28 とある同窓会の会話(会話のみ)
「真由美君、酷く疲れてませんか? せっかくの同窓会なのだから、そんな辛気臭い顔してないで仕事の疲れを癒すために、昔話に花を咲かせるのも一興ですよ」
「そうよね……。でも、中々気分が上がらないのよ。飲んで忘れたくても頭から離れてくれないわ」
「ふむ……なるほど、そういうことですか。君のその反応から察しましたよ」
「そう。それにしても相変わらずね、全てを見透かしたような、見下したような視線は……。はぁ、ほんと鼻につくわ」
「自信の現れと思って褒めて下さい。人は自信がないと何事もできませんからね」
「はいはい、小言は沢山よ。それで、克哉は何を察したのかしら?」
「ふむ。確か、前に昇進に向けた重要な査定がある言っていましたね。だから、それが上手くいかなかったのではないでしょうか……と、まぁそう思ったわけです」
「……正解よ、と言っても半分だけど」
「僕の読みに狂いはありません――って半分ですか? 昇進に失敗したのでは……?」
「残念な自信家さん。失敗はしてないわ、寧ろ順調に昇進したわよ。そう、これ以上ないってぐらいにね……」
「当てが外れたということです……か。では、どうしてそんな浮かない顔を?」
「上手く行き過ぎて怖いのよ。まるで喉元にナイフを突き付けられて『ここから転落したくないだろ?』って言われてるみたい……上げてから落とす。そんなことがされそうで……」
「考えすぎじゃないですか? せっかく昇進したのなら喜ぶべきですよ。そして、次はどの席を狙ってやろうかと、野心を抱くべきですね」
「もう私達、いい大人なんだから。現実を見て堅実に誠実に生きる必要があるのよ」
「なんで悟ったみたいに……あなたらしくもない。以前はもっとギラついていたのに、やはり結婚できていないのが原因ですか?」
「克哉も同じでしょ……」
「僕は独り身が好きですから。その気になればいつでもいいですし、今は自分の足枷にしかなりませんから」
「はぁ……その物言い腹が立つわ。なんだか今日はいつも以上にね」
「ふふふ、すまないね。もう時期、僕にも転機が訪れるから、ついテンションが上がってしまうんだよ」
「転機ね~」
「ここだけの話、僕には売れっ子のスキャンダルをネタに他社の地位は約束されてるんだよ」
「またあくどいことやってるのね……って、スキャンダル?」
「どこの誰かってことは、言えませんが。普段からやたらと露出が少ないモデルで……何か裏があると思うのが自然ですよね?」
「……それを暴こうってことね」
「そういうことです。勿論、そんなことをすれば今の職場にはいられなくなります。けど、人気上昇中の子のネタさえ手に入れれば問題ありません」
「そ。昔からの付き合いがあるから、ひとつ忠告するけど……」
「なんでしょう?」
「無闇に詮索しない方がいいわよ。上手く行ってると、自惚れてる時ほど人は足元をすくわれるのだから……そう、私みたいにね」
「忠告感謝いたします。だけど、僕は失敗しませんよ。真由美君と違って感情に流されることもありませんし、全ては計画の中なので」
「さっきから真由美って……、もうそんな名前で呼び合うのもねー」
「そうか、じゃあ遠藤先生とでも言えばいいのかい?」
「好きにして。さて、私はもう帰るわ……。明日も早いし、疲れたから」
「そうかい。まぁゆっくり寝とくんだよ。そして、僕の華々しい結果でも影から祈っておいてください」
「はいはい。勝手に頑張りなさいよー。私は無難に生きることを心懸けるわ。その方が得が多いとわかったから……」
「ははっ。じゃあ僕は人を踏み台にする王道を行かせてもらいますね」
これは、とある同窓会の隅っこで行われた会話。
”王道”と口にした男性は、最後まで不敵な笑みを浮かべていた。
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