第3話 嫌な予感

 「最近、平和な夜が続くな」

 俺は今朝も元気に通学していた。

 これまで通り昼は学校、夜は悪魔騎士に変身して街をパトロールと場合によっては敵との戦闘のはずが最近は夜が平和という異常事態に見舞われていた。


 この夜のパトロールもそんな感じだった、変身した俺は人間に視認されない魔法を発動し夜空を飛んでパトロールしていた。

 

 誤解がないように言えば、俺と同じく魔に属する者による事件が起きていないのだ。

 悪魔騎士とは人間の世界で悪さをする魔の者を討つだ。

 俺の先祖である三百年前の地獄の七大魔王が勇者女王と和解した時に

魔族の地獄と人間の世界、二つの世界を互いの世界の英雄達が互いの世界を守り助け合う事。

 

 この約定は人間の勇者に力を与えた神の調停の下に取り決められ、今も守られている。

 どちらの世界も良い奴もいれば悪い奴もいる、人と魔の調停をした神だって邪神もいれば善神も悪神もいて統一性がない。

 

 そんな統一性がない事で統一されている混沌とした世界を神と人と魔が相互監視と相互扶助をしあって今日も世の中はバランスとっていたはずだった。


 「おかしい、本当に魔族の奴らが事件をやらかしていない! 異常がないのが異常って気味が悪いんだが?」

 叩きのめすべき魔族の悪がなく、手持無沙汰な俺は仕方なく空を飛び回りながら人気のない路地裏などを見下ろしていると露出度の高い女性を引き込んで襲おうとしている男を見かける。


 「仕方ねえ、シャドウスピア」

 人間の悪を相手にするのは本業ではないが見過ごすのも気分が悪い。

 俺が呪文を呟くと女性を襲おうとしていた男自身の影が男の尻を突き刺して男を悶絶させる。

 

 突然の事態に女性は驚きの声を上げながら表通りへと逃げだした、一丁上がり。

 

 再び俺は魔族の悪事を探しに動くと、今度は噴水前で寝ている酔漢から財布を盗もうとする浮浪者の男を発見。

 「バットショット!」

 俺は、浮浪者に向けて闇の蝙蝠を弾丸に変えて撃ち出した。

 闇の弾丸が浮浪者の顎を掠めて意識を刈り取る、殺しはしない夜は寝ろ。


 こうして二件目の人間の悪事を俺は片づけた。

 

 そんな感じで一般的な人間の犯罪者は見かけたが、悪魔騎士の力を使えばさっくり片づけられて準備運動にもならなかった。

 

「今日はもう帰って寝よう」

 なので、夜の街を一回りした所で俺は自警活動を終える事にした。

 

 寮の自室に帰っても十分な睡眠時間が取れた。


 翌朝、俺は元気に支度をして学校へと登校した。

 一時間目の数学の授業が終わり小休止の時間になる。


 俺は次の時間までにトイレに行こうと教室を出ようとしたタイミングで

 「モーニングスター君、最近真面目になったわね♪」

 茶色い髪を三つ編みにしたクラス委員のコルベットが笑顔で声をかけて来た。

 

 「え? ああ、生活習慣を改めたからかな?」

 これまでは寝癖がだらしないだの、居眠りするなだのとお小言しか言って来なかったコルベットが別人のように可愛らしく見えた。


 「何よ? 私に何か言いたい事でもある?」

 眉を吊り上げて俺を睨むコルベット、この顔が俺にとってこれまで見ていたコルベットと言う少女の顔だった。

 「いや、何でもないよ」

 彼女との会話を切り上げてトイレに行こうとする俺。


 ふと背後に黒い気配を感じ振り向くと、教室の隅の方でマルタがひきつった笑顔を浮かべていた。

 

 教室ではあいつも大人しくしているようだ、そのまま猫を被っていて欲しい。

 俺は急いでトイレへと逃げ込んだ。


 トイレで用を済ませた後、教室に戻ってシャツと短パンと言う体育着に着替えて校庭に出る。

 

 体育の時間は槍術そうじゅつ、穂先がゴム製の斧槍をまずは男女全員で

素振りをしたり型の稽古をする。

 

 それが終わると、斧槍の稽古をするものと馬上槍に持ち替える者が出てくる。

 

 この学園では、騎士の家系の子や将来の騎士志望者に加えて貴族の家の子は問答無用で斧槍だけでなく馬上槍も学ばされるのだ。

 

 俺も斧槍を戻しに行き、馬上槍に持ち替えて集まる。

 「斧槍と馬上槍の両方やれって面倒だよな」

 ハックがうんざりした声を漏らす。

 「仕方ねえよ、貴族や騎士たる者どちらの槍も使いこなすべしだ」

 そう言って俺はハックに同意する。

 「僕は馬上槍の方が好きかな、ジョスト部だし♪」

 マイケルが微笑む、この世にはジョストと言う馬術と槍術の双方の技術が必要な面倒くさい事極まりない馬上槍試合の競技がある。


 ジョストと馬術は選択制なので普通の体育の授業では扱わないが救いだった。

 クラブ活動だけでなく授業でも選択して励むマイケルを俺は尊敬していた。

 「マイケルならプロのジョスト騎士になれるぜ♪」

 ハックも俺と同じくマイケルを尊敬しておりマイケルを褒める。

 

 そんな雑談をしつつ、俺達は真面目に馬上槍の素振りや型稽古と授業を受ける。

 今日はクラス内で男女対抗の模擬戦の日だった。

 

 「破っ!」

 「危ねっ!」

 金髪を風になびかせてマルタが突きを放って来る。

 風圧を纏ったその一撃を避ける。


 「すごい! マルタさんの突きをライドが避けた!」

 マルタに敗れ解説に回ったマイケルが驚く。

 「やるじゃんライド、頑張れ♪」

 ハックも俺の奮闘が意外だったらしく応援してくる。

 

 うん、マルタは子供の頃に箒で槍試合ごっこした時と型や踏み込みに相手に押し勝とうと言う姿勢は変わっていないな。

 「変わってないな、行くぜ!」

 俺は子供の頃のようにカウンターでマルタの腹を突く、これで一本だ。

 だが、俺の一撃は当たりはしたがマルタの腹筋は鋼より硬く突いた俺の槍の穂先が砕けた。

 

 「マジか、ライドのカウンターが決まった!」

 「男子の突きを耐えた上に槍を壊したマルタさんの腹筋もすごいわ!」

 

 俺とマルタの対決の結果に歓声が上がる、試合は月でポイントを取った俺の勝ちだがこれは勝った気がしねえ。

 「ライド君って実は強いのね、見直したわ♪」

 わざとらしく俺に微笑むマルタ、その笑顔から俺はこいつが三味線を弾いたと感づいたがクラスの連中の万雷の拍手の中で何も言えなかった。

 

 この一件で、俺が実はやる時はやる男とクラスの連中に認識される事になった。


 友人以外のクラスの連中からも好意的な視線を向けられることになる。


 何だろう、俺はマルタに嵌められている気がする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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