第125話 モフき者、汝はフェニックス その2

『汝ら、精霊王の寝所を荒らさんとするならば、我が汝らを討つ』


「やる気だぞ」


 俺は警戒して身構える。

 相手の大きさは、胴体だけでもブランに匹敵する。

 つまり、翼を広げたらとんでもない大きさということだ。


「センセエセンセエ」


 これにどうやって対抗したものか。

 正攻法では難しいだろうな。

 あれが書物で読んだ通りの不死鳥フェニックスだとしたら……。


「センセエー」


「なんだいクルミ」


 クルミが俺の背中によじ登っていた。

 これでは身軽に動けないじゃないか。


「あのですね、あれはフェニックスっていうですか? なんかモフモフしてるですよ」


「モフモフだと……!?」


 よく見てみる。

 なるほど、上空に留まるこの真っ赤な怪鳥は、確かにもっこもこのモフモフだった。


「いけるか……!?」


 俺の持つユニークスキル、モフモフテイマー。

 マーナガルムのブランをテイムし、外の世界から来た猫クァールのドレをテイムし、別の世界から来たネズミであるカーバンクルのローズをテイムした。

 炎の不死鳥フェニックスであっても、いけるのではないか。


『ちゅちゅ~!』


 俺の肩の上、つまりクルミの鼻先辺りで、そのローズが勇ましく鳴いた。

 幸運を授ける彼がいるなら、いける。

 やってやろうじゃないか。


 それに、空から行動できるようになれば、アータル対策も完璧になる。


『むっ! その肩の上の獣……! ただのネズミではあるまい。強い気配を感じる。そして汝……!! なんだ、この汝を見ていると湧き上がってくる得も言われぬ感情は……! 汝は危険だ!』


「気付いたか、そして感じたか」


 俺はクルミをぶら下げたまま、体勢を低く構えた。


「それは、君が俺にテイムされうる存在だという証だ。俺はモフモフテイマーのオース。君をテイムする者だ!」


『大精霊である我を、人間ごときが!? あり得ぬ! そして不敬なり!! ここで焼け死ね、人間!!』


 フェニックスは嘴を開くと、そこから炎を吐き出した。

 一直線に俺に向かってくる炎。

 このままでは直撃だ。


 だが……。


『ちゅっちゅーい!』


 ローズが俺の肩で飛び跳ねた。

 その瞬間、俺の全身を包み込む光。


 それで何が起こったという訳でもない。

 ただ、フェニックスの炎が俺を外れて、火口に落ちていっただけだ。


『外した!? いや、外された!』


「分かってはいたけど、冷や汗をかいた……。ローズは頼りになるなあ」


『直接我が仕掛けるしかないか! 行くぞ人間! 火口に突き落としてくれる!』


 叫びとともに、急降下してくるフェニックス。

 とんでもない速さだ!


 俺はこれを、横合いに跳びながら躱す。

 背中でクルミが尻尾を立てて、何やら風向きをコントロールしてくれているような。

 人を一人背負っているのに、スムーズに動くことができた。


 それに、フェニックスの狙いもこころなしか甘い。


『ぬうっ! 我の狙いが逸れる! そのネズミの仕業か!』


『ちゅちゅーい!!』


 勇ましく相手を挑発するローズ。

 俺はこの隙に、スリングを取り出している。


「来た! センセエのとくいわざー!」


「ああ。本気で行くぞ。だからちょっと降りてくれクルミ」


「ハイです!!」


 背中が軽くなった。

 そして、クルミもスリングを取り出す気配がする。


 ダブルスリングで行くとするか。


 俺たちは、数々の冒険での経験から、魔法の石を幾つもストックしている。

 ただ、フェニックスは想定してなかったから、氷属性の氷晶石は用意してなかったな。


 フェニックスは再び舞い上がり、俺達を目掛けて急降下して来た。

 近づくと、結構な暑さを感じる。

 あのモフモフの羽毛が熱を発しているのか。


「クルミ、伏せ!」


「はーいっ!!」


 後ろでクルミが尻尾ごと、ぴったりと地面に張り付いた。

 俺はぞんざいに身をすくめるだけ。

 それだけで、フェニックスは狙いを誤って通過していく。


『ええい、狙いをつける類の攻撃はどれもダメか! ここは我の戦場だと言うのに!』


「ああ。ローズがいなかったらすぐやられてたな。だが、俺はテイマー。テイムしたモンスターの力まで含めて、俺の強さだからな」


 最近、完全に割り切れるようになってきた。

 通過した後のフェニックス目掛け、雷晶石を叩きつける。


 バリバリと、電撃が弾けた。


『ぬぐわーっ!』


 フェニックスが叫ぶ。

 怒りに燃える目が俺を睨んだ。


 いいぞいいぞ、もっと近づいてこい。

 触れられる距離まで来い。


『人間ごときが生意気な……!!』


 よし、フェニックスが接近してきた。

 近距離で、尾羽根を振り回してくる。


 熱っ!?

 尾羽根が燃えている。

 これは、触れたら大やけどじゃ済まないぞ。


 触れられる程度の至近距離での戦いでは、ローズの幸運も作用しきれないようだ。

 幸運が介入できる要素が少なくなるということだな。

 それだけ、フェニックスが近距離での戦いに高い技量を持っているという証左である。


 俺はギリギリのところでフェニックスの攻撃を躱しながら、機会を伺う。

 嘴が、鉤爪が、尾羽根が、間断なく俺を攻めてくる。

 こいつは手数が多い。俺だけじゃ、とてもじゃないが隙を突けないな……!


「だがフェニックス、一人お忘れじゃないか」


『何っ!?』


「行くですー! とりゃー!」


 フェニックスの背後で、じゅわーっと盛大に水蒸気が上がった。


『ぬわーっ!?』


 背後に回り込んだクルミが、水袋を叩きつけたのだ。

 高熱で一気に水が蒸発し、フェニックスの視界を奪う。


 よし、チャンスだ!



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