三話 アブドミナル アンド サイ
「大体何が気に入らないのよ。」
只管スキルスクロールを読みふけるミコトに創生の聖剣を持ちながら呆れ気味に声を掛けるフレイヤ。
「女神よ…貴様、何も解っていないな。」
「解ってないって一体何をよ。」
スキルスクロールから目を離したミコトが呆れた様子で語り始める。
「いいか。相手は世界を脅かすほどの相手だ。そんな中で剣や鎧に頼り切ってしまい、いざ負けられない戦いを強いられた時、その剣や鎧が使い物にならなくなったらどうする。」
「其れは…流石にゲームオーバー?なんじゃない?」
「その通りだ。だからこそ世界で信じられる力とは己の肉体…そう、筋肉以外には有り得ないのだっっ!!」
「いや、その発想もどうかと思うけど…要は武器や防具は使いたくないって訳?」
「フ…そんな仮初の力より己の内で鍛え上げられるようなこのスキルとやらの力の方が幾分もマシだからな。」
「はー…この創生の聖剣さえ使いこなせればあんな世界の魔王なんて簡単に倒せるはずなのに…」
この様子だとミコトはこの剣を選ぶ事は絶対にないだろう。
後は他の新米女神たちが新たに召喚した六人の勇者のサポートを行うくらいがミコトが役に立てる立ち位置になるのかな。
昨日、既に向こうの世界に送られた勇者達のリストを見せてもらったけど…正直個性的過ぎて目も当てられないような人材ばかりだった。
只、このミコトを上回る程の変人ではなかったけれど…
もう不安しか残らない…
「…決めた。女神、此れだ!これに決めたぞ。」
「んー?どれどれ…えーっと…はぁ!?アンタ、こんな能力でいいの!?」
「ああ。全てのスキルスクロールを精査した結果だ。」
「いやいや…流石にもっと役立つスキルもあったでしょうが…」
「いいや、俺には此れが必要なんだ。此れしか考えられない。」
終わった…これは完全に詰んでしまった。
いくら何でもこんな初級魔法クラスの効果しかない能力では魔王と戦えるわけがない。
この能力ではサポートすらもままならないだろう。
「ねぇ、もう一度考え直してみよ?ほら、こっちの創造魔法なんか何でも生み出せるんだよ!」
「すまない…俺はイメージが苦手なんだ。俺の描いた絵なんて所詮、こんなものなんだ…」
ミコトはおもむろにスキルスクロールを裏側にしてフレイアに差し出した。
何これ、幼稚園児の落書きかよ!?
確かにこれでは高い想像力が要求される創造魔法は使いこなすことはできないとは思うけれども…てか何勝手にスクロールの裏側に落書きしてんのよっ!?
そのペンは一体どこから出したの!?
「そういう事だ。其れを踏まえても俺にはやはりそれ以外には考えられない。いや、寧ろそれが良いんだ!」
「はぁ…わかったわよ。それでミコトが納得するなら…」
「それで?この後はどうするんだ?」
「其れはね、こうするのっ!!!」
聖剣を片手に持ったままフレイヤがミコトの上空にスキルスクロールを投げ放ち、空いた片手を掲げて体中から柔らかな光を発してゆっくりと宙に浮かんでいく。
「我、美と豊饒の神フレイヤの名を以て、彼の者に神々の恵みを与えましょう。」
「うをっ!?此れは…素晴らしい!!なんて美しい太刀魚の構えだっ!!!」
「だっ誰が太刀魚だっ!変なこと言ってないで黙って見てなさい!」
フレイヤを中心に風が吹き荒れ始め、柔らかな燐光がスキルスクロールに収束していく。
フレイヤがポツリと呟く。
「流石にあれだけの能力で送り出すのは忍びないからね。ごめんなさいっオーディーン様っ…バレませんように…」
スキルスクロールが燐光に包み込まれて刻まれた複雑な文様が一瞬で周囲に展開された。
展開された文様が複雑な文字列で構成された陣を描くように次々と形を成していく。
「神の祝福をっっっ!!!!!!!」
「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!!!!!!!!!」
展開された光の文様が一気にコトミの身体に収束し一瞬、激しい光が放たれた。
「どぉ?特に体に不具合はないかしら?」
「ああ。寧ろ力が漲ってくる。新たにこの身に宿った力が俺の中で躍動しているぞっ!!!」
力が漲る?何言ってんのかしら?
ああ…多分あれね、非日常的な光景を目の当たりにして無意識に感情が高ぶっているみたいな…
次第にミコトを包んでいた靄が晴れていく。
「ちょっ!?なんでまた全裸!?さっきまで羽織っていた衣は何処にやったのよ!!」
「馬鹿な。あんな仰々しい見せ場を見せつけられて此の身を覆い隠すなど論外だ。見てみろこのアブドミナル アンド サイをっ!」
両腕を頭の後ろで組みながら全身をこちらに向けて強くアピールするミコト。
その姿は一切の恥じらいが無い、あまりにも、あまりにも雄弁な勃ち…立ち姿だった。
「ちょっ!?ほんとに全部見えてるから!!!あ、アンタ何回ワタシに其れを見せつける気よっ!!!」
「あぁ…き、気持ち…イイッッ…!!!」
恍惚の表情に染まるミコトの眼は既に私を見ていない。
高ぶる巨大な象徴だけが、只真直ぐにワタシの方向を燦然と指し示していた。
「も…もういやあぁぁぁぁぁぁあぁっぁぁぁぁっっっ!!!!!」
「めっ女神ぃぃぃぃっぃいぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!!!!!!!!!!!」
ワタシは藁にも縋る思いで振り返り、その場で此れでもかと手を突きだすミコトを女神の間に置き去りにしたまま、親友ロヴンを求めて走り去っていった。
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