五人目の家族

「事実は小説よりも奇なり」とはよくいうがそんなことはない。

小説に書くほどの価値はなく、しかし事実としては少し珍しい"奇"がそこにあるだけで。

そんなただの実話に基づいた話。


私が中学生の頃に町内で覗きが出ました。

田舎故、そんな"テレビの中の話"が身近に起こると我々一般人は色めき立つものなのです。

町内では防犯ブームが巻き起こり、踏めばジャリジャリ鳴る砂利を敷地に敷き詰めたり、前を通れば灯りがつく電灯を設置したり。

我が家は母父私姉の、年頃の女を含む四人家族ですので他人事ではありません。

そうして次なる覗き魔の襲来に我々は備えていました。

しかしいつまで経っても砂利は鳴りませんし電灯も灯りません。

「我々の防犯意識に恐れをなしたか!」と町内に祝勝ムードが漂い始めた頃、部活帰りに何気なく私が「そういえば町内に覗きが出て〜」と、今回の騒動を同じ帰り道のY君に話しました。

するとY君は「あー、だからか……」と、なにやら納得した顔で頷くのです。

「なにが?」と私。

「え、いや、この間お前ん家の前通ったら屋根の上でおっさんが踊ってたからさ……意味わからんくて怖かったんやけど、あれ覗き魔やったんやな」と。

その家の人間がが死ぬ日、その家の屋根で踊る妖怪の話を本で読んだことがあります。

「妖怪が覗いていたのなら仕方がない」

そういって我々の町から防犯ブームは跡形もなく去っていきました。

僅かな心の引っ掛かりを残して。


我が家で人死は出たのかって……?

私の記憶のある限りでは父も母も姉も私も死んではいません。

しかし、もしかすると家族の誰の記憶にもない"5人目の家族"が我が家にいて、その方が亡くなったのかも知れませんね。

それからというもの畦道に花が咲く頃になるとその5人目の家族、兄でしょうか、それとも妹なのでしょうか、はたまた……そんな誰にも知られることのなく死に、忘れ去られてしまった彼を思い出すのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る