第122話 流れ着くのは炎の島 その4
サラマンダーを誘い込みながら、海岸へ移動する。
奴らは俺達だけを狙っている。
炎の精霊王アータルの意図を汲んでいるんだろう。
サラマンダーは八本足の真っ赤に灼熱したオオトカゲという外見。
速度はそれほどでもないと思ったのだが……!
『フシャーッ!!』
鋭い呼気を漏らしながら、一匹の大きなサラマンダーが跳躍した。
その後ろに、他のサラマンダーが口から炎を吹き出し、叩きつける。
サラマンダーがどんどん大きくなり、こちらへ向かってくる速度が加速していく。
なんだあれ!?
「こりゃあまずい、追いつかれるぞ。ブラン!」
『わふん!』
うちのマーナガルムが振り返った。
だが、ブランより先に歩み出るのがいる。
「ここは新入りにやらせてくれよ。いやあ、こんな状況、セントロー王国にいたら一生出会えなかったぞ。本当にお前と一緒に旅をしてよかった、オース」
アルディが迷いのない足取りで、落下して来るサラマンダーの下に進んでいく。
おいおい。
あんなものに、体一つで挑むつもりか。
「恐らく俺は初めて本気を出す。行くぞ!」
アルディは気合のこもった一声とともに、剣を抜き放った。
虹色の欠片が埋め込まれた剣が、七色の軌跡を描く。
そこを目掛けて、サラマンダーが炎を吹き付けてきた。
「はぁっ!!」
アルディの剣が、サラマンダーの炎のブレスを叩き切る。
剣で、ブレスを!?
さらに、落下して来るサラマンダーの鼻先に一撃を叩きつける。
落下の勢いは止まらない。
そしてアルディは進む。
サラマンダーがみるみる開きになっていった。
真っ二つになった辺りで、散り散りの炎になって消滅する。
「ふうーっ! 思いつきだったがやればできるもんだな」
額の汗を拭いながら、アルディが戻ってきた。
「とんでもないな」
「いや、俺は所詮、剣を振れるだけの男だ。切っ先が届く範囲でしか戦えん。一度に数を相手にはできないから、後はお前に任せるぞオース」
「よしきた」
俺は浜辺へと走りながら、スリングを用意した。
くるくる振り回し、駆け寄ってくるサラマンダー目掛けて雷晶石を連続投擲。
雷晶石が弾け、ばちばちと電撃を放った。
『フシャー!』
『フシャシャー!』
サラマンダーは目を細めて、速度を緩める。
そして、次には目を見開いて『フッシャー!!』と叫ぶ。
怒った怒った。
アータルの命令も忘れてか、奴らは一直線に俺を目掛けて突っ込んでくる。
「よーし、ブラン、俺を乗せて海の上!」
『わっふわふ』
傍らを走っていたブランが、俺の襟首を咥えてひょいっと上に放り投げた。
見事に、ブランの背中に着地する。
そのまま、雷晶石を投げながらサラマンダーを誘導だ。
ブランがざぶざぶと波を掻き分けながら行くと、ここで流石にサラマンダーも我に返ったようだ。
彼らの天敵である水がたくさんある。
『フシャ……!?』
彼らの足元で、水蒸気が上がる。
濡れた砂浜と足の炎が打ち消し合っているのだ。
『シャ……!』
慌てて、サラマンダーは戻ろうとした。
「ブラン! 小舟をひっくり返して、いっぱいに水を!」
『わおん!』
「それを思いっきり、かち上げろー!」
『わふーん!』
俺達が乗ってきた小舟を、ひっくり返して海水で満たす。
それを上空にぶっ飛ばして、頭上から海水をばらまくのだ。
『フ、フシャーッ!?』
サラマンダーが頭上からの水を受けて、じたばたした。
動きが途端に鈍くなっていく。
「クルミ!」
「はいです!」
クルミは水袋を、ぶんぶん振り回している。
それをサラマンダーの一匹の頭目掛けて放り投げた。
狙いは正確。
サラマンダーは顔面に海水をもろに浴び、頭部がみるみる消滅していく。
半分ほどの大きさになったところで、サラマンダーの全身が散り散りの炎になり、消えてしまった。
「ええっ!? まだまだ体は残ってましたのに、どういうことですの!?」
「現象としての炎ならば、核というものは無いかも知れない。だが、それが生物の形をとって動き出したら、必ずその動きを制御する部分があるということだよ。サラマンダーの表情の豊かさを見たかい? 彼らは知性があるし、その知性の源は表情豊かな頭部にあると考えるのが妥当じゃないかな」
俺はリュックから取り出した予備の水袋を、次々に海水で満たしては投擲している。
みるみるうちに、サラマンダーの数が減じていった。
逃げようとする個体は、アルディが後ろから仕留める。
弱点関係なく攻撃できる彼は、かなり強力だな。
俺がとれる作戦の幅がぐんと広がる。
「これは、わたくしの出番はなさそうですわねえ」
「ああ。アリサには、サラマンダーが消滅するところをしっかり観察して欲しい。同じような核となる部分があのアータルにもあるはずだからね」
俺が目線を向ける先には、火山の火口から半身を乗り出し、こちらを睨みつけている用に見える炎の巨人の姿。
「頭じゃありませんの……?」
「頭にしたって、サラマンダーとは大きさが違いすぎる。頭だけでロネス男爵の屋敷より大きいぞあれ。正確に場所を特定しないとな」
「責任重大ですわね……!!」
アリサは苦笑しながら、サラマンダー達の観察を始めた。
そう、一見して頭を全体的に攻撃しているように見えても、サラマンダーは頭部の半分を失ったところで消滅する。
つまり、その半分に核があるということだ。
アルディの攻撃でも、尻尾や足を切り離してもサラマンダーは消滅しない。
彼の一撃が首や頭に及んだ時のみ、一撃で消滅する。
どうやら彼も、その法則性に気付いたようだった。
「本当だな! 精霊も形を持てば弱点があるってわけか! なるほど、あのでかぶつにも勝てそうな気がしてきたぜ」
サラマンダーに剣で一方的に勝つ時点でおかしいけどな!
やがて、俺達がサラマンダーの群れを一掃した頃。
アータルはその姿を消していたのだった。
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