第17話アッシュ
「クソ。いつになったらバンカーになれんだ」
そう言って、歌舞伎町でぼやいているのは
あの金田だった。
「高校には行かず、畑中さんの言われるがまま、興腺会に入ったは良いが、部屋住みで事務所の掃除と電話番ばっかの毎日で、もう3年もたっちまった」
「おう金田」
「あ、黒木さん。お疲れ様です」
黒木は興腺会の頭補佐で、バンカーの1人だ。
「どうだ調子は?」
「いえ、今日はさっぱりです」
「そうか。ま、やっと丸押し任されるようになったんだから、しっかりやれや」
黒木は、通りかかりに見かけて話しかけただけだったようだ。
さっき黒木が言っていた丸とは、とある薬物の錠剤の事だ。
押し=販売だ。
本当は、こんな地味なシノギやるはずじゃなかったが、3年前のあれ以来、俺のツキは完全に落ちちまった。
沢流明日香。
あの女が俺の前に現れて、あの時あの女にアッパーを食らった辺りから、おれの歯車は狂い始めた。
畑中さんには、「あの女には絶対に手え出すな」と言われたが、俺にもメンツとプライドがある。
ここらの5つある中学の番格の1人で、あんなガキに負けたことが他の番格達に知れたら、それこそ笑い者になってなめられる。
そう思った俺は、直ぐに仲間と下の者を集めて沢流明日香を待ち伏せした。
最初5人で行ったが、あの女三人に記憶が飛ぶ程の勢いで、瞬殺されてしまった。
その後、今度は人数を倍にして、例の河川敷で待ち伏せしていたら、今度はあの南中の二人が突然現れて、トラウマになるくらいボコボコにされた。
今思い出しても、背筋に寒気が走るくらい凄まじい強さだった。
〝銀浪〟真壁と〝龍神〟風間。
あの二人には、もう会いたくない。
あの時の乱闘を見ていたもの達が、後にあの二人を〝南中のテンペスト〟と呼ぶようになった。
その事があってから、仲間は俺から離れていき、いや、ハナから俺に仲間なんて居なかったんだろう。
地元の連中は、皆俺をハッタリ野郎と下に見るようになり、任されていた畑中さんの売春クラブの女集めもできなくなり、俺はどんどん落ちぶれていった。
沢流明日香…
あいつさえ現れなければ…
「どうも、金田パイセン。お久しぶりです」
歌舞伎町のゲーセン前に立つ、金田に突然声をかけてきた者が居た。
「お、お前は!?」
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