第4話守川茂 千里眼メガネ
僕の名前は、守川茂。
見た目は刈り上げ坊っちゃんヘアーに、のび太くんメガネ。
家は、代々医者の家庭に育ち一人っ子。
勉強は学年トップの成績だが、運動神経0。
友達は一人も居なくて、暇があれば六法全書を読む。そんな寂しい少年だった。
5年前のあの時までは…
逆上がりができず、残され指導を受け。
運動会では、貧血を起こし、次の年から放送委員になり。
この見た目通りの僕は、周りから疎まれ、カモられ、ずっと苛められてきたが、不思議な事に、なれるとその日常すら当たり前になってくる。
だが、人間と言うのはどんどんエスカレートしていくもので、
ある日、軽く頭を叩いたと思えば、今度はグーで顔や腹を殴りだし、それもだんだん強くなっていく。
ある日、「100円貸してくれ」
と言われて、言われた通りに貸すと
次の日には500円になり、そして1000円になり、10000円になっていった。
さすがに10000円単位になると、親に気づかれる。
だが、それを止める術は僕にはない。
なすがままに、日々ボロ雑巾のようになっていく僕。
家に帰っても父は留守が多く、母は旅行三昧で、お手伝いのおばさんが、料理、洗濯、掃除などをして、さっさと帰っていく。
ただ、親が外科医と言う事もあってか、キズ薬等は家に豊富にあり、毎日使っているうちにキズや打撲にはだいぶ詳しくなった。
そんなある日、僕は同級生と1つ上の上級生のイジメのグループに、帰宅途中にある河川敷の高架下に呼び出された。
体育の時間に、僕だけが高跳びを飛べなかったと言うだけの理由で。
「おい!お前さっさと歩けよ」
「山田さん達がまってんだよ」
そう言ってるのは同級生の僕を毎日駒使いのように扱う石川と田沢で、1つ上の山田に逆らえず、その鬱憤を全て僕にぶつけていた。おまけに今背中を押され、呼び出された場所に着く途中でドブにはまってしまった僕は、その時点ですでに満身創痍だった。
「おう!遅いぞ石川!千里眼メガネ」
なんなんだ千里眼メガネって。
後で聞いたことだか、先を見通せるのではなく、先回りして先方の注文物を用意出来ることから、この山田がそう名付けたらしい。
僕にしたら、そんな事造作もないことだが、生きていく上で自然と身についた事だ。
最初はこのあだ名を不愉快だと思っていたが、定着した今ではなんとなく気に入っていたりする。
高架下の捨て椅子に座っているのは、山田、丸山、浜中のお決まりの3人組だ。
石川達は、この3人組に使われ、そして、この3人も、このまま僕が上がる中学校の番格の金田と言うやつに使われている。
その金田のバックグラウンドには、ヤクザがついていると言う噂を、僕の千里眼情報網に引っ掛かっていてわかっている。
つまり、この世界のカーストの底辺が
僕だと言う事だ。
「おいメガネ。お前高跳びできねーらしいな。俺が教えてやるよ」
「おう、よかったなメガネ。山田さん運動神経抜群すもんね」
「こいつマジすっとろいんすよ。イライラしますよ」
「ジャンプしてみろよメガネ」
「て言うか山田。こいつなんか臭くね?」
その場でジャンプをさせられたり、
蹴られたり、笑われたり。
こんなやつらに…
なすがままにやられている自分が、流石にくやしくなった。
「お?なんだこいつ。泣いてね?」
「はん、ドブくせーし、とべねーし。ダッセ」
「おまけに泣いてやんの。クソダッセ」
5人の笑い声が高架下に響き、気づけば僕は膝をつき、両手をついて泣いていた。
僕に戦闘力があれば…
いや、僕に必要なのはそれじゃない。
本当に必要なのは、こいつらに向かっていく、ほんの一欠片の勇気なんだ。
わかっている。わかっているのに。
そのほんの一欠片が、なぜ僕にはないんだ。
誰か教えてくれ。
「おら!」
と、石川の蹴りが泣き崩れている僕の顔面を捉えた。
口から血を流し、後ろにた折れ込む僕を、心配してくれるものなど当然誰もいない。
「おい、メガネ。今日の授業はここまでにしてやる」
授業だったのか今までのは…
「メガネ。毎月俺のところに授業料10万円持ってこい」
「はは、月謝制ですか山田さん…じゅ、10万⁉️ちょ、ちょっと高くないすか!?」
「なんだ石川。じゃ、お前が代わりに山田んとこに持ってくるか?」
「い、いや無理っすよ。こ、こいつん家医者だし、金はありますよ…でも」
「でもなんだ石川。金田さんからのノルマなんだよ。文句あんのかよ」
「い、いえ。すいません」
山田に凄まれ、なにも言えなくなった石川。
一瞬僕を庇ってくれたのか?などと甘いことを思う自分が本当に情けない。
泣き崩れている僕の顔面に、容赦なく蹴りいれてくる輩がそんな心を持ち合わせているわけがない。
10万円と言う額にびっくりしたんだろう。
「おい、メガネ。今週の土曜日までに用意しとけ。金田さんと取りに来るからな」
「用意できなかったら、お前の授業内容がきつくなるだけだぞ」
「聞いてんのかメガネ?石川行くぞ」
山田達三人は、僕にそう言って石川達を連れて帰っていった。
人通りは少ないとはいえ、何人かサラリーマンや高校生、主婦が見ていたはずだが、なぜか誰も見て見ぬふりだ。
「どうすれば良いんだ…僕は…」
そう思って涙をぬぐった僕の視界に、女子の足が目の前に入ってきた。
「だ、誰?」
慌てて後退りした僕を、目の前の三人の女子は、蔑んだ目で僕を見ていた。
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