幕間 噂と、Sランク冒険者の帰還

 アドポリスのあちこちで、噂になっている。

 大量発生した、呪いを振りまく恐ろしいモンスター達。

 そいつらを相手に、冒険者のパーティも苦戦を強いられていると。


「見たか?」


「見た」


「あの真っ白なでかい犬に車を引かせてる冒険者な」


「ああ……」


 彼らは、アドポリスに連なる町を守る兵士。

 それなりに訓練されているとは言え、強力なモンスター相手には歯が立たない。

 ゴブリンやオークまでならなんとか。


 だが、この町を、先日バジリスクが襲ったのだ。

 視線で人を石化させ、毒を撒き散らして人を殺す。

 悪意の塊のようなモンスター。


 討伐依頼が出され、それを受けてきた冒険者パーティは、その日のうちに石化した。

 後続で来たパーティは、大打撃を受けて戦えなくなった。


 町の人々は絶望に沈む。

 町を捨てて逃げるべきか。


 だが、そこへ、真っ白な大きい犬がやって来た。

 犬が引く車から、リスのようなふわふわ尻尾の少女と、美しい司祭の女性、そして見るからに腕利きっぽい槍使いの戦士が降り立った。

 最後に、中肉中背の優しげな顔立ちの男。


 また冒険者が来たのか。

 だが、彼らもまた、バジリスクには歯がたたないかも知れない。


 それでもなんとか。

 なんとか、あのモンスターを倒してくれ……!


 町の人々はそう願った。

 そして、冒険者達はバジリスクに挑む。


 到着したその日の事である。


「いやあ、まさかなあ……」


「ああ。まさかだった……。到着して30分でバジリスクを片付けて、そのまま去って行っちまった」


「しかも、あの優しそうな顔の兄ちゃんがたった一人でやっつけたよな? あれ、何をやったんだ?」


「ええとな、説明してもらったんだけど……『バジリスクの視線を誘って、そこに手鏡を置いた』んだと」


「なんだそりゃ?」


 バジリスクの視線には、強力な石化の呪いが乗っている。

 それはあまりにも強く、本体であるバジリスクすら石化させるのだ。


 故に、視線を誘導され、それを的確に反射させられたバジリスクは石化した。

 石になったところを即座に、粉々に砕かれた。


 粉になったバジリスクは回収され、一部は石化した町人や冒険者を戻すために使われ……。


 その日のうちに、バジリスクを文字通り粉砕したパーティは去っていった。


「人は見かけによらないって本当だよなあ」


「あんな優しそうな兄ちゃんなのになあ」


 兵士達がそんな話に興じていると、これを聞いていたらしい冒険者が目を丸くした。


「ご存知ないのですか!?」


「え、ご存知って」


「彼こそ、Sランクパーティ、ショーナウン・ウインドを抜けて自らのパーティを立ち上げた、真のSランク冒険者……オースなのですよ!」


「Sランク……!?」


 冒険者界隈で、Aランクと言えば超一流の冒険者を指す。

 そしてその上に存在するSランクとは、言うなれば国家への多大なる貢献を果たした名誉ある者か、あるいは国家の切り札たる最強の者を指し示す事になる。


「あの兄ちゃん、そんなにアドポリスに貢献してたのか……」


「強そうには見えなかったもんなあ」


「……ですが、オースさんは、たった一人で何度もバジリスクを倒し、それどころかソロでデュラハンすら討伐する人物ですよ。この間もパーティを引き連れて、Aランクパーティを壊滅させたデュラハンを、到着した翌日に討伐したそうです」


「翌日に……!?」


「仕事早すぎだろ……」


「ってことは、待てよ。もしかしてあの人、アドポリスの切り札みたいな冒険者なのか……!?」


「ええ……。人は見かけによらねえ……」


 まさしく、その通りである。


「だけどよ。最近のアドポリスはどうなっちまってるんだ。あんな恐ろしいモンスターがあちこちに出てきてよ」


「ああ。しかも今、アドポリスの中心だとアンデッドが出まくってるんだろ? 行方不明になった人達が、次々アンデッドになったりしてて……。外に逃げだすやつも増えてるって聞くぜ。これでモンスターがまだ野放しだったらやばかっただろ、これ……」


 兵士たちの話に、冒険者は頷いた。


「確かに……。ですけど、オースさんと仲間達……モフライダーズがモンスター討伐依頼は解決してますし。それに、彼らはどこへ向かって行ったか分かります?」


「どこって」


「ああ、確かあっちは、アドポリスの都だな!」


 兵士達の顔が明るくなる。


「あの人らが行ったんなら、なんとかしてくれるかも知れないな!」


「ええ、そうです! きっと彼らなら、このわけのわからない状態も解決してくれるに違いないです……!」


 このような光景は、どこの町でも見かけられるようになった。

 アドポリスを暗雲が覆い尽くそうとしていたのだが、それはモフライダーズによって払われていたのだ。


 そして都市国家の中心たるアドポリスにて、決戦の時が近づいている……。



 だがその前に。

 オース一行は、新たなモフモフと邂逅することになるのである。


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