最終幕:エルフェンバイン王国の冒険
第154話 実家に向かって その1
再びの船旅。
今回は、さほどのハプニングはなく進むことができている。
いや、ハプニングがあると言えばあるんだが。
今、目の前に迫っている海賊船なんかがそうだろうか。
「おうおう、海賊じゃねえか。こりゃあ嬉しいね!!」
「全然うれしくないですねえ……!!」
喜色満面のアルディに対し、なぜか俺達と同行することになったカレンがため息をつく。
彼女、エルド教の大教会から、俺についていくようにという命令を受けたらしい。
なんで俺を名指しでなんだ。
「わたくしは今回も後ろに引っ込んでいますわね!」
やる気のないアリサ。
戦闘中に、うちのモフモフのブラッシングをするつもりなのか、片手には新調したブラシを握りしめている。
だが、今回の海賊はアリサの希望を叶えてはくれなかった。
なんと、後ろからも襲いかかってきたのだ。
「ヒャッハー! いい女がいやがるぜー!!」
「俺のもんだー!」
「いや俺のもんだー!!」
アリサ、黙っていればふくよかな美女だからな。
海賊たちが彼女に殺到しようとする。
船に鈎フックが取り付けられ、乗り込んでくるのだ。
「やれやれ、今回の海賊は数が多いね。そう言えばオケアノス海って海賊が多いんだったっけ。海賊だけで国を一つ作ってると聞いたことがあるけど」
「ほえー! 海賊さんだけの国ですかー」
俺とクルミで、のんきな会話をしながら海賊を迎え撃つ。
今回はスリングとはいかないので、ショートソードを使って乱戦かな。
クルミがマストにするすると上っていって、その真中ほどに足と尻尾を絡ませて、体を固定した。
おお、ゼロ族ならば柱が一本あれば、どんな場所でも射撃攻撃ができるんだな。
飛び掛かってくる海賊をショートソードであしらいながら、俺は感心する。
海賊、腕はあまりよろしくない。
彼らの
「うおおおー! ブラッシングの邪魔ですわよおおお!!」
アリサの咆哮が聞こえた。
彼女は、ローブの中から取り出したらしき、鎖付きトゲ鉄球を振り回している。
モーニングスターというやつだ。
あんなの常に装備してたのか……。
哀れ、殴られた海賊は二度と目覚めぬ夢の中。
意外にも、アリサはモーニングスターの名手だった。
当たるを幸いと、海賊達を次々に、野蛮な打撃の餌食にしていく。
怒りの咆哮を上げながら戦うさまは、さながらバーバリアンの女戦士だな。
よく考えたら、Sランク相当の司祭が戦闘訓練をしていないはずがない。
下手をすると、カイルに近いくらいの戦闘力があるな、アリサ。
俺はまたまた感心してしまった。
さらに、頭上から次々降り注ぐクルミの射撃。
海賊船に乗り移り、たった一人で海賊団を蹂躙するアルディ。
ラッキーヒットした弾丸が、海賊船のマストをへし折ったカレン。
近づいてくる海賊を、おざなりに吹き飛ばすブラン。
この船に俺達モフライダーズが乗っていたと知らなかった、海賊こそが被害者かも知れない。
「な、なんだよこの船! こんなつええ冒険者が乗ってるなんて知らなかった!!」
海賊の誰かが悲鳴を上げる。
いやあ、実に全くその通り。
生き残った海賊は、必死の形相で互いの船に引き上げていく。
『ふむふむ。では友を迎えに行ってくるチュン』
フランメが俺のポケットからにゅっと出てきて、巨大化した。
彼が向かったのは海賊船の一つ。
アルディに蹂躙された船だ。
そこで、彼を回収。
こちらに戻ってくる……なんてことがある訳がない。
「わはははは! 逃さんぞーっ!!」
『ふはははは!! 我らに歯向かったことを精霊界で後悔するがよい!!』
一人と一羽で、テンションが十倍くらいになった。
アルディが次々と、船を沈めていく。
フランメが燃やし、アルディがマストを切断する。
剣でマストが斬れるんだなあ。
あのコンビはなかなか凶悪だな。
俺がのんびり眺めているうちに、海賊船団は全滅してしまった。
すぐ後に、隠れていた乗客達が外に出てくる。
そして俺達の活躍の跡を見て、歓声を上げた。
「こりゃ凄い!! 海賊がみんなやられてる!」
「とんでもなく腕が立つ冒険者が乗ってたんだな! ありがとう!」
「ひええ、逃げられたんじゃなく、全滅させたのかあ。前代未聞だなあこりゃあ」
主にアルディがハッスルしたお陰だな。
俺はちょこちょこと海賊をあしらっただけだ。
船長や船員まで出てきて、俺達の活躍をねぎらう。
お陰で、モフライダーズの船賃が半額になった。
ブランのぶんで結構乗船料金を取られてたから、これはありがたい。
なお、ドレは乗り込んでも無料だった。
これって、船はネズミが大敵で、猫はネズミを取るからなんだそうだ。
ドレに言わせると、
『己はネズミを取るなんて下賤なことはしないにゃ。たまーにおもちゃにするだけにゃ。あいつら汚くて食べる気もしないにゃ』
だそうだ。
この別世界から来た猫は、グルメだからなあ。
最近では、毎日のようにチーズをむしゃむしゃ食べている。
船の上では新鮮なミルクが手に入らないから、チーズで我慢してやっているなんて言うのだが。
どう見ても、新しいグルメに目覚めているよな。
『ちゅっちゅ』
『あっ、ローズ! お前食べすぎだにゃ! これは己のチーズにゃ!!』
『ちゅちゅーい!』
『ほう、チーズとは面妖チュン。我もご相伴にあずかるチュン』
『来るなにゃ、スズメー!!』
船の上でも、モフモフ達は大変賑やかである。
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