、前世では出来なかった望みを叶えたくて、様々なことに興味を持ったり手を出したりしていることを俺は知っているが、逆にイルジオンにはそこまで惹かれている訳でないことも知っている。
そうである以上、共にあの学園を受けようとしているのは、俺の望みに引っ張られた形なのだろうが……。
俺の問い掛けに、彼女は肩を竦めて答える。
「そりゃあ、ちょっとは悩んだけどね。今の僕は、色んなことが出来る訳だし。でも、やっぱりユウヒと一緒にいるのが一番面白いだろうからさ。ユウヒ、見てると面白いし」
「おう、そりゃ褒めてんのか?」
「褒めてる褒めてる。あとはほら、一人くらい君のことを見ておかないと、大変そうでしょ? 僕元勇者だし、こう、監視的なアレで」
「監視って、何を監視すんだ」
「うーん……私生活?」
「勇者の活動も随分スケールダウンしましたねぇ……あと、元魔王の身から言わせてもらうと、むしろあなたの私生活を監視した方がいいと思うんすけど」
「え、何で?」
「お前、仮に一人暮らしとかすることになったら、バカスカ菓子食うだろ。運動すればチャラとか言って」
「……そんなことはないよ? うん、ちゃんと我慢するよ」
「おう、こっち見て言おうや」
そんな、どうでもいいような会話を交わしながら進んで行くと、やがて前方に目的の学園が見えてくる。
次々と他の受験生達が入って行くその門の前で、顔を見合わせる俺とフィル。
「それじゃ、頑張ろっか」
「あぁ」
そして、コツンと、拳を合わせた。
* * *
セイリシア魔装学園の試験は、午前と午後で二つ存在する。
まずは午前の、学力試験。
名門校故になかなか難しかったが、とりあえず何とかなったんじゃないか、という手応えで無事終了。
昼休憩の間に、フィルとある程度答え合わせをしてみたのだが、大体奴が選んだ答えと同じものを選んでいたので、恐らく大丈夫だろう。
アイツ、俺より頭良いからな。
ただ、学力試験の結果が良かったとしても、そこで安心することは出来ない。
何故ならば、俺達が受ける学科――『機龍士科』は、例年午後の試験の方を重要視しているという話だからだ。
「試験番号154番さん! 機体の調整をします、付いて来てください!」
ここの生徒なのか、学生服に身を包んだ男性スタッフに番号を呼ばれ、俺は待機部屋を出て廊下を進む。
少しして外に出たかと思うと、そのすぐ近くにあった格納庫のような巨大な建物に案内され――そして視界に飛び込む、ズラリと並ぶ、イルジオン。
整備をしているらしい少年少女が慌ただしく駆け回っており、建物内全体が喧騒と熱気で包まれている。
「おぉ……! かっけぇ」
「ハハ、わかるよ、その気持ち。ここはカッコいいよな」
思わず零れてしまった俺の言葉に、人懐っこい笑顔で笑いながらそう言う案内スタッフの男子生徒。
どことなく愛嬌のある人である。
「デナ、次の子! 調整よろしく!」
「はいはい、すぐそっち行く!」
「頑張れよ、少年」
ポンと俺の肩を叩き、愛想の良い彼が去って行ったのと入れ替わりで現れたのは、シャツにオーバーオールという非常にラフな恰好の、やはりここの生徒なのだろう油塗れの女性スタッフ。
「君は154番君ね。はい、君の機体はこれ。古いけど、ちゃんと動くようにはしてあるから」
そうして彼女に連れられ、俺は、一機のイルジオンの前へと立った。
「…………」
オンボロとは言わないが、それなりに長く使われているのだろうことが一目で窺える、年季の入った量産型の機体。
丁寧に使われているらしいことは随所の状態からわかるものの、戦闘用に造られた物の定めか、至る所に傷や凹み、多少の欠けが存在しており、お世辞にも綺麗とは言えないだろう。
だが――俺はこの時点でもう、細かいことがどうでも良くなっていた。
俺の目の前にある、俺のためのイルジオン。
いや、俺のための、と言ってしまうと語弊があるだろうが……一時的にとはいえ、これが俺の操縦機になるのだ。
――実際のところ、イルジオンに乗るのは今回が初めてという訳ではない。
だが、国の規制故に十五歳未満が扱えるのは、かなりの機能制限をされた――というか、色々と装備がとっ払われた、ほぼ浮くだけの簡易機体だったのだ。
魔力を多く消耗するイルジオンという機械に、まだ体内魔力が十分に育っていない子供を乗せるのは危険だという判断からそうなっていたのだそうだが、いつも不満を抱えながら地元の中等部で訓練したものである。
対してコイツは、訓練用とはいえ正式な、何の制限もされていない機体。
これにワクワクするな、という方が不可能だろう。
「……フゥ」
高揚する気分を抑え込み、イルジオンの開かれた前面部から身体を滑り込ませる。
すると、自動で俺の魔力を吸い取って起動プロセスが開始し、前装甲が駆動して閉じるのと同時、全体の輪郭に沿って『
軽く、手足を動かす。
鉄の塊を身に纏っているとは思えない、身軽な感覚。
生身と比較しても、大して差を感じられないかもしれない。
すでに、身体アシスト機能が働いているのだろう。
「魔力パス接続完了、起動シークエンス問題無し、各種挙動問題無し……よし、調整完了。調子はどう? 違和感はある?」
「多分大丈夫っす」
俺の個人用ではないが故に、完全にフィットしているとは言い難いが、動作に支障を来す程じゃない。問題ないだろう。
「武器はどうする? 基本はライフル系に長剣だけど、言ってくれれば変えられるわよ?」
ふむ、武器か。
大小様々な武器が揃えられたラックに視線を巡らし――お、大剣がある。
全長は、俺の身長より頭一つ長い程度。
両刃で、剣先が長剣のように尖っておらず、長方形のような刀身の形をしている。
他に良さそうなのは見つからないし、これにしよう。
あとは……一応銃器枠としてソードオフショットガン辺りも持っておくか。
俺の戦闘はどこまで行っても近接特化なので、中~遠距離運用が主な魔導ライフルとかよりは、こっちの方がいいだろう。
「それじゃあ、この大剣とそこの銃身の短いショットガンで頼んます」
「大剣がメインウェポンか、随分と面白い構成ね。それで大丈夫なの?」
「むしろ、そうじゃないと戦えないもんで」
と、そこで彼女は、興味深そうにまじまじとこちらを見詰める。
「へぇ……君、名前は?」
「ユウヒ=レイベークです」
「ユウヒ君ね。私はデナ=ロンメル。ここの生徒で、見ての通り整備が仕事。だから、君がドラグナーとしてこの学園に入ったら、もしかしたら私が担当することになるかもね」
そして彼女は、ちゃちゃっと装備を弄ってイルジオンの武器搭載部を大剣とソードオフショットガンのものに変更し終えると、ニコッと微笑む。
「さ、準備完了。行き先はあっち。――それじゃ、頑張ってね!」
サムズアップしてくれる女生徒に、俺もまたサムズアップを返し、格納庫を出たのだった。
――午後に行われるのは、実技試験。
イルジオンでの、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます