第9話乙中正道
30年前、東京24区がまだ出来る前、うちは大したシノギはなく、的屋稼業の小さな組だった。
時代の流れに乗れず、組の存続も危ぶまれるなか、関西からあの真壁会長率いる〝真王会〟がついに東京に乗り込んできた。
次々に吸収されていく都内の組織。
その手口は凄いと言う他なかった。
なんの対策も出来ないまま、うちのような小さな組にも〝真王会〟のファミリー組織、沢流明夫組長のいる総浪会がやって来てた。当然命をはって組を守ろうとする先代の乙中空道に、沢流明夫はこう持ちかけてきた。
「このままここで縄張りを守っていても、ゆっくり時間をかけて消えていくだけだ。もうすぐ新しい地が出来る。そこで一緒にやっていきませんか?」
あっけにとられる先代だったが、沢流明夫はこう続けた。
「あんたの所は歴史のある組だ。あんたのところが頭でいい。うちの総浪会はあんたの所の下に着く。必ず損はさせない」
吹けば飛ぶようなこんな小さな組に、そんな言葉をかけてくれた沢流明夫の言葉には、何か暖かみのようなものがあった。
このまま消えていく。
確かにその通りだと思った先代は、沢流明夫の提案を、その場でありがたく了承した。
そのお陰でピンチを脱したうちの組は、〝真王会〟のファミリーの一員になり、沢流明夫の言っていた新しい地、〝東京24区〟計画に尽力をつくす事となった。
その後、沢流明夫は病気で自分が長くないことを知り、義理の息子の総一(当時学生だった)を跡目に、と言うはなしになり、うちの先代も引退した後、俺も乙中組を継いで、俺が組長、総一は代貸しと言う関係にはなったが、総一とは兄弟みたいなものになった。
だが〝東京24区〟ができて20年。
俺は今までただ、この座に座っていただけだった。
しかし総一は違った。投資会社を中心にファミリーのフロント企業を何社も作り、マネーロンダリングやタックスヘイブンで、資金の流れを上手く作った総一は、ホテル経営、格闘技興業、芸能プロダクション、観光会社などを立ち上げ、その全ての会社を軌道にのせ、あの小さな的屋稼業の組を、ここまで大きくした。
この24区の高層タワーマンションの3フロアーが乙中組の本部になり、俺はついに次のマフィアンコミュニティサミットで、50人目マフィアのボスになれることになった。
このボスになることで、初めて真壁会長と会うことが出来る。
一代で全国制覇をやってのけた、まさに生ける伝説の〝真壁澪〟に。
「組長、失礼します」
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