五話 異世界へLet,s マッスル
「アンタ、あの子にあそこまで期待させるようなこと言ってホントに大丈夫なの?」
「何の事だ?」
「さっきロヴンに「貴方の望みは一考する」って言ってたじゃない!!アンタ、あの言葉がどんな事を意味するのかホントにわかってんの!?」
「それは解っているつもりだ。俺はこれまで生きてきた中であそこ迄シンパシーを感じた者と出会った事がない。そんな彼女が俺を求めてくれるのならば相応の覚悟を極めるつもりだ。」
そう、今までの俺は学校の中に居ても何処か浮いた存在だったのだ。
こんなにも普通の何処にでも居そうな高校生だというのに。
「きめるの漢字が合ってないわよ。良い?ロヴンと恋仲に、夫婦になるってことはミコトもそれ相応の位まで上がらなければいけないの。其れこそ最低でも神と呼ばれる存在によ!此れがどんなに困難で遥かに高い頂なのかアンタ、本当に分かっているの!?」
「そんなもの、俺の
「はぁ…もういいわよ…どちらにしろミコトが本当に神を目指すなら魔王討伐なんてその偉業の下積みに過ぎないんだから。先ずはあの世界の魔王を討ち果たす!それが貴方のミッションよ!」
再び女神の間に戻ったワタシとミコトはルーン文字による転移門の陣を空中に描きながらミコトに今後について話をしていた。
「いい?あれだけの事をロヴンに言い放ったんだから最早あなたはロヴンから逃げるよりも死ぬ方が楽な人生のレールの上に立っていることを自覚しなさい。」
「あれか。ロヴンは世にいう
「ルビも含めてまさしくその通りよ。てか本人の前でそれ言ったら殺されるわよっ!」
「そしてミコト、貴方が死ねばロヴンは間違いなく神々の制約を破って今から行く世界を完膚なきまでに滅ぼすわ。其れはもう塵の一つも残さずにね。ワタシもロヴンをアースガルドから追放されるような真似は絶対にさせたくない。この意味、解るわよね?」
「魔王を討ち果たし、必ずロヴンを向かいに行け。そういう事だな。」
「そういう事。あと彼女は他の女と仲良くする程度の浮気には寛容だけど、自分が捨てられたと自覚すると本当に手が付けられないから。…因みにいうと彼女は未だ処女よ。」
様々な神々が住まうこのアースガルドでは何処で何を聞かれるか分かったものでは無い。
ミコトの耳元で囁くように小さな声で重要なことを伝えていく。
なんだか既に魔王討伐があまりにも小さな目標に思えてくるのは何故なのだろうか?
「いつでも股を開きそうなビッチ臭漂う貴様とは偉く違うな。
「ビッチ言うなこの変態がっ!まぁそういう事だからホントに処女のメンヘラ女子の恐るべき執念を甘く見ない方がいいわよ。」
転移門の陣を描き終えてミコトの手を引いて陣の中心に立たせた。
因みに今のミコトは全裸ではない。
ロヴンとの別れ際に渡された男神の中でも超高級品とされる破格の大神御用達ブランドの服をその身に纏っている。
何でもどんな体格の者でもジャストフィットする
勿論防御力は折り紙付きで見た目も自身の好みに自由にカスタマイズでき、これ一着で他の衣服や装備が全く必要ないという装備選びの醍醐味を完全に奪い去る代物である。
下手をすればワタシが渡した「神々の恩恵」よりも良い品ではないのだろうか。
いや、間違いなく良い物だろう。
「やはり服はこのピッチリ感が重要だ。体のラインが美しく映える。ナイスラインだ。」
「神々の恩恵だけでもかなりチートな能力なのにそんなものまで…ロヴンは大丈夫だと言っていたけど本当に大丈夫なんでしょうね?あとでワタシ怒られたりしない?」
「知らんな。其れより早く新たな世界へのゲートを開くんだ。俺の僧帽筋は新たな活躍を今か今かと待ち望んでいるっ!!!!!」
小刻みに膨らんだ背中を見せつけてくるミコト。
「そう急かさないでよ!はぁ…ホントはもっと厳格に、女神らしく優雅に勇者を送り出す筈だったのに…なんでこんなフレンドリーな感じになっちゃってんのよ!」
フレイヤの身体が光り輝き、床に描かれたルーン文字が光として浮かび上がり辺り一帯を包み込むように散りばめられていく。
「此れで魔王を討ち果たすまで此処にも元の世界にも戻れないわよ。ミコト、準備は良い?」
ルーン文字が部屋中を駆け巡り周囲を高速で回転し転移門が完全に発動した。
これでもう引き返すことはできない。
「俺は既に準備完了だがお前は良いのか?そのままの格好で。」
「は?」
激しい光が二人を包み込む中、確かにワタシは目撃した。
ちゃっかりワタシのドレスの裾を鷲掴みした
「え?まさか、ちょっ!?ま…」
時既に遅し。
光に包まれた二人の姿が女神の間から完全に消え去っていた。
◇◇◇
「ちょっとアンタ、何トンデモナイ事してくれちゃってんのよっっっ!!!!!!!!」
青い空、爽やかな風が吹き、草木が穏やかに揺らめく中、ワタシはミコトに飛び掛かり頭上に拳を打ち放った。
「っっっっっっ痛っっっっっ!!!!!!!アンタ、なんて石頭してんのよっっ!!!!」
「どうした?そんなに慌てて。苛立ちはカルシウム不足が原因だ。煮干しだ。煮干しを食べると良い。」
「「食べると良い。」っじゃないわよっっ!!!なんでワタシがアンタと一緒にこの世界に来てんのっ!?これは夢…夢よねっ!!!」
混乱しながら蹲り、急にこちらに振り向いた女神の頬をこれでもかっ!と抓ってみた。
「痛いいたたたたたっ!?やめてっ!!痛いからっ!てか夢じゃない…えっホントに?…はは…はは…」
「当然だろう。お前がいなければ誰があの金色の
「ミコト…アンタ、まさかそれだけの為だけに…ブフっ!?」
突如、ミコトから激しい右ビンタを喰らわされたフレイヤ。
「あ、アンタっ!ホント馬鹿なの!?この「美と豊饒」の女神の顔になんてもの喰らわすのよっ!!!」
「馬鹿は貴様だっ!!!良いか。この世で最も重要なタイミングは全て始まり…そう、一日の始まりである
「だから「きまる」の漢字間違ってるから。はは…どうしよう…このままじゃワタシ、魔王を倒すまでアースガルドに戻れない…」
青い空を雄弁に眺める俺、己の暗い影をジッと見つめる美と豊饒の女神。
ああ、爽やかな風が心地良い。
都会の薄汚れた空気ではない、透き通るように清浄な空気が肌に、
青々とした香しい草木の香りが鼻筋を震わせ
暫く俺達は自然豊かな草原と青空の下、只々静かに佇んでいた。
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