第11話銀浪 真壁京也

小5の時、神戸からオカンと二人で引っ越してきて、登校初日に花道とケンカになった。

元々格闘技を色々とやっていた俺は、今まで地元では負けたことがなかったが、この花道だけは今までのようなやつとは違った。


まるでデカイダイナマイトでも背負っているような迫力と、同じ年とは思えないパワーで、俺を圧倒してきた。


今までの俺は、拳を合わせた相手とは憎しみを生むか、自分の下に着かせるかのどっちかだったが、花道とお互いの力をだしつくすまでやりあった後、なぜか、心の空くような爽快感に包まれた。


こいつが俺の穴を埋めてくれるやつなのかも。

俺はその時本能的にそう思った。


生まれて初めて引き分けた俺は、生まれて初めて自分と同等になる友と呼べる相手と巡り会えて、今までと違った毎日を送るようになっていた。


その日以来、花道とはずっと二人でつるんで、自分らの行くべき道を歩いてきた。


俺の叔父に当たる人は、俺にいつもこう言っていた。

「京也。力が強いだけじゃダメだ。力と言うものは大きく別けて3つある。ひとつは〝金〟二つ目は〝情報力〟そして、もうひとつは〝人間力〟それを3つ身に付けろ」


その人に、てっぺんを取りたいならその3つを身に付けろと言われ、俺は毎日何事にも積極的に取り組んできた。

格闘技を始め、ネットや本で色んな情報を取り入れ、成功者達の話を聞いた。


東京に引っ越してからも、花道と言う相棒が出来て、あいつとつるんでいるうちに、高校に上がる頃は、俺は〝銀浪〟花道は〝龍神〟という、2つ名がつく程の不良達のカリスマ的な存在になっていた。


自分は、てっぺんを取る力を手に入れつつある。そう思っていた。

あいつに会うまでは…


「京也!またボーッとしてんの?さっきからぶつぶつ言っちゃってさ。うちのパパみたい」


「明日香か。お前と違って考えごといっぱいあるんや俺は。あー、腹減った。飯行こうぜ」


「はあ?何?何考えてたの?女?」


「女?アホかお前…」


「あのさあ、お前らさ。俺らの居る前でイチャイチャすんのやめてくれる?」


「はあ?花道、してねーよ」

「してたよ明日香」

「真希」

「暑いわ今日。私パスタがいいな」

「出たカレン。暑いから熱いもの食べるんじゃないの。ね、京也」

明日香が言った所で、京也の携帯がなった。

「…わかりました」

「ん?なんだ京也、用事か?」

「あー、わりぃ花道。今から24区に親戚の集まりがあるから、行かなアカンは俺」


「えー、行った事ない24区。ねー、京也。ついていって良い?」


「お、お前な…」


「こら明日香。どの面下げて人ん家の親戚の集まりに顔出すの?」


「良いじゃん真希。私ら京也のれーこーでーす。て感じで行ってさ」


「こーら明日香。その指辞めなさい」

そう言ってカレンは明日香の立てた小指を手で伏せた。


「あはは、ま、そう言う事やから、ほな、俺行くわ。そこのメガネも飯連れてってやれよ」


「おお!びっくりしたお前!いつの間にそこに居たんだよ」

そこには、花道の影に隠れるように立っていた茂がいた。

「イチャイチャするなと言っていた辺りからです。花道さん」

「お前存在感なさすぎじゃね?」


「あはは、そっか、じゃ、今日は茂のおごりか。どこ行く?あ、じゃあね京也。行ってらっしゃい」

明日香がそう言って手を振ると、京也も手を振って答え、駅の方へ歩いていった。


「なんで茂のおごりかよくわかんないけど、そこまで言うならおごられてあげても良いよ」

「…」真希さん?


「僕ちゃんお金持ってるもんね。じゃ、もっと良いもの食べようかしら?パスタかな」

「…」か、カレンさん。


「よーし!ランチ食べたら、駅に新しくできたパンケーキランド行こう!」


「…」明日香さん。

茂は、ずれたメガネを指で戻した。


高校は別々になったが、僕は僕の時間がある限り、明日香さんの側に居るようにした。

存在感がないと言われようと、ストーカーだと呼ばれようとも、僕はこのまるで太陽のような光を放ち、強い引力のようなもので、知らず知らずに周りを巻き込んでいっている、大型台風のような沢流明日香を側で見続けていたいんだ。

そう思っていた。

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