第5話 生存権の確保の為に

 あれから4日。軟禁を甘んじる代わりにある程度の自由を得た。2日前に熱にうなされながら訴えた、小さな願い。体調を崩す薬を飲む事もなくなり、武器を明け渡し、この部屋内限定の自由を手に入れた。

 昨日は緊張と疲労で倒れてしまったが。次に気が付くと近くのテーブルに置手紙と共に食事と薬があった。契約……と言うより取引上、与えられた物は一部を除き全て受け入れなければならない。医者とやらは「健康状態を維持する薬」と言っていた。特に何の問題もなく、生活に害もないので気にしていない。基本的に申請すれば何でも手に入る。

 今日は……何をしようか。

 特にする事がなくて本を読んだり、ラジオで情報を得たりする。

 やはり、私が所属していた国と私の失踪に関する情報が多い。他には……どうやら、堂々と公言したらしく、この国についての情報もちらほら聴こえる。

 ……あいつは、私をどうするつもりなんだ。部屋を用意するやらどうたらと御託を並べていたが……そもそも、何で私を生かした?起きて直ぐに点けたPCの時間が正しいとすればあの日から既に2か月も経過している。殺すタイミングなら、幾らでもあったはずなのに。

 思考はグルグル回る。止める物もなく、やる事もない。故に邪魔1つ入らずにグルグル回る。

 何故あいつは私を殺さなかったのか。

 何故あいつは私を生かしたのか。

 何故あいつは私を軟禁しているのか。

 大体、軟禁している上に自身の方が強者だと知っているのに弱者からの小さな願いを受け入れた上に取引に応じたのは何故だ。

 この世界は弱肉強食だ。弱い者は例外なく強者に喰われ、弱い者は己の弱さを恨みながら死に絶えていく。

 幼い頃から教えられていた世界の理とはかけ離れた国。

 私は、私に何を見つけたのだろう。


「……私は、空っぽなのに。」

「あら、そんな事誰が決めたの?」


 驚きで肩が跳ねあがり、椅子が倒れる勢いで立ち上がり、声の元を睨む。

 女帝はそれはそれは楽しそうに笑う。


「フフ、随分と大人しいのね貴方。てっきり抵抗されると思ってたのに。」

「……私はまだ死にたくないんでな。利用されるのは気に入らんが、今はこれしかない。私は、自身の安全と幸福を優先しただけだ。」

「へ~……。貴方の戦闘スキルも面白かったけど、性格も楽しいわね。」


 一瞬、見えなかった。

 ずっと睨んでいたはずなのにいつの間にか壁に背を付け、顎を掴まれ、2つの赤い目が目と鼻の先にあった。突然の事に驚き、声どころか身動き1つ取れない。


「貴方の国を亡ぼした時に幾つか資料を見たんだけど……貴方、思ったより謎が多いのね。殆ど白紙だった。ねぇ、愉快な暗殺者のお嬢さん?私と平和的にお話しましょう?」

「……なら、離れてくれ。1m……程。」

「フフ、意外とメンタル強いわね。まぁ良いわ。今日は丸1日ここに居るつもりだから貴方も知りたい事があれば質問して良いわよ?」

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