第7話 まずは食事から

 ふと腕の中で大人しくなった少女を見る。よく見ると目の下には深々と刻まれた隈があり、深く眠っているのを良い事に体に手をやればかなり痩せているのも分かる。何度も私を突き飛ばし、私を初めて傷付けたその腕も殆ど骨と皮だけで多少膨らんでいてもそれは筋肉で脂肪ではない。

 この子……全然食べてさせてもらえなかったかな?2か月も休ませてたのに隈は消えてないし、今の寝顔はかなり苦しそうね……。

 コンコンッ。


「はーい?」

「閣下、失礼致します。……如何ですか?新しい玩具は。お気に召しましたでしょうか。」

「ええ。貴方が教えてくれたこの子は、本当に良い人材。でも、黒竜の言っていた通り心に大きな闇がありそうね。」

「私が掴んだ情報によれば、実験動物として扱われていた事が多かったらしく、食事や睡眠だけでなくまともに自由や愛情も与えられず、注がれなかったようです。なのであまり知能は高くありませんが驚異的な記憶力を持ち、左目の視力も異常値だとか。」


 ……ん?


「“左目の視力”……?」

「右目は殆ど見えていないそうです。いつから見えなかったのかは解明されておりませんが。」

「……この子の情報を集める事を最優先にしつつ、引き続きこの国の防衛を。」

「はっ。失礼致します。」

「……食事や睡眠だけでなくまともに自由や愛情も与えられず、注がれなかった……か。」


 騎士が退出してからそっと、ゆっくりと少女をベッドに横たえて肩まで布団を掛けてやる。どうしても離れる気になれなくて優しく手を包んでやると涙と嗚咽が零れ始め、震えながら口が開かれる。


「ごめん、なさい……。ごめん、なさ……い。ゆる……し、て……。」


 私と眠る少女しか居ない静かな部屋ではこんなに小さな声なのにとても大きく響き、やがては何かに溶けるように消えていってしまう。

 さて、どうしたものか……。


「まずは食事から……か。」

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