第26話ノクターナル2

フロアの真ん中にガラスで仕切られた店内は、片側には1人掛けのソファー10セットほど小さな丸テーブルと一緒に並べられ、ガラスの向こう側には、雛壇にセーラー服姿とスクール水着の女子達が12、13人ほど座っていた。


皆一人一人ホワイトボードを持っていて、そこに名前と年齢が書かれていた。

中には〝指名してね〟と露骨にアピールするものまで居た。


入会金5万円、外に連れ出すのに8万円~(ランク別)とかなり高額にも関わらず、薄暗い店内には12人ほど人がソファーに座り、ウェルカムドリンク酒を飲んでいた。



-東京郊外-


「おう、やっと目え覚めた?畑中さんよ」


畑中は、倉庫らしき場所で地べたに寝てるところをやっと目を覚ました。

目の前には、明日香達三人と、京也と花道が立っていた。


「な、なんだお前ら…ここはどこだ?」


「ここは、俺んちの親父が使っている廃材置き場にしている倉庫さ」


「お、お前は…俺の舎弟はどこだ?」


「あそこで寝てるやつの事か?」

京也が親指で斜め後ろを指すと、口から血を流す畑中の舎弟が横たわっていた。


「うう…」

「暴れるから、寝てもうただけやで」


「ちょっと聞きたいんだけど」

明日香が畑中の目の前にやって来た。


「お前は、あの時の…」


「弘田彩佳の事なんだけど」


「し、知らんな。そんな女」


「そら通らんで畑中さん。あんたの部下からきいてんねや俺ら」


「部下?」


「そうだよ」

そう言って、花道は錠剤の入ったパケを指で2回ほど弾いて畑中に見せた。


「うう、それは…金田の野郎…」


「ちょっと!それで弘田彩佳の事なんだけど」


「しらばっくれても無駄なんだから」

真希は、いつの間にか手にトンファーを持っていた。


「手間かけさせないでね。この娘、あの時の続きしたがってるから」

カレンはそう言って、明日香の肩に手を置いた。

その時の明日香の顔は、腹を空かせた狂犬のようだと、後に畑中は語っている。


「畑中さんよ。手足縛ったりしてないのは、あんたがちゃんとしてくれると思ってるからやで」

京也が畑中の側に来て、屈んで言ったときの目は、まるで獣、狼の目のようだったと、後に畑中はそう語っている。


「うう…」


「あんたさ、水揚げする前に弘田彩佳のDVD撮ったっしょ」


花道の言葉に畑中の顔色が変わった。


「ははは。部下と一緒で分かりやすい人やな(笑)」


「DVDてなに?」

「あ、明日香それはいいから」

真剣な眼差しで畑中に聞く明日香を、真希は宥めていた。


うう…クッソ…

あのコンビだけでも厄介なのに、この女…

乙中の代貸しじゃなかったら、あの時…

そっか、そうだ


「おい、オッサン!独り言は家に無事帰れてから言えや」


京也にあの目で凄まれ、畑中はヤクザのプライドをそっちのけで怯んでいた。


「お、おおお前、その目は…」


「うわあ、久しぶり見た✨その目。どうなってんだろ?」

緊張感ある場だったが、明日香は京也の肩に両手をかけて、正面からマジマジと見だした。


「おい、明日香…」


「明日香止めなさいって」

京也も明日香のその行動で我に帰り、真希たカレンの二人に止められ、明日香は不満げな表情を見せた。


「あー、元戻っちゃった。不思議…」


「いや、お前の方が不思議だぞ」

花道は、少し呆れ加減な表情を見せたが、直ぐに話を切り替えた。

「で、どうなんだよ畑中さん」


畑中は、勘弁したようだった。


「うう、DVDはこのシノギを持ちかけた、芸能プロダクションの男に渡している」


「そうかい。ほな、水揚げ先はどこや?」


「そ、それは…」


「ちっ、真希、ちょっとそれ貸してくれ」

京也は真希の持っていたトンファーを手にした。

トンファーの持ち手を、長い方に持ち変えて

京也はまたあの目に変わった。


「ま、待て。わ、分かった、言う。言うから」

後ずさりしながら慌てふためいていた。

「て言うか、なんでこんなことするの?」


明日香に言われた畑中は、うつむき加減で笑みを浮かべた。


「何がおかしいんだよ」


「お前らさ、全然世の中分かってねーよ。まるで俺が無理やり拐ってきて働かせてるみたいな顔してるじゃねーか」


「なんだよ。何が言いたいねん?」


「あの女達はな、皆家や学校に居場所がない、かわいそうな女達なんだよ。父親に毎晩イタズラされたり、帰り道にワンボックスに連れ込まれレイプされたりして正気を保てなかったり。俺達はそんなに不幸なやつらの受け皿になってんだよ!」


「勝手なこといってんじゃねー!」

花道の言葉にも、薄ら笑いを浮かべていた。


「正義の見方ぶりやがって、お前らに何ができるんだよ。お前ら学校や地元で目立ってるらしいが、その影になったやつを見ようとしたことあるのか?」


「何が言いたいの?影って…」

明日香達は、畑中の勝手な言い分を聞き入ってしまっていた。


「あの山田達を覚えてるか?お前らにやられてから、すっかり他のやつになめられてパシり扱いだ。金田も地元で肩身狭くなって俺の所に身を寄せてきたしよ」


「そんなの自暴自棄じゃん」

「自業自得よ明日香」


「それによ。俺のやってることが気に入らねーらしいが、お前の親父がやってることはどうなんだよ」

畑中は、明日香を指差した。


「パパ?パパがなに」


「俺のシノギも、あの女の水揚げ先も、お前の親父が知っている。お前の親父はこっち側だからな」


そう畑中が言った瞬間、京也は強烈なパンチを畑中にくり出した。


「ぐはぁっ!」


「さっきから大人しく聞いてりゃてめえ!」

2発目をくり出そうとした京也を明日香は止めた。


「京也待って!どういう事?パパがそっち側って…」


不安と怒りが混じりあったような、そんな複雑な表情を明日香は浮かべていた。







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