第153話 ソラフネ山遺跡 その5

 下山すると、昨日からすっかり、偽モンスターがいなくなったという話で持ちきりだった。

 まだまだ、どこかに出てくるかも知れないので油断は禁物。

 しかし俺達モフライダーズは、神話返りが終わったことを知っている。


 このことは特に喧伝するまでもなく、徐々に人々に伝わっていくことであろう……。


「やりましたねー!! ワタシ達が! 神話返りを終わらせて来ましたねー! どうですねみなさ~ん!! エルド教は役に立ちますねえ! さあ、お布施をください! そして本部にもいい報告を送りますねー!!」


 カレンが大声で宣伝を始めた。

 そうだった!

 彼女のもともとの目的がこれだったのだ。


 港町で教会をあずかる司祭として、神話返りを見過ごしていた彼女は、立場的に大変まずいところにいたらしい。

 なので、汚名返上とばかりに大いに成果を宣伝しているのだ。


 まあ、これはこれで。


「なんかわたくし達、ダシにされてません……? ラグナ新教の司祭としてこれは見過ごせないんですけど……! ちょっとー皆さーん!! わたくし! ラグナ新教が頑張ったから神話返りが終わったのですわよー!」


 アリサが対抗心を燃やして、カレンの隣で叫び始める。


「ちょ! ラグナ新教は営業妨害ですねー!!」


「営業とか言って罰当たりだと思いませんの!? もっと真摯な信仰心をですわね!」


「エルド教! エルド教にお布施をお願いしますねー!!」


「ラグナ新教! 救いはラグナ新教ですわよー!!」


 賑やかである。

 人もわいわい集まってくる。


 だが、この騒ぎもいいことがあって、みんな神話返りが終わったのだと、知ることができている。

 人々の顔に明るさが戻ってくるのは、見ていて気持ちがいいものだ。


 話を聞いてみると、神話返りは群島国家全体に広がりつつあったらしい。

 ソラフネ山から、動物を偽モンスター化させる力が伝わって行っていたと考えると、今度はそこからモンスターが周囲に向かって消えていく流れが生まれていることだろう。


 アリサとカレンが白熱の宣伝合戦を繰り広げているので、彼女達はこのまま置いておくことにする。

 今重要なのは、船の出港予定日を確認することだ。


 港で水夫に聞いてみると、


「クラーケン騒ぎが収まったから、近々船が来ると思うよ。なんか神話返りも収まるんだって?」


 噂がもう、ここに流れてきたのか。

 早いなあ。


「どちらにせよ、普通どおりになったら船はバンバン来るぜ。三日くらい経てば、あんたらも船に乗れるだろうよ」


「それはありがたい」


 いい加減、実家に向かう船に乗りたいところだった。

 海に出たと思ったら、アータル島と群島国家だもんなあ。

 しかもその気は無いのに大立ち回りをしてしまった。


「船はもうすぐ来るですかー! 今度はどこに行くですかねー」


 クルミが楽しそうに尋ねてくる。


「次に行くなら俺の実家かな。クルミをみんなに紹介しないと」


「はわ! そうだったですか! センセエのお父さんとお母さんに会うですね! 楽しみですねー」


 緊張というものを知らない子である。


「アルディ、ここから先はしばらく、荒事は無さそうだが……」


「構わないぞ。というか、セントロー王国の外でいつまでも平和なんてことはねえと思うがね。リーダーについていけば、絶対に何か事件が起こる」


「や、やめてくれえ、恐ろしいことを言うのは」


 アルディの言葉に、俺は震え上がった。

 俺は基本的に、平和主義者なのだ。

 そこに、次々と事件が起こるので解決していたに過ぎない。


 我が故郷、エルフェンバイン王国。

 森と草原の実に平和な国のはずだ。


 少なくとも、俺が旅立った時はそうだった!


 俺がうぬぬぬぬ、と唸っていたら、アリサがさっさと乗船券を手に入れてきてしまっていた。

 もう船が出られるようになっていたのか!?


 話を聞いてみると、どうやらクラーケン騒ぎや神話返りのせいで、ずっと出向できなかった客船があったそうなのだ。

 どうやら神話返りが終わったらしいということで、この機会を逃さずにすぐさま出向するのだとか。


 今度の船は、しっかりとした客船だ。

 きっと何事もなく、平和な旅を楽しめることだろう……。


 いや、そういう時に限って、何かしら起こるのが今までの倣いだ。

 いやいや。

 いやいやいや。


「センセエ、何してるですか? 早く行くですよー!!」


 クルミに手を引っ張られながら、俺は船へと乗り込む。

 後ろから、ブランが鼻先でぐいぐい押してくる。


「分かった、分かったよ! 乗り込むから!」


「センセエ、クルミはですね、センセエと一緒なら色々大変なことが起きたって楽しいですよ! ずうーっとセンセエと一緒だったですからねー」


「そ、そうかい?」


「そうです!」


『わふん』


 どうにかなるさ、とブランが笑った犬のような顔をする。

 かくして、俺たちは群島国家を後にした。


 船はゆっくりと陸を離れていき……。


 港には、なぜかたくさんの人。

 俺達を見送りに来たのでは無いのだろうが、久方ぶりの客船の出港だから、それを見守りに来たのかも知れない。


 誰もが感慨深げだ。

 群島国家サフィーロは、再び動き始める。


 案外、俺達がいなくなった後で、モフライダーズの活躍が人々の口に上るようになるのかも知れないな。


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