第123話 流れ着くのは炎の島 その5

 見事にサラマンダーの大群を撃退した俺達を、島民の喝采が迎えてくれた。


 てっきり、なんてことを! と言われると思っていたが……。


「ああなったアータル様は、島民以外見境がなくなるって言い伝えられているわ。じーっと黙って何年も過ごすしかないけれど、あたし達だって食べるものは必要だし、外の世界との交流だってあった方がいいでしょ? アータル様が鎮まるなら、それに越したことはないの」


「思ったよりもドライだった」


「炎の巫女は半分アータル様と一体になってるからね。あっちの気持ちも分かるの。これってただ駄々をこねてるんだよ」


 炎の精霊王アータルは、大きい赤ちゃんみたいなものということか。


「いっつも、どうやってアータルさんは静かになってるですか?」


 おおっ、クルミが解決方法を聞いてくるとは。

 成長したなあ。


 炎の巫女エレーナはうーん、と唸った。


「時間が経つと、炎を出し切って静かになるの。あたしの代だとこれが初めてだけど、百年に一度くらいは暴れるみたいなのね。んで、三年くらい暴れるって」


「なんと迷惑な。だが、そうして炎を出し切ると静かになるはずが、今回は島を割りかねない、と君は話してたみたいだけど」


「そう。なんかねえ、今回のアータル様、かなり炎を溜め込んでるみたいで……ほら。山の一部が崩れてるの分かる?」


 エレーナが指差す先で、確かに山の一角に崩落した跡がある。

 どうやらあれは、アータルが最初に暴れた時に壊れてしまった場所なのだとか。


「なんでなのかよく分からないけど、今回のアータル様は凄く荒れてるの。島が割れちゃったらあたし達はおしまいだし、困ったなあって言ってるところにみんなが来たってわけ」


「ははあ、これは俺達の責任は重大だ」


 なんとなく炎の島に流されてきたけれど、島民の命が掛かっている件なんじゃないか。

 俺達には金がある。

 なので、趣味でこういう人助けをする余裕があるのだ。


「話は決まったか? 俺としちゃ、いきなり山登りしてアータルを攻めてもいいんだが」


 アルディがバーバリアンじみたことを言う。

 辺境伯をやめたこの姿こそが、彼の素なんだろうなあ。

 サラマンダー戦も楽しかったようで何より。


「まあまあ。俺のやり方は、アータルの弱点を見つけてそこを突くことだよ。今、アリサに探ってもらってる」


 少し離れたところで、島民達に見守られながら、アリサが神聖魔法を使っていた。

 精神集中に必要だと言って、ブランに寄りかかってモフモフに埋もれながらである。

 絶対必要ないだろ。


「本当にでかい犬だなあ」


「やっぱりモンスターなんだろうか」


「さわりたーい!」


「これ! 食べられちゃうよ!」


『わふん』


 失敬な、人間はよっぽどことがなければ食べません、と抗議するブラン。

 これを見て、ドレが『にゃにゃにゃにゃにゃ』と笑ったので、ブラン怒りの前足でころんと転がされた。


『うにゃー!』


『ちゅちゅちゅっ』


 俺のポケットから、ローズが飛び出してくる。

 そして腰から肩へと駆け上がってきて、耳たぶをもみもみし始めた。

 大変くすぐったい。


「どうしたんだい、ローズ」


『ちゅっちゅ』


「あ、なるほど」


 最近、ローズの言わんとすることもだんだん分かるようになってきた。

 ローズ、赤ちゃんから子供へと成長をしてるのかも知れない。


 彼が意図するのは、自分をアリサの上に乗せてくれということだった。

 ローズの力とは、運命とか幸運を操るもの。

 確かに、ローズの力を借りればアリサの魔法も効果を高めることができそうだ。


「よし、よろしく頼むよローズ」


『ちゅうー』


 ローズは頷くと、スッと小さい前足を差し出した。

 うん?

 なんだい?


「はい、お駄賃の木の実ですよー」


 クルミが小さいナッツを手渡すと、ローズが『ちゅ!』と嬉しそうに鳴いた。

 そして、ナッツをもぐっと頬袋に詰め込む。


「報酬を要求していたか……」


「ローズは上手におねだりできるようになってるですよ!」


 どうやら、げっ歯類の先輩としてクルミが彼に教育していたようだ。

 餌付けとも言うのだろうか。

 仮にも、因果を操る強大なモンスターのはずなんだが。


「ま、いいか。やる気になってくれたようだし。アリサ、ローズを受け取ってくれ」


「ローズちゃんを!?」


 アリサがくわっと目を見開いた。

 そして両手を差し出してくる。

 ブランに深く埋もれたまま。


「モフモフから離れる気はないということか……! はいどうぞ」


『ちゅー』


 俺の手からアリサの手へ、ローズがちょろっと移動した。

 アリサは彼を大事に受け取ると、胸元にぽんと乗せる。


「あっ、なんだか目標の姿がクリアになりましたわ!!」


 目を閉じ、アリサが叫ぶ。


「見えます、見えます! サーチする力が、わたくしにアータルの核の在り処を教えてくれますわ……! これは……胸元に……卵……?」


 卵?

 なんで卵?


「アータルの卵?」


「精霊王は増えないってば」


 笑う炎の巫女エレーナ。


「でも、それってあたしら炎の民には嬉しいことかも。あのね、属性の精霊王と、属性の竜はセットなんだよ。土の精霊女王レイアには地竜、風の精霊王ゼフィロスには風竜、水の精霊王オケアノスには水竜。なら、炎の精霊王アータル様には?」


「火竜ってことか」


「そう! 先代の火竜はとても強かったと聞くけど、あたしのご先祖でもある魔王に倒されちゃったんだよね。でも、多分新しい火竜が生まれようとしてるんだと思う」


 アータルの中から、次の火竜が生まれるわけか。

 だからこそ、炎の精霊王が荒ぶっている。


「つまり、アータルから卵を取り出せばいいんだな。それが今回の俺達、モフライダーズの目標だ」


 やるべき事がはっきりした。

 炎の島を救い、新たな火竜の誕生を手助けするために、行動開始と行こう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る