勇者姫と使い魔王子
ムネミツ
第1話 お姫さまは幼馴染みでした
「ライド君♪ 何故私があなたをここに呼び出したのかおわかりですね♪」
昼休みの校舎裏、俺の前で黒いブレザーと言う制服の上からでもわかる豊満な胸を強調し微笑む金髪碧眼の美少女。
その笑顔の為なら学園の全男子生徒が死地に赴くと言われる春陽の微笑み。
だが俺には目の前で悪魔が獲物を弄ぼうとしているようにしか見えねえ!
何で俺がこんな目に遭わねえといけねえんだ!
俺は目の前の脅威である美少女、マルタ・ジラソーレから後ずさろうとしたが足を一歩下げたと同時にマルタが指を鳴らして俺の動きを止めた。
俺の名はライド・モー二ングスター、王立学園に通う平凡な駄目学生だ。
昼休み、寝ぐせ頭に上下黒の詰襟の制服を着崩した姿で俺は校舎裏に呼び出されて美少女と向き合っていた。
美少女に呼び出されるというイベントに浮かれてホイホイついて来たのだが魔法で動きを止められるとか正直な今の気分は、逃げ出したい。
「まあ♪ 逃げようとするなんていけない子ですわねライド君は♪ もちろん私には逃がすつもりなどありませんけれど♪」
優しい口調で俺に語り掛けるマルタが再び指を鳴らすと景色の流れが止まった。
この女、結界魔法を発動させてやがった!
俺の目の前でマルタがまた指を鳴らすと俺の口だけは動けるようになった。
「……な、何の事かな! 俺みたいなぐ~たらな奴があなたみたいな素敵な人に呼び出される理由なんて思いつかないな~?」
ごまかせ! しらばっくれて切り抜けろ俺! 目の前のデカイ厄介事から逃げるんだよ~~~っ!
「まあ、ライド君に素敵だなんて嬉しいわ~♪ 私達、両想いなのね~♪」
マルタが頬を染めながら、指を綺麗な金髪に絡めてクルクル回して髪をいじる。
その仕草だけなら可愛いんですけれどね、外面だけなら!
そんな事を想ったのが表情からバレたのか?
げげ! 地面から鎖が生えて来て俺の手足を捕らえただと!
やばい! こいつはやばい! ニ・ゲ・ラ・レ・ナ・イ~!
俺は今、人生の危機に晒されていた! 神様、助けて下さい!
神様ってのは人間を救ってくれるもんだろ?
何で今すぐ俺を救ってくれねえんだよ!
結論、神なんて俺の何の役にも立たなかった。
「ライド君♪ 何を怯えているの? ここには貴方と私の二人だけ♪ 二人の間を脅かす物なんて何もないわ♪」
今現在進行形で俺を脅かしている女が何を言いやがる!
「ちょっと待って! 俺、本当にあなたに何かしましたかマルタ王女殿下!」
俺は叫ぶ、目の前の同級生の美少女の何が脅威かと言うと魔法の力だけでなく武芸の腕も立つ事だけじゃねえ!
こいつがこの国の王女である事だ!
何でだ! 俺は国家元首の娘との縁なんて同級生である事以外ねえよ?
「王女殿下なんて他人行儀ね、あなただって地獄の王子殿下じゃない♪」
バレてる、何でか知らないが目の前の少女に隠している俺の秘密がバレてる。
力を封じて人間の姿になっているのに何で俺の正体がバレてるの?
「何の事かな? 俺はダメ人間だぜ♪」
俺は頑張ってふざけてごまかして抵抗を試みる。
地獄の王子、俺の秘密は魔族の中でも魔王と呼ばれる高位の存在と人間の間に生まれた混血児である事。
モーニングスター男爵領と言う田舎貴族の娘である母さんは悪魔召喚士として冒険者をしていた。
そんな母さんが引き当てて使い魔にしたのが地獄の七大魔王の一人である傲慢の魔王プライド、父さんだ。
田舎では魔族の本性を開放して角を出しても、子供の仮装遊びと思われていたが流石に学園に進学する頃にはヤバいと思って制御する事にした。
そうして俺は周囲をごまかして、今も目の前の相手をごまかして平穏な日常を生き抜こうとしている。
そんな俺のごまかしにマルタは悲しそうな眼をする。
女の子に悲しい目をさせるってのは良心が痛むもんだが俺は何も悪くない。
「……あなた、私の事を覚えていないの? 」
マルタが俺に問いかける、何の事だ?
「え? 君みたいな美少女は入学以前に見た覚えがないよ?」
俺の言葉に、マルタが頬をピンクに染めて目をそらした。
「小さい頃を思い出して? あなたには仲の良かった、それはもう天使の如き可愛らしい幼馴染の少女との出会いと別れがあったはずよ?」
マルタが俺に問いかける、仕方ないので記憶をたどってみる事にする。
ライド、木登りしよう♪
ライド、角生やして悪い魔王役やって♪ 私勇者役やるから♪
ライド、この果物バナナって言うのよ一緒に食べよう♪
ライド、私おっきくなったら南方の聖獣ゴリラになる~♪
やだやだ、ライドとお別れしたくない~!
俺の幼馴染と言えるのは、本当に女かと思うほどお転婆で金髪の猿のような奴がいた事を思い出す。
マルタの言うような天使のような少女なんていなかった。
「……すまない、金髪の小猿みたいな奴はいたんだが?」
正直に思い出したことをマルタに言う、早く解放して欲しい。
「誰がメスゴリラよ、ライドの馬鹿!」
俺の言葉を聞いたマルタが瞬時に俺の目の前に移動して見事なアッパーカットを
俺に叩き込んだ。
ああ、この美少女はあの小猿が成長した姿だったのか
そして気絶した俺は、保健室のベッドの上で目が覚めた。
「……顎が痛いっ? 何で俺はベッドに下着姿で縛られてるんだよ!」
俺の現状、窓の外の日差しから夕方まで気を失っていた。
そして、パンツ一丁で大の字になって手足がベッドの四隅に縄で繋がれて
ました(泣)
保健室のドアを開けてマルタが入ってくる。
「ふっふっふ♪ ライド、もう永遠に来世でも離さないからね♪」
マルタは肉食獣の目になって俺の所へとやって来る。
「マルタッ! 止めてくれ、清い交際から付き合いなおそう?」
俺は美少女の姿をした野獣に懇願する。
「ライド~~♪ あなたがパパになるのよ~~っ!」
身動きの取れない俺に制服を脱ぎ捨てて下着姿で飛び掛かるマルタ!
俺の上に馬乗りになるマルタ、だが彼女が俺に馬乗りになった衝撃で
ベッドが壊れる!
ベッドが壊れた事でバランスを崩したマルタは床に転がり落ちる。
よだれを垂らして目を回しているマルタを放置し、俺はベッドから抜け出す
と部屋の隅にあった制服と鞄の入った籠を持って保健室の窓から逃げ出した。
「あ、危なかった! 流石にあれはねえよな」
周囲に誰もいないことを確認してから着替える俺。
据え膳食わねば男の恥と言うが、俺が据え膳になるのは御免だ。
「プリンセスパ~~~ンチッ!」
俺の後ろで美少女の叫びと共に爆発音が鳴り響いた。
振り返ると保健室の壁を破壊したマルタが腕組みをしてこちらを睨んでいた。
「ラ~イ~ド~~~っ! 絶対に逃がさないんだからね変身っ!」
マルタが懐からティアラを取り出して被る。
すると、彼女の全身が虹色の光に包まれた。
魔導テレビの変身ヒーロー番組のような展開に思わず見入った俺。
光が消えるとマルタの姿は、南方に伝わる伝説の聖獣ゴリラを彷彿とさせる
重厚な赤色の全身甲冑を身に纏っていた。
全身から聖なる魔力が噴き出ている。
頭部のティアラは変身前と同じように鎧の兜に付いていた。
何と言うか肩回りや腰回りに無意味にフリルが付いているのがチャームポイントとでもいうのだろうか?
纏う人間がお姫様だからかゴリラの姫騎士と言うような形状の鎧だった。
これはくっころされないというか、俺がくっころさせられる!
と、思わずガン見してしまったがこれはテレビだと俺が倒される側のパターン?
相手が武装したならこっちも武装しないと不味いと感じた。
「驚いたな、だが変身なら俺の方が先輩だぜ!」
俺は右腕を天に掲げると俺の前頭部から刀の如き山羊の角が生える、そしてどこからともなく蝙蝠の群れが現れて俺の全身を覆うと紫色の騎士鎧へと変化した。
俺は山羊の角を生やした紫色の騎士の姿になった。
「傲慢の悪魔騎士プライド見参っ!」
片腕を横に伸ばして構える。
「悪魔騎士プライド! 女の子の純粋な想いを踏みにじった罪、許しません!」
赤ゴリラの騎士とでも言うべき姿のマルタが理不尽な言いがかりを述べる。
「いや、あれのどこが純粋だよ! 常識的に考えて犯罪だろ?」
冷静にツッコむ、俺は悪くない!
「あなたを愛する美少女と結ばれる事を拒むのは罪ですっ!」
理不尽すぎるだろ! 段階すっ飛ばして子作り迫られたら逃げるよ!
そして俺は気づく、周りが異常に静かな事に。
武装した輩が暴れていたら騒ぎになるはずだ。
この校舎裏から別の場所に移動して事を治めねばならないのに。
「周りに助けを求めたりしても無駄です、結界魔法は展開済みよ!」
目の前のゴリラ姫がビシッと指をさす、お前の仕業か!
仕方ないので戦う事にする、勝てる気がしないけれどやるしかない。
武器はあるが使わない、胸の前で腕をハの字に構える。
「プリンセスショルダ~タック~~ルッ!」
マルタが背中を爆発させて肩から突っこんで来た、脳筋か!
一瞬で間合いを詰めて来た相手を解けられず俺は吹き飛ばされる!
派手な金属音を立てて転がる俺、ゴリラ姫は拳に光を集め出した。
こちらもやられっぱなしでいるわけにはいかない!
俺の影から飛び出して腕に纏わりつく闇の蝙蝠達を塊になるまで集めてゴリラ姫へと向けて腕を振るう。
「バットシュレッダーーーッ!」
翼を広げた闇の蝙蝠達の群れがゴリラ姫へと向かって行く、生身の敵なら一瞬ですり身へと切り裂ける技だ。
俺のバットシュレッダーが、ゴリラ姫に直撃するかと思えば奴の拳の光が俺の放った闇の蝙蝠達を光の粒に変えて消し去った。
だが俺の方が動きは早い、黒雲を作り奴へと放つ!
「行け、ダークエナジーボルト!」
奴の頭上で黒雲から落ちた黑い闇の稲妻が今度こそ。ゴリラ姫に直撃する。
「ピギャ~~~~!」
可愛らしい声で悲鳴を上げるゴリラ姫、これで勝負は終わりにしたかった。
だが、奴の足元から光の柱がピカッと立ちこめると奴の体力を回復させた。
自動回復機能か、継戦能力が高いって厄介だな。
「悪い闇の力になんて、負けないんだからね!」
ゴリラ姫がビシッと俺を指さして来る。
いや、人を悪と断じるなよ!
悪いのは襲って来たお前の方じゃねえか!
俺は心の中でツッコむ、正義の味方を気取るならお前こそ力を正しく使えよ。
女子を敵に回す面倒臭さ、俺はそれをこの時初めて体感した。
こうなったら、完全に決めるしかねえ!
俺が拳に地獄の業火である黒い炎を灯すと、ゴリラ姫も拳を光らせた。
「ヘルファイアブローッ!」
「プリンセスパーンチッ!」
光と闇の拳同士がぶつかり合い、双方を互いの技のエネルギーによる爆発が包み込む中で俺は意識を失った。
次に俺が意識を取り戻した時、地獄が始まるとも知らず俺は勝った気でいたのだ。
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