二話 新たなる1stサプライ

「もうワタシ、美の女神として生きていけないっ!!!!」


自分の神性に合うように選別した結果がまさかこんな全裸の変態だなんて…


「これじゃあワタシ、美の女神じゃなくて変態の女神じゃないっ!!!」


豪勢な椅子から崩れ落ちるように地に伏せた女神。


「確かに貴様が美しいのは認めよう。その健康的でありながらもキメ細やかな白い肌、女の魅力を体現した素晴らしいプロポーション、小ぶりのマスクメロンを搭載したかの如く豊満な胸。特にそのクビレだけでご飯五杯は軽くいけるだろう。だがしかしっ!」


「なんだよっ!というかアンタの大事な其れ!早くしまいなさいよ!ワタシは今悲しみに…」


「俺の朝食1stサプライを何処へやった!?出せ!!今すぐ此処に戻すんだ!!!!!」


「だからサプライって一体何なのよ…ああ、もしかして朝食の事?」


空気椅子のまま静止した状態で箸を握る男を見て何を欲しているかを察したワタシは指を鳴らしてイスとテーブル、そして数々の豪勢な料理を溜息を漏らしながら全裸男の前に出現させた。


「はぁ…これが最後のチャンスだったのに…まさかこんな変態を引き当てるなんて…」


目の前の料理を目を見開いて眺める全裸男。


「此れは…」


流石にここまで見せればあまりの驚きで言葉も出ないでしょう。


望み薄ではあるけれど、一応この男にも説明を…


あれ?なんか男の様子がおかしい。


「この…馬鹿野郎ーーーーーファッキン・ビッチっっ!!!!!」


突如、男がテーブルに両手を叩きつけ震えながら体を蹲ませた。


テーブルに配置させた数々の果実の宝庫や極上の果実酒がテーブルの上で飛び跳ね、奇麗に元の配置に戻っていく。


「な…何よ!アンタ、朝食が欲しかったんじゃないの!?」


「確かに今俺の目の前にある果実は極上の物ばかりだ。見ただけでその瑞々しさと新鮮さを雄弁に語っており、平らげてしまえば一日の必要なビタミンをすべて摂取することが可能だろう。」


「だったら何が不満なのよ!さっさと食べちゃえばいいじゃない!」


「此処のテーブルには最も重要な物が足りていない…」


「何よ…その重要な物って…」


ワタシは「美との女神」よ。その私が事、食において足りないものがあるなんて、聞き捨てならないにも程がある。


たんぱく質プロテインだっっ!!!このテーブルにはたんぱく質プロテインが足りていないっっ!!!」


「あー…もう…わかったわよ。」


再び指を鳴らして豆を茹でて塩を振った簡易的な料理を大きなボウルに入れて出現させた。


「おお…此れは…輝いてる!此のたんぱく質プロテイン、金色に輝いてるよっっ!!!」


空中に出現させた大きなボウルを落下前に素早く掴み取った男はまじまじと中身を眺めて恍惚の笑みを浮かべていた。


「もうさ…食べながらでいいから私の話を聞いてよ…」


「もぐ…んぐ…もごっ…ふぃふぃだろふいいだろうおれふぉもんも俺をこんなこふぉろにところによふほふはむ呼び出したむううふぁもんま理由はなんだ?」


「汚い!食べてから!お願いだから食べてから喋って!」


「んぐっ…素晴らしい。此れ程までの豆料理は初めてだ。で、俺をこんなところに呼び出した理由はなんだ?」


「取り敢えずこれで身体を隠してくれない?」


「おお…此れは失礼した。しかしこんな布きれ一枚ではなく、もっとぴっちりと肌にジャストフィッツした服は無いのか?」


「此処!女神の間!そんな物あるわけないでしょ!」


「先程の指慣らしフィンガースナッピンで出せないのか?」


「私は22世紀の猫型ロボットじゃないのよ!?」


「まあいい。あれだけのたんぱく質プロテインが出せるだけでも僥倖だ。さぁ、続きをどうぞ。」


取り敢えずは落ち着きを取り戻してくれたようだ。いかん…ワタシも落ち着こう。


でもちょっと待って。


ワタシって神様よね?なんで神であるワタシが此処までの事を無償でしてあげないといけないの?


気にしても仕方ない…か。


此方を鋭い眼で眺めながらボウルの中の豆を口に掻っ込んでいく男…まぁ見た目は爽やか青年という感じで其処まで悪くはないようだけど美男子と言う程ではないわね。


あの象徴には女として魅力を感じるところはあるけれど…


「コホン、まずは互いに自己紹介から。ワタシの名前はフレイヤ。「美と豊饒」を司る女神よ。貴方の名は?」


「俺の名前は更科 光尊さらしな みこと。現在は高校二年目だ。」


「ミコトね。そう呼ばせてもらうわ。」


「いいだろう。」


口元に親指を当てたミコトは素早い振りで右手を大きく振り払った。


指先で掬った食べ残しがキラキラと輝きながら指先から離れていく。


そんなカッコよく口を拭っても只食べかすをばら撒いているだけだからね!?


「此処に貴方を呼び出したのはある世界を強大な魔の手から救ってほしくて呼び…」


「良かろう。貴様、中々にお目が高いようだ。この俺の僧帽筋にその世界の命運を預けようというのだろう?」


「別にそういう訳じゃ…いや、まさにその通りよ!そのそーぼーきん?を見て貴方しかいないと思ったわけよ!」


はは…多分絶対無理よ。


でもここで話の柱を私が折れば上位神としての私の面目が丸潰れになってしまう。例えハズレを引いたとしても神として、最後まで足掻いてみせなきゃ!


「勿論、ただ貴方をその世界に解き放つわけじゃないわ。ここに並んでいるのは「神々の恩恵」。この中から好きな力を貴方に授けましょう。」


「ふむ…剣に槍、鎧か…この古ぼけた紙はなんだ?」


「其れはスキルよ。絶対的な力というものはないけれど色々な能力を習得することが出来るわ。でも私の神性が反映しているから攻撃的なものは殆ど無いの。」


創造魔法クリエイト幻惑魅了チャーム完全治癒フルヒーリングか…まだまだ色々あるようだな。」


「スキルに興味があるの?でもワタシの神性じゃ殆どがサポート系メインなのよ。だから戦うなら剣や槍の方がおススメよ。例えばこの創生の聖剣なんか特におススメで…」


カラン…


フレイヤが手に取った聖剣が甲高い金属音を立てて転がり落ちていった。


「いらんな。」


「だったらこの雷を纏う聖愴なんかは…」


カランカラン…


「下らん。」


こいっつはワタシの宝である聖剣や聖槍をまるでゴミの様に払い除けやがって…


イケナイイケナイ…とにかくあの世界に送り込むまではご機嫌取りで相手をしておかないと。


「じゃあ此れは?」


フレイヤが手にしたのは「暴食の鎧」と呼ばれるフレイヤの神性が委ねられた中でも創生の聖剣に次いで二番目に攻撃力のある攻防一体の鎧だ。


「うわおっも!はぁ…今はこんなに重いけど装備すれば重さは感じない筈よ!」


此れは狂戦士バーサク状態に陥るリスクはあるけれど、攻防どちらも兼ね備えたこの中で唯一の完全戦闘向けの武器と言っていいだろう。


「論外だ。」


必死に引き摺ってミコトの目の前まで運んだ鎧が押し倒されて今まさにワタシの目の前に覆いかぶさってきた!?


「ちょっと待って…ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!!!????ぐふっ!?…」


「何をしている。馬鹿か貴様は。」


「其れはこっちのセリフよっっ!!!!ワタシの至宝の数々をゴミの様に投げ捨ててっ!」


いくつかのスキルスクロールを手に取り眺めるミコトに流石のフレイヤも完全にキレてしまった。


「だったら大切に倉庫の奥底にでも閉まっておけばいい。」


「アンタの為にわざわざ持ってきたんでしょうが!!!それを酷い…こんな…」


苛ッッッ!!!!!


突如ミコトの眼から激しい輝きが放たれた。


「そうだったのか…それはすまない事をした。」


そっと手を差し出すミコト。なんだ、少しは良いところもあるじゃない。


「痛たた…ありがと…ってアンタ一体どこ見てんのよ。」


「引き締まった内腹斜筋から生まれるウエストライン、クビレ…良い曲線美ナイスカーヴィシャスだ。」


「アンタねぇ…一応これでもワタシは美の女神でもあるの。欲情するのは分かるけど少しは控えてもらえるかしら?」


「ふん、俺に欲情してほしいならばそのたるんだ上腕三頭筋トライセプスを更に引き締めることだな。」


「ちょっ!?あはっ!?やめて!?女神の二の腕を軽々しく摘まむな!!!アンタホントに馬鹿じゃないの!?」


くそぅ…最近ストレスの所為でおろそかにしていた二の腕をこれでもかと揉みしだかれたっ!


「こ…此れは此れで需要はあるのよ!?」


「違うな。そのたるみは貴様本来の腕ではない。どうせストレスだ何だと宣いながら暴飲暴食でも繰り返していたのだろう。」


「それは…その…」


「筋肉は嘘をつかんっっっ!!!!よく覚えておけ。」


何?なんでワタシが諭されてる流れになってる訳!?


「もういいから早く何にするか決めてよ…」

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