六話 プロテインと輝く肉体

「で?「美と豊饒プロテインの女神」俺はこれから何処に向かえばいい。」


只管地面に顔をうずめていたフレイヤが首を異常な角度まで捻り、激しい形相でこちらを睨みつけた。


「おいキサマ、今「美と豊饒」の部分にプロテインってルビ振らなかったか?」


「一体何の事だ?俺は一考に其れでも構わんが。いや、寧ろその響きの方が貴様に合っているぞ。意味合いも此れ程迄に合っている言い回しは他に無いっ!!よし、此れからは「美と豊饒の女神プロテインフレイヤ」そう名乗ると良い。」


「名乗らねぇよっ!!!しかもさらに短縮してんじゃねぇよっっ!!!!」


この女、時間が経つ度に言葉遣いが悪くなっていないか?まぁいくら美しかろうと所詮はビッチ。致し方ないか。


「ミコト、アンタ今失礼な事考えてなかった?」


「気のせいだ。ビ…フレイヤ。それで?俺はこれからどこに向かえばいい?」


「ビって何よ。いいのよ?ちゃんと「美と豊饒の女神フレイヤ様」と呼んでも。」


「そんなことはどうでも良い。どうなんだビッチ。」


「アンタ今ビッチって言いきったわね!?それは死語よっ!お願い。お願いだからそれだけはやめて。」


「何度言わせるつもりだ。どうするんだ?」


「えっと…先ずは先にこの世界に召喚されている筈の六人の勇者に会って…魔王に立ち向かう必要があるわっ!!」


「もっと具体的に答えられんのか。」


「えーっと…確かこっちに冒険初心者達の集まる町が…いや、こっちだったかなー……」


「貴様…まさか此処がどこかも分からないなどという妄言を吐き捨てるつもりではないだろうな。」


フレイヤの顔が一気に青ざめていく。


「だ、だって女神の仕事って基本、声で勇者や英雄を導く役処なのよ!この世界の資料は全部アースガルズの女神の間にあるし…こんなところで適切なサポートなんてできるわけないじゃない!」


その言葉にミコトの顔が豚を見るような蔑んだ眼でフレイヤを見下ろしていた。


「じゃあなんだ、勇者達が世界の為に戦っている中、貴様等女神はのうのうと本でも読みながら悠々自適にナビゲーションしているとでもいうつもりか?」


「のうのうとはしていないわよ!生命総量の調整管理とか生命流転の為の天界と冥界の運営とかで中々大変なのよ!」


「神が一気に社畜サラリーマンっぽくなったな。あれか、貴様雇われか。」


「まぁ間違ってはいないと言わざる得ないけど…いい?神が世界に直接手を出すなんて余程の愉快犯でもない限り殆ど無いんだからね!基本は世界の生命総量の維持が困難だったり、星の崩壊の危機の際に力を貸したり…ホント世界がヤバい時に初めてその力を振るうことを許されるの。少なくとも今のアースガルズではそういう誓約があるわ。」


「成程。では俺達のような異世界人が勇者と呼ばれて世界を救うのはその一歩手前。だからという事か?」


「中々勘が鋭いじゃない。そゆ事。管轄によっても違うらしいけど、神が妄りに人の世界に介入しても問題は片付くけど良い結果にならないことが多いのよ。アースガルズの神々だって昔は其れで好き放題地上で我儘を働いていくつかの星を滅ぼしちゃってるし。今ではそんなことは殆ど無いんだけどね。」


「どちらにしてもこれ以上話をすり替えるなこの使えない美と豊饒の女神プロテインが。」


「だからアンタは…で、これからどうするの?逆にこっちが聞きたいわ。」


「ふむ…そうだな…んっ!?伏せろ美と豊饒の女神プロテインッッッ!!!」


「ちょっ!?何??いや、こんなところで…きゃっ!?」


考え込むように顎に手を置いたミコトが突如フレイヤに覆い被さった。


「いや、ちょっとまだ心の準備が出来てないからっ!?ワタシ青空の上でそんな事したことないか…ヌグッ!んんーー!?」


互いの胸を強く押し付け合いながらフレイヤの口元を塞ぎ寝そべるように地に伏せた。


「そのまま俺の胸の中で転がって匍匐前進の体勢ポジションで頭を上げてみろ。」


「んっ…あんっ…んあ…もう…ちょっと密着しすぎじゃないの?」


顔を赤らめながら必死に顔を上下に振るフレイヤが地面とミコトに身体を擦り付けながら狭い隙間の中で必死に身体を捻じりながらうつ伏せの体勢になった。


「見てみろアレを。」


小声で話す二人の視線の先には腕に羽根を生やした巨大な蜥蜴が先に見える森の中から這い出してきた。


「あれはワタシも知ってるわ!資料で呼んだもの。確かプテラ・サブラっていう大蜥蜴よ。ドラゴンじゃないわ。でも多分あの大きさは通常個体より何倍も大きいわね。恐らく縄張りの主とかそんなんじゃないかしら。」


「そんなことを説明させるために見ろと言ったんじゃない。見てみろあの後ろ脚を…良く仕上がってやがる…」


恍惚の笑みを浮かべるミコト。ん?なんだろう…お尻に固い何かが…


「あっアンタっ!こんな体勢で一体どこ立たせてんのよっっ!!寧ろ今脚の事なんかどうでも良いわよっ!!!」


フレイヤのツッコミが周囲に響き渡った。


「「あ」」


草叢に隠れていた二人と巨大なプテラ・サブラの眼があった。


「ホント…ごめんナサイ。」


「GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!!!!!!!」


フレイヤの涙の懺悔と共にプテラ・サブラが激しい咆哮を上げこちらに向かって駆け出してきた。


「いや、誤る必要は無い。」


フレイヤの上に覆いかぶさっていたミコトがゆっくりと立ち上がり雄弁に一歩一歩大地を踏みしめて歩き出した。


「ミコト…アンタまさか…」


「俺の新たな力を図るには丁度いい相手ファイターだ。」


「いや、アンタまだレベル1だしっ!無理だって!絶対勝てないって!!」


「良いから黙って見ていろ美と豊饒の女神プロテイン。」


「ミコト…(後で絶対殺す)」


巨大な尻尾を振り払い土煙を上げながら徐々に迫る巨大なプテラ・サブラに対しゆっくりと近づいていたミコトが立ち止まった。


「フロント・リラックスッ!」


プテラ・サブラに対し正面を向き、両手の拳を腰の高さまで上げつつ背筋をピンと伸ばした。


すると周囲の空気が一気にミコトに収束するような振動が走り、ミコトの身体が徐々に膨れ上がっていく。


「サイド・リラックスッッ!!」


更に胸と両腕だけをプテラ・サブラに向けたまま、顔と腰を捻って九十度左に振り向いた。


先程と同様に周囲の空気が一気に収束する振動が走り、ミコトの身体が更に膨れ上がっていく。


「リア・リラックスッッッ!!!」


今度は完全にプテラ・サブラを背にして恍惚の表情で正面を眺めていた。


先程と同様に周囲の空気が一気に収束する振動が走り、ミコトの筋肉が更に更に膨れ上がっていく。


「ちょっと何後ろ振り向いてんのよっ!!!前!前見て前っ!!もうすぐ近くにいるからっ!早く前を…」


「五月蠅いッッッ!!!気が散るッッッ!!!」


ミコトの雄叫びに迫っていたプテラ・サブラがビクンと体を震わせその脚を止めた。


「嘘…」


「サイド・リラックス・ライトッッッッ!!!!」


後ろを振り向いていたミコトが再び身体を捻り、今度はプテラ・サブラから見て右向きに振り向きながらに胸と腕を正面に突き出した。


先程と同様にミコトの筋肉が更に膨れ上がり、ロヴンと一緒にいた時に魅せていた輝く筋肉に近い太さの鋼鉄の肉体へと変貌した。


「準備は既に整った。貴様には…あとワンポーズで十分だろう。」


再び正面を向き、先程とはまるで違う体つきとなったミコトが立ち止まるにゆっくりと近づいていき、後ずさるプテラ・サブラの目前で再び足を止めた。


「貴様にはその仕上がった脚に敬意を払い、この姿を魅せてやろうっ!フロント・ダブル・バイセップスッッッッッ!!!!!」


立ち止まった鋼鉄の筋肉を纏うミコトが徐に両手を広げ、拳を顳顬こめかみの位置まで上げ、肘を引き締め大きく胸を突き出した。


「なっ!?なんなのこの光はっっ!!!」


ポーズを極めたミコトの身体が光り輝き、紛うこと無きロヴンと一緒にいた時に魅せていた輝く金剛石ダイヤモンドの筋肉に変貌した。





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