第2話 幼馴染と話しました

 俺はマルタとの対決から意識を取り戻した。

 「あ痛たたた、悪魔の鎧がなければ危なかった」

 変身が解けて制服姿に戻った俺は、マルタを見る。

 

 あちらも鎧が脱げて制服姿で倒れていた。

 その場を逃げ出したくなる惰弱な本音を律して俺はマルタに近づく。

 倒れたマルタの胴に腕を差し込み、お姫様抱っこで抱え上がる。


 マルタの筋肉質な体が俺に語り掛ける。

 

 ……重い、重すぎるっ!


 どれほどの体重があるのかわからないが、俺はマルタを抱えて校舎裏から立ち去る事に成功した。

 マルタが張った結界魔法は解除されたはずであったが、誰も校舎裏に来なかったのは運が良かった。

 

 人気のない校庭のベンチにマルタを降ろして寝かせる、しばらくすれば目が覚めるだろう。


 俺はマルタを置いて帰る事にした。

 「昼めし食い損ねたな、寮に帰ってから食いに行くか」

 「ラ~イ~~ド~~~ッ!」

 「げ、もう目覚めがった!」

 「何よ! それが再会した幼馴染に対する態度?」

 「倒れたお前をここまで運んだ俺は十分紳士的だよ」

 「もう! 幼馴染が美しく成長したのよ? 結婚する以外ないでしょ!」

 「色々過程すっ飛ばし過ぎなんだよ!」

 「結果良ければすべてよしよ!」

 「良い結果には過程が大事なんだってわかれよ! 俺はもう帰るからな」

 マルタとの言い合いを切り上げて俺は帰ろうとした。


 「そこは一緒に帰ろうぜっていう所じゃないの?」

 「男子寮と女子寮は反対方向だからな」

 「ライドが女子寮に止まれば良いじゃない」

 「無茶言うな!」

 俺は疲れた体を酷使して走り出した。

 「なら私が男子寮に泊まる!」

 そんな俺を追いかけてマルタが走ってくる。

 「いや、それも駄目だろうが~!」

 その日、俺は奇跡的に逃げ切る事に成功した。


 翌朝、無事に自分の部屋で寝起き出来た事を俺は喜んだ。

 身支度をしてパンと牛乳で朝食を済ませて自室を出る。


 そして他の学生達と共に授業を受けに行く。

 「ああ、朝だけど気分が良い♪」

 昨夜は自室でぐっすり寝られたから体調が良かった。

 半分魔族でも夜は寝た方が良いのかもしれない。

 

 「おはよう、ライド♪」

 そんな俺に声をかけて来たのは黒髪の俺とは対照的に赤毛で健康的な

童顔の少年だった。

 「おう、おはようハック♪」

 俺は赤毛の少年ことハック・ベリーに挨拶を返す。

 「いや~♪ お前の健康そうな顔って初めて見たぜ♪」

 ハックが笑って語りかけ俺の方に腕を回してくる。

 「ああ、夜しっかり寝たら元気になった♪」

 「いや、それが普通だって♪」

 ハックが笑う、こいつは俺の数少ない友人だった。

 

 なんだろう、こうして友達と楽しく語らうって良いな。

 そんな俺達に声をかける者がいた。

 「ライド~! ハック~! おはよ~♪」

 俺達を追って走って来たのは、青い髪に眼鏡が特徴の少年。

 「よう、マイケルおっす♪」

 ハックが青髪のマイケルに挨拶する、このマイケルも俺の友達だ。

 俺達三人は、楽しく校門をくぐった。


 その先に金髪で豊満ボディの美少女のガワを纏ったメスゴリラがいなければ幸せだったんだが、そうはいかなかった。


 「おはようございます、ライド君♪ ハックさんにマイケルさんも♪」

 「姫様、おっす♪」

 「おはよう、ジラソーレさん」

 「ああ、おはようございますジラソーレさん」

 友人二人が気軽に挨拶する中、俺はマルタに対して他人行儀に挨拶を済ませて立ち去ろうとした。

 平穏な学園生活を楽しみたいんだ俺は、お姫様に関わりたくない。


 「ライド、お前は姫様を大事にした方が良いぜ?」

 ハックが突然わけのわからないことを言い出した。

 「ライドとジラソーレさん、幼馴染なんだよね?」

 マイケルもおかしい事を言い出した、何故知っている?


 「オイオイどうした二人とも? って、言うかマイケルは何でその事を知ってる?」

 俺は友人二人に疑問を口にした。

 「いや、久しぶりに再会した幼馴染が自分の事を忘れていたって可哀そうじゃね?」

 ハックが真っ当な事を言ってくる。

 「そうだよ、倒れたライドをジラソーレさんは保健室に運んでくれたんだよ?」

 マイケルが俺が体験した事と違う事を言ってきた。


 俺はマルタを見る、奴は微笑みやがった。

 「お友達のハックさん達には、私達の事を先にお話しさせていただきました♪」

 その言葉は、俺の友人に自分の都合の良い話を吹き込んで味方に付けたと言外に行っていた。


 俺に対して外堀が違法工事で埋められて来ていた、将を射んとすればまずは馬からとはよく言ったものである。


 

 事情を知らない友人達は、マルタが俺の事を一途に慕うヒロインで自分達は親友の恋を応援する天使のつもりなのだろう。


 その事はマルタの視点からは間違いではないし、友人達に罪は無い。

 マルタの本性を知り、貞操の危機にあった俺の視点では違うのだ。

 「ああ、わかったよ」

 俺はそう口にして表面上は仲良く四人で教室へと向かった。


 教室に入った俺は普通に授業を受ける事となった。

 しっかり夜寝たおかげで居眠りをする事がなかったからである。

 

 一時間目は世界史、中年の男性教師が教師が魔法で黒板に板書する。

 「では、人間社会と友好条約を結んだ地獄の七大魔王に付いてライド君に答えてもらおうか?」

 教師に指名されたので俺は答える事にする。


 「え~、傲慢と憤怒と怠惰と色欲と強欲と暴食と嫉妬の七人の魔王が三百年前に勇者女王マルガリータと和解したでしょうか?」

 俺は当り障りのない答えを述べた。

 「正解だ、これにより人類社会は魔族と友好的な関係を結ぶという史上初の快挙を為した」

 教師が俺の答えを認めて授業を続ける。

 クラスの皆の俺を見る目が驚きの目だった。


 この時から、俺の学生生活が少しずつ変化を始めて行くとは思いもしなかった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 


 

 


 


 

 


 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

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