第18話アッシュ2
「明日香さん」
学校の廊下で、珍しく茂の方から声をかけてきた。
「ん?なに茂」
茂の隣には、茂と同じ特進クラスで委員長をしている戸田友梨香が、不安な表情を浮かべ立っていた。
「沢流さん。ちょっと相談したいことが…」
「あ、戸田ちゃんだ。久しぶり、どうしたの?」
明日香は戸田の事を覚えていた。
2年前、この中学に上がった頃、7つあるクラスの中で、茂の居る1組だけは特別な進学クラスになっていて、それを明日香は真希とカレンを連れて見に行った時に
「他のクラスの子が、勝手に入ってきちゃダメ!」
と注意してきた女子が戸田友梨香で、戸田は、あの時のメガネをかけた髪の毛2つ結びの見た目のまま、現在もあまり変わっていなかった。
あの時以来、見かけることはあっても、話す機会はなかったはずなのに、自分の事を覚えていた明日香に、戸田は少し驚いたようだ。
「あ、あの、ごめんなさい。私、友達でもないのに突然相談なんて…」
戸田は、願い事でもするかのように、両手の指先を折り曲げて胸の前で合わせ、俯いていた。
「なんで?私、この学校の同学年の子達は、基本、皆友達だと思ってるよ」
「さ、沢流さん…」
明日香のその言葉が、よほどありがたく感じたのか、戸田は目には涙を浮かべ、ようやく顔を上げた。
戸田の相談はこうだった。
小学校の頃から、家も近所で塾も同じ女子、弘田彩佳の様子が最近おかしいと。
成績はいつも学年トップを競い会う仲で、良きライバル、良き親友でもある弘田彩佳なのだが、最近、塾にも顔を出さず、学校も休みがちになっているという。
スマホでラインを送っても既読にすらならなくて、家に行っても、母親が具合が悪いと言って、最近部屋から出てこないのだと、困った様子を見せていた。
戸田が話し終わった所で、真希とカレンも教室から出てきた。
「メガネちゃん達と何やってんの明日香?」
「どんだけトイレ長いの?とか思ってたら、戸田さん?」
「うんそう。なんか戸田ちゃんのクラスの子が、学校来なくなったんだって」
「へえ…て言うか、何あんた。探偵でも始めたの?(笑)」
「で、どうしろと言うのかしら?」
「あ、はい。それで僕の方も調べていたら、これを見てもらって良いですか、お三方」
茂が見せたスマホの写真には、チンピラ風の男性に、黒塗りのクルマに乗せられようとしている、弘田彩佳が写っていた。
その写真を見た三人は、思わず目を見開き、三人同時に声を出した。
「こ、こいつ!?」
そう。その写真に写る弘田彩佳をエスコートする男性は、あの畑中だった。
戸田友梨香からされたこの相談事が、後に公安や24区を巻き込む事件に発展していき、明日香の運命を大きく動かすことになるとは、この時誰も思っても見なかった。
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